第5話 父娘
S級パーティー【ロイヤルワラント】は王都に凱旋していた。
未踏破ダンジョンを完全攻略して危険度評価が決まり、一般冒険者が立ち入れる様になるとダンジョンから魔物の素材や魔石の採集、そしてうまくすれば宝物の発見がある。
それらは付近の街を潤し、最終的には王都へと還元されるのである。
その困難なミッションをこなして帰還した【ロイヤルワラント】が英雄として、民衆から称賛されるのは当然の事といえる。
それと民衆が喜んでいる理由が他にもある…それは【ロイヤルワラント】が王国御用達のパーティーなのに、ほとんど王国に寄り付かないからである。
表向きは
「此度は、未踏破のダンジョン攻略ご苦労であった」
玉座からロデール王が労いの声を掛けた。
「ありがたきお言葉、痛み入ります」
ライオット姫が、パーティーを代表して応える。
「さてと…堅苦しい挨拶はこれぐらいで良いであろう。久しいなライオットよ」
玉座の間に整列していた貴族らからざわめきが聞こえるなか、パーティーメンバーと共に片膝をついて恭順の意を表していたライオット姫が顔を上げると、
「お久しぶりです父上…少々お聞きしたい事がありますので、この後お時間頂けますでしょうか?」
「ライオットからのお誘いか?嬉しいの~執務室でゆっくり話そうではないか」
と言うや否や、ロデール王は玉座から立ち上がり豪華な金の刺繍が入ったマントを翻して、颯爽と玉座の間から出て行ってしまった。
執務室に置かれた皮張りのソファーにちょこんと座った
(いや~、師匠にこのパーティーに入るように言われた時には、こんなこともあるのかな~とは思ってたんすけど、ボクなんかがホントに王様にお会いする事になったっすね~。まあ、その娘さんには毎日会ってるんすけどね…ところで、ライオット姫が王様に聞きたい事ってなんすかね?)
タムタムがのんきに自分の考えに
玉座の間にいた時とは服装が異なっていて、実務的な雰囲気を醸し出している。
「いや~待たせたね。堅苦しい正装と雰囲気は苦手なんだよ。ところで、そちらの可愛らしいお嬢さんは誰だったかな?」
(んん?なぜボクの事なんて王様が気に留めるっすか?)
タムタムがようやく我に返ると、執務室にはロデール王とライオット姫、そして自分しかいない事に気づいた。
(ええええええ~~~~~~!なんすかこれ、聞いてないっすよ!なんで他の人達いないんすか~?)
「パーティーメンバーのタムタムです。
「そうかそうか、それは良かった。それでなぜ今回は一緒に付いて来ているのかな?」
「……さあ?」
ライオット姫が首をかしげる。
(やっベーっすよコレ、なんとなく付いてきちゃったっす…テヘ!じゃ済まないっすよね~)
「そうか!ライオットが聞きたい事に関係しておるのだな?」
(おっと~、王様からのナイスフォローっすね。て言うか、ボクさっきから一言もしゃべってないっすよ)
「……そうね、関係してるかも」
(よっしゃ~!まさかの、ここにいるのが不思議ではない宣言っす~。ボクの首の皮繋がったすね~)
「なるほど…それでライオットは何を聞きたいのだ?」
「ベイカーのこと…」
(自分の身の安全が保証されたから余裕こけた訳じゃないっすけど、ライオット姫ってこんな不思議ちゃんぽい喋り方じゃなかったっすよね…まさか怒ってるっすか?)
「確か、ライオットの前のパーティーメンバーだったな。そのベイカーという冒険者がどうしたんだ?」
「いたよね…ここに」
(あ!王様の目が泳いでいるっすよ…わかりやすい人っすね~。跳梁跋扈の政治の世界でやって行けるんすかね?)
「いたような気がするかな~?」
「新しいパーティー作れって、タムタムのお姉さんのタムリンを紹介したよね?」
(え?初耳っすけど…リン姉、師匠のパーティーに入ったんすか、王国騎士団一筋かと思っていたっすよ)
「そんなことしたっけかな~?最近忙し過ぎて記憶にないかも…」
「ふ~ん?父上しらばっくれるんだ。調べはついてるんだけどね」
(あ~王様、冷や汗かきまくりっす。落ちるのは時間の問題っすね~、なんだか小動物みたいで可哀想に思えて来たっすよ)
「あ、思い出した!ベイカーには極秘任務を遂行してもらうために、パーティーを組んでもらったんだ。そうそう、やっと思い出したよ」
(苦しいっす苦し過ぎる言い訳っすよ…王様)
「どんな任務?」
「いや、極秘任務だから…ライオットにも言えないな」
「だから?」
「極秘だから…」
(もうヘビににらまれたネズミにしか見えないっすよ…王様)
「そう…極秘なのね。じゃあベイカーは今どこに向かっているの?」
「それも極秘に含まれちゃうかな~たぶん」
(あ!洩らす気満々っすね王様。たぶんなんて自分から言って、判断基準をあやふやにしちゃうんすね。この小心者策士!)
「言わないの……?」
「言います言います。ベイカーは今城塞都市に向かっているはずだ。魔王軍の動向を調査するよう依頼したからな」
(王様…全部洩らして、スッキリしたいい顔になったっすね~。スパイには絶対なれないっすね)
ライオット姫は、執務室のソファーから立ち上がると扉に向かって歩き出した。
「ところで、そなたは本当にタムリンの妹さんなのか?」
(おっと~、何もかも降ろしきって余裕の生まれた王様がボクに興味を向けたっすか?)
「ええ、そうっすよ」
「そうか…言ってはなんだが、身体のサイズに違和感を覚えるな。父上か母上が違うのか?」
「いえ、同じっすよ」
「ほう!きっとそなたの父上が、立派な体格をされているのであろうな」
「いえ、リン姉は母親似っす。ボクが父に似たんすよ」
「そ、そうか!それはすまなかったな」
「大丈夫っす、慣れてますから」
王様とボクの家族談義を楽しんでいると、
「タムタム、そんなのに付き合う必要ないから…さっさと準備を整えて出発するよ」
(おう!ライオット姫、王様に対して辛辣過ぎるっす。見事なドSっぷりなんすね。他のパーティーメンバーが、雲を散らす様にいなくなった理由がわかったっす…
こうしてライオット姫とタムタムは、ロデール王の執務室を後にしたのであった。
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