第27話 たこ焼きLOVE


 メンチカツとコロッケを食した後は谷中銀座をぶらぶら歩く。

 谷中銀座は東京都内でも有名な下町スポットでもあるため、観光客も多く混み合っていた。

 歩いてて雪野が人にぶつからないか心配していた俺だったのだが……。


「温森くん、あのたこ焼き食べたい」


 俺の心配などつゆ知らず、雪野は相変わらず食べ物にばかり目が行ってしまっている。


「お前さ、完全にダイエット忘れてるだろ」

「忘れてない……でも食べたい」

「矛盾してるだろ」

「矛盾じゃない……至って普通な生理的な現象」

「それがただの食い意地だっての」


 そう言いつつも、雪野がどうしてもたこ焼きを食べたいと言うので、俺は街角にあった店でたこ焼きを買う。

 アツアツで、小さく湯気の立つ6個のたこ焼き。

 ソースと鰹節の香りが最高に食欲を誘い、乗っている器にだらんと垂れるその生地が、中身のトロトロさ加減を一目で伝えてくれる。


 俺と雪野はたこ焼き屋の隣にあるベンチに座り、俺は雪野にたこ焼きを渡す。


「まぁダイエットは置いといて、今日頑張ったご褒美だ」

「いいの? スイーツもまだあるのに」


 やっぱスイーツは忘れてないか……。


「え、遠慮するなって」

「ありがと温森くん……はふはふ……あふいっ」


 雪野はたこ焼きを一つ口に入れたら、想像通りのリアクションをする。


「熱いんだからゆっくり食べろよ」

「うん……ふーふーしないと。ふー、ふー」


 雪野はたこ焼きに向かって優しく息を吹きかける。

 まさに天使のブレス。


「あ……温森くんの分もふーふーしちゃった」

「いや、俺は食べるつもりなかったけど」

「ダメ。美味しいから食べて欲しい」

「それならなんでふーふーを全体攻撃にしたんだよ」

「なんとなく。一つ一つふーふーするのめんどくさかったから」


 こんな事すら面倒くさがってたら先が思いやられる。


「温森くん……あ、あーん」

「は?」


 雪野は右手の爪楊枝でたこ焼きを一つ持ち上げると、左手を下に添えながら俺の顔に近づけて来た。


「な、何恥ずかしいことしてんだ雪野!」

「恥ずかしい? なんで?」

「そ、そりゃそうだろ! あ、あーんなんて……」


 それは完全にカップルの儀式だろ……!


「でも……お母さんがよくやってくれた」

「お母さん?」

「貧しい時、お母さんは自分の分もわたしにあーんしてくれた。食べ盛りだって」

「そっ……か」


 雪野の過去のエピソードは聞くたびに反応に困る。


「分け合いは大事。この前温森くんがクレープをくれたお礼だから、ほら、あーん」


 雪野のたこ焼きが近づいて来る。

 し、仕方ない……これはあくまでシンプルな分け合いであって、深い意味はないもんな。

 俺は雪野から「あーん」でたこ焼きを食べさせてもらった。


「ん……っ! このたこ焼き、めっちゃトロトロで美味いな!」

「ふふーんっ」


 雪野は鼻息を荒くして見るからにドヤ顔をした。

 いや、お前が作ったんじゃないだろ。


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