第3話 邂逅

 閉じていた目を開くと、リンネが凍りつく様な声で言った。

「ベイカー、何の用で来たのじゃ?事と次第ではおぬしであろうと容赦はせんのじゃ」

「幼女になっても、しゃべり方はおばあちゃんの時と変わらないんだね?」

「普段はあまりしゃべらんからいいのじゃ!いちいち年齢ごとにしゃべり方変えるのも面倒なのじゃ」

 凍てつくような空気をアッサリとかわされて、リンネが地団駄を踏む。

「タムリン、プロト、リンネと2人きりで話したいから、しばらく外で待っていてくれ」

 僕はそう言うと、じたばたしているリンネを促して丸太小屋に入れてもらった。


 テーブルを挟んで、リンネの向かい側に座る。

「早速だが僕らのパーティーに入ってもらいたい」

「いやじゃ」

「即答かい!」

「わらわはもう外の世界とは関わりたくないのじゃ!魔法の探究にのみ力を注ぎたいのじゃ」

「どこにも影響を与えない魔法の知識なんて無意味だろ?」

「わらわが愉しければそれで良いのじゃ」

「自己満足か~、ところで先代魔王の呪いの解除方法は見つかったのか?」

「それがわかれば苦労しないのじゃ」

 僕はふぅ~と一息つくと、

「現代の魔王に聞いてみる気はないか?」

「ふむ、それはちと興味が湧くのじゃ」

「そのためにもパーティーに加入して、旅に同行してくれないかな?」

「むむむ…相変わらず人の心を揺さぶるのが得意じゃなベイカー。じゃが、わらわは関わった人間が先に逝くのをもう見たくないのじゃ」

「現代の魔王には、不老不死の呪いを解除出来ないのかも聞くつもりなんだ」

「わらわの呪いは転生無限ループじゃぞ、不老不死ではない……まさか、ベイカーおぬしも呪いを受けたのじゃな!」

「ああ、現代の魔王が瀕死のきわにライオット姫に対して放ってな…かばいに入った際に浴びてしまったらしい」

「ん?現代の魔王は滅んでおらんのじゃろ」

「正直危なかったよ、ギリギリのところで転移魔方陣に叩き込んだ」

「また、魔王を討伐すれば世の中が良くなると勘違いする輩が出てくる様になったのじゃな」

「人間ってのは忘れっぽいからね」

「ふ~、茶でも煎れよう。飲むじゃろ?」

「ありがとう、結構しゃべって喉が渇いたところだよ」


 僕はリンネの煎れてくれた熱いお茶を啜ると、ほっとため息をついた。

 湯気の先にニコニコと上機嫌に笑う顔が見える。

「ベイカーおぬしも仲間じゃの!いや~おんなじ境遇のヤツがいるというのが、こんなに愉しいもんだとは思わなかったのじゃ」

「機嫌が良くなったところでパーティー加入の件、改めて考えてくれないか?」

「ん!いいのじゃ」

「軽っ!」

「ベイカーはわらわの前からいなくならないのじゃろう?そんな貴重な仲間となら、どこまでも道連れなのじゃ」

「ありがとう…早速でなんだが、この森から少し離れた村から冒険者ギルドにこんな依頼が出てたんで少し気になっているんだ」

 村からギルドへの依頼書をリンネに渡す。

「なになに…『身体中から血が噴き出して死ぬ村人が続出しているので助けに来てもらいたい 報酬は金貨1枚 ノルド村村長』…こんな報酬では誰も行かんじゃろ」

「治癒魔法使いのいるパーティーじゃないと意味ないしね、だけどリンネはその症状に覚えがあるだろう?」


 それは、僕がリンネと出会うきっかけとなった出来事であった。

 魔王軍との戦闘で遠征に出ていた王国軍の部隊が、原因不明の疾病により全滅したと王都に伝令が伝わった事により始まった。

 S級パーティー【ロイヤルワラント】はその名の通り、王国御用達の冒険者パーティーである。

 ロデール王の娘であるライオットが、リーダーなのがその大きな理由なのだが…

 即座に調査と原因究明、そして対処を任命された【ロイヤルワラント】は全滅した部隊の遠征地へと旅立った。

 旅立ってすぐに、僕は回復者ヒーラーのモナと魔術師ウィザードのニッキーに呼び出された。

「ベイカー、お願いがあるんだけど」

 食いしん坊のモナが真剣な顔で言って来た。

「大丈夫だよ、調査にどれだけ時間がかかるかわからないから、糧食は余裕持って用意してあるから」

「違うわ!いやそれも大事だけど…」

 僕はモナが食べ物以外の相談があるなんて、思いもしていなかったので驚愕した。


「いや、驚いて固まってるベイカーも面白いからいいんだけど、話しが進まないから…」

 ニッキーが、僕を揺さぶって現実に引き戻してくれる。

「実は今回の調査と原因究明って、おいらとモナじゃあ荷が重そうなんだよね、実のところ」

「え、だって2人は魔術師ウィザード回復者ヒーラーのジョブ持ちの中でもトップクラスだろ?」

「それはそうなんだけど、王国軍の部隊を丸ごと全滅させる様な疾病は今までに聞いたことがないんだよ」

「それに実戦に出てる部隊なら軍医や衛生兵、治癒魔法使いもいたはずなんだよ。どんな過酷な状況にあっても、通常なら全滅はあり得ないんだ」

「なるほど、異常事態な事はわかった。僕は何をすればいい?」

「遥かな時を生きる伝説の魔女様を捜し出して、連れて来て欲しいの」

 モナが両手を組んで懇願する。

 僕は食事の前のお祈りと同じ仕草でモナにお願いされると、これから食われるんじゃないかと恐怖しつつ、

「伝説の魔女様がいる場所の情報は何かないの?」

「ホント都市伝説の様な方だから…噂でしか聞いたことないんだけど、王国内の目立たぬ森にいるぐらいしかわからないのよ」

「わかった、じゃあ捜しに行ってくるね。その間の食事はメンバーの持ち回りでヨロシク!」

「ダメ!それはダメかも…でも伝説の魔女様も大事…あたしが餓死する前に戻って」

「戻ったらモナのスタイルが良くなってたりするのか?とりあえず行くわ、姫様を頼んだぞ」

 そう言うと、僕は伝説の魔女捜しに出発した。




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