第43話 カツ丼と告白?


 雪野と店内に入り、真ん中にあるテーブル席に座るやいなや、雪野は開口一番に『カツ丼定食大盛り』と注文する。


「どんだけ早く食べたいんだよ」

「温森くんは、ゆっくり選んで大丈夫」

「言われなくてもそうさせてもらう」


 とは言ったものの、カツ丼とかの揚げ物は時間がかかるし、雪野くらいスピーディーに選ばないと早くメシにありつけない。


 とんかつ屋とはいえ店内のメニューはかなり充実しており、メインのカツだけじゃなくて、唐揚げ定食や海老フライ定食なんかもあった。


 どれにするか……ん?


 みぞれ唐揚げ定食にあんかけ唐揚げ定食?

 そういうのもあるのか。


「温森くんもカツ丼にしたらどう? 残してもわたしが全部食べ——」

「すみませーん、みぞれ唐揚げ定食一つ」

「むぅ……!」


 雪野はまた怒った顔をする。

 ちゃっかり俺の分まで食べようとする強欲さ……これが保健室の天使だとは誰も思うまい。


「さも当たり前のように俺の飯を狙うな」

「狙ってないっ」

「はぁ……みぞれ唐揚げ、雪野にも分けてあげるから機嫌直せよ」

「みぞれ……せっかくの油物なのにさっぱりしてそう」


 雪野はみぞれ唐揚げの写真を見てボソッと呟く。


「ったく、舌がおこちゃまだな。みぞれ唐揚げの美味さが分からないとは」

「お、おこちゃまじゃないもんっ! みぞれ唐揚げ食べるしっ」


 雪野はムキになりながら、お冷をグビっと飲み干す。

 今日は怒ってばっかだから喉が渇いたんだろう。


「そういや雪野ってさ、初めて会った頃より感情を表に出すようになったよな?」

「そう……?」

「ああ。初めて会った頃なんて——」


 全く表情を崩さないし、クールで物静かな女子だと思っていたが、抹茶を食べてそのイメージが一気に変わった(崩壊した)。


「前まではお淑やかって感じだったけど、今は猪突猛進、みたいな?」

「もぉ……それ、どういう意味?」

「怒るなって。でも俺は、今の雪野の方が自然な感じがして好きだし」

「……っ」


 さっきまでぷんぷん丸だった雪野は、急に赤面して俺の分のお冷までグビッと飲み干した。

 お、おい、それ俺のお冷だったんだが……。


「わ、わたしもっ、温森くんのこと」

「ん?」

「す——」


「お待たせしやしたー! カツ丼大盛り定食とみぞれ唐揚げ定食っす! 伝票置いときますねー」


 意外と早めに到着したカツ丼定食とみぞれ唐揚げ定食。

 赤味噌の香りが漂う味噌汁からは湯気が立ち昇る。


 うっまそう……じゃなくて。


「雪野、何か言おうとしたんじゃ」

「むしゃむしゃっ」


 雪野はカツ丼に顔を突っ込みそうな勢いでカツ丼を食していた。


 はぁ……ダメだこりゃ。

 こうなった雪野はノイズキャンセリング機能が発動しているため、制御が不能。

 雪野が何を言おうとしたのか分からないが……ま、メシに負けるようなことなら大したことじゃないんだろう。


 俺はみぞれ唐揚げの大根おろしを崩しながら唐揚げを一口食べるのだった。

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