29 -***
「ケプシャルを今すぐここへ!」
程なくしてケプシャルが
ケプシャルは2人居る***の右腕の1人である。
ここまでずっと「***」としてきたが、それには理由がある。それは一部の者のみが発音可能の特殊言語の名である事と、恒星系の神は全宇宙で信仰者が多く名を呼ぶ事すら無礼に当たると考えられ直接、名を呼べる者は少ない。
「エスターゼ・ラニサプ様、お呼びいただきありがとうございます」
呼ばれた側近であるケプシャルは眼前の王をそう呼び平伏する。
この国の者であっても本当の名は発音ができない。けれども現在のメイン言語で発音するのであれば、それが近いらしい。
「ケプシャルよ、面を上げよ」
「はっ!」
側近中の側近の2名のみ、1度目の「面を上げよ」で顔を上げるのを許されている。
「事情は知っているな?」
「はい、小国の生意気な王を潰す計画でございますね」
「そうだ。神であるわしの手紙に対し即時の返答をしない時点で不遜である」
「しかも現世の1つに関与をしているとか」
「
「なんと図々しい」
「現世で人間をしている者と婚姻関係にまであると聞いた」
「只の人間風情が少々強い程度で神にのみ許される特権に手を出すとは!」
しかも、と前置きをした後に言葉を続けた。
「前皇帝は利口な奴で、
「無礼が過ぎますね。エスターゼ・ラニサプ様のお怒りは最もでございます」
「おかげで生ける
「自ら献上しないのであれば、力有る上位格から奪われるのは当然でございます」
月光国はまだ建国して数年である。前皇帝から今の王が収めるように変わり、国民にとって住み良く平和になったがハーララにとってそれは、好ましい事態とは言えない。前国のアスパーとハーララは体裁上では友好国であったが、実際は
「その思い上がりは王本人と、王に加担する者や全国民を罰し正さねばならぬ」
「なんなら王亡き後、ハーゥルヘウアィ・ララの属国にするのもよろしいかと」
「無条件降伏の上で入信を迫り、拒否する者を公開処刑にするのも楽しみだ」
「そいった娯楽は必要でございます」
「それに我が国の奴隷階級の下に新たな位を設けてやれば貧民共の不満も減る」
この神は自分以外の神を認めない。
神は全世界に1人で良いと考え、己こそが相応しいと心から考えているのだ。
神々は多くいるが、他の神を従わせたい思惑をラニサプは持っている。現世と呼ばれる世界は、地球だけでなく知的生命体が住まう星々全体を指す。中には星に住む者全てがエスターゼ・ラニサプを信奉している世界も存在している。それは現世に関わり異端者を徹底的に潰した結果だ。
最も、他の神々もそれを好ましく思っているわけではないので、
しかし戦争をしかければ互いに無傷では済まないのを知っている。少々、気に入らなくても神が神に宣戦布告する場合は圧倒的な力を得、絶対に勝てるとなった時しかない。ラニサプが動かないのはただ単に「今はまだ、その時ではない」というだけだ。
「わしが直接、行きたいが残念な事に色々と事情があってのう…」
「お察しいたします」
「そこで、お前には国家内部の破壊と新月丸蒼至の側近の抹殺を命ずる」
「光栄なお役目をいただき、ありがたき幸せ」
「武具も力の見せしめを兼ねる故、
「そのような栄誉をいただけるとは、私は本当に幸福です」
ナンラーサはラニサプが所持する武具の内、2番目に強いとされている。刃そのものが恒星と同様の熱を発せられ、街ごと全てを焼き尽くすのも可能と言われる恐ろしい武器。それの携行を許されたケプシャルはまさしく、ラニサプに近い力を発揮できるだろう。
「いつ、向かいましょう?」
「あの小者はフリーゾーンを呑気に渡って来ていると聞いた」
「それなら最低でも1週間程は国に王不在となりますね」
「そうだ。その間に、内部を破壊し城内に居る者全てを滅殺せよ」
「はっ!」
「やり方は任せる。何をしても良い」
「仰せのままに」
しばらく間を置き、ラニサプは歪んだ笑みを浮かべる。
「美しい者は即、奴隷として連れ帰るのも許す」
その意味をケプシャルはよく知っている。
それに対しても丁寧に返事をし、用意を始めた。
(これは久々に愉しめそうだ…)
自分より弱い者をいたぶるのは愉しい。
圧倒的な力で
それは力有る者に与えられた特権なのだから。
力無き者は力有る者に搾取される為だけに存在している。
少しだけ能力を有する者は力有る特権者が利用する為に存在している。
———それを認めぬ者は排除対象。
———準備をしなければ。
国交が無く
あの国には美人で有名な女が側近に居るはず。それを
用意を早々に済ませ、後はフリーゾーンを一気に抜ける為に捕虜を1名、連れてくるだけだ。
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