09 -神の感情 王の意志
緊張した表情でクレアが渡してきた手紙…いや、これは手紙と呼べる代物ではない。
自分はお前より遥かに高みに居る、という自信と力の強さから日頃の不遜さが滲み出ている命令書だ。
俺以外の者。クレアやタロウがこれに触れればピリピリとした
俺が
そう。
俺の行動全てがあいつにとって嫌なのだろう。「神ではないくせに生意気だ」なんて思っていてもおかしくない。だから、俺に仕えている者には中身を読まなくてもそれを理解させたいが為、そういったものを込めた手紙にしたんだよな。
権力を得た奴というのは
とは言え、俺も気付かずそうなる可能性が今ならある。
…自戒も必要だな。
それはともかく、だ。
リックが生きている世界とこの世界は地続きではない。
通常であれば
しかし、その力をあの世界で使って何の得があるだろう。
変な奴扱いされる。
スピだなんだとバカにされる。
視える事で金を得ている奴も居るが、それも完全に市民権を得ているとは言い難い。
最大の問題はそれで金儲けをし始めてから、その力を失う者が少なからず居る事だ。全員が力を失うとは言えない。でも、どういうカラクリで力を失うのか金儲けと能力喪失の因果関係が解らない以上、
けれどその才を使わずあの世界で幸せになるのは不器用で世渡り下手なリックにとって難しい。
俺は
リックを助けるのと同時に、そう遠くない未来に起きる人類絶滅の前に
あの世界の連中が大嫌いな俺は積極的に参加する。
中身を消してやる、なんなら消すより酷い方法で罰してやる。
しかし
つくづく嫌な奴だ。
そんな事を考えながら手紙として送りつけてきた命令書に目を通し終えた。
それとほぼ同時に
「どうするのですか?その手紙」
とタロウが抑揚の無い声で聞いてきた。
タロウは自分の席に座り不服と不安が混じったような顔で俺を見ている。
几帳面な性分のタロウの机は綺麗に整頓され飾り気は無いが使いやすそうだ。俺は自室や机周りをけっこう散らかしてしまうから、その綺麗さはちょっとだけ羨ましい。
今はまだ国が落ち着かない。連日多く処理しなければならない書類や陳情書。そして区画整備等地の整備を指揮する仕事に追われている中で舞い込んできたこの手紙は色んな意味で厄介だよな。
「あ〜…面倒くせぇよな。俺が少し関わったくらいであっちの世の中は大きく変わらんし、こっち側にも変動を起こさねぇのに」
「面倒くさくても無視はできませんよね?」
クレアが少し心配気に聞いてくる。
クレアは俺がこの国を統治し始めた時、1番最初に国政に参加してくれた第一秘書だ。
ここらの国々では多くの者が知っている超名門校を首席で卒業。
第一志望の就職が叶わず他を探していた時、知り合いから紹介され俺も国へ誘った。
元々志望していた国の皇帝と俺は友人だから事情は知っている。
優秀で是非とも来てもらいたかったが、ちょうど人が足りていて募集をしない年の卒業だったそうだ。
それでも志願してきたクレアを他の国に取られるのは勿体無いと判断した
クレアが居なければ、国の統治は俺1人でままならなかっただろう。
ま、そうなったらなったで王に相応しそうな人を探し、俺は今まで通りのんびり過ごす生活を送ろうと思っていたんだけど今となっては来てくれたのは幸運だった。
出来たばかりの不安定な国に仕事量に見合わない薄給で応じてくれ、最も大変な時期を支えてくれている。
俺より国の統治に向いている、と思う場面がある程にしっかり者なので、いざとなれば王になってもらおうかと密かに考えている。
今回の件は緊張や不安があるかもしれないが王を代わってもらうにはこういう経験も必要なので、いざって時の為に今回の件で少しでも慣れてくれれば良いなぁ…なんて思っているのは心の内に置いておこう。
「無視はしないけど俺はリックの手伝いを止める気は無いぞ」
手紙の内容を簡単に説明すると「
俺が
様々な手伝いをし仕事で金銭を得たり少しだけ天候を弄ったりするのも全てが気に入らない。
リックのごく身近な人間に、俺の存在を教えているのもお嫌な様で文から苛立ちが伝わってくる。
大体、あの類の連中の多くは身勝手なんだよな。
自分達は何かとあっち側に干渉している癖に他が干渉すると気に食わない。
あっち側で起きた歴史上の戦争や近年起きてる戦争紛争の多くも、お前達の干渉や教えが招いているだろうが。
俺がリックやその近辺の人に多少関与するくらい、あっちの世界に及ぼす影響はそよ風にも満たない程度だろ。
お前らを信仰する多くの信者共をひたすら己が決めた戒律に従わせ、時に残酷な行為すら正義としている癖に何言ってんだか。
己を特別な存在と思い振る舞う傲慢さを持つ奴が俺は大嫌いだ。
クソが…
俺は心の中で言う。
クレアやタロウがクソなわけじゃないから言葉にして発することはない。
けれども心の中の苛立ちが言葉に少し出てしまった。
「クッソ面倒だが返事はちゃんとするよ。お前の言う事を聞く気はない、俺に干渉してくんな。と返してみるか」
「思いっきり喧嘩売っていますよね」
「そんな伝え方で大丈夫ですか?」
「んじゃなんて返せと?俺は手伝いを止める気はないし、毎晩リックの横に寝に行くのもやめないからな」
なんとも子供みたいな言い方だと俺も思った。
そんな俺を否定しない2人はとても優しく理解がある。
「王がリックとの関わりをやめるわけがないのは重々、承知しております。ですので、その旨を含めた丁寧な言い方で私達が文を考えます」
「そうしたほうがいいわよね…王だと直球で返しますよね?」
「今伝えたまんまを手書きで返すつもりだが?」
…お前ら不服が顔に出過ぎてるぞ、と言おうと思った所で「それは絶対にやめてください」とクレアの強い口調が返ってきた。
王はやはり、こういう感じよね…素直に「関わりません」なんて返すはずがないもの。それに私もリックとの関わりを絶ってほしいと思っていない。
「王である俺が手書きで返すのが良い案だと思ったんだけどなぁ」
王は字が綺麗とは言えない。
それを自覚していて、わざと手書きで返すと言っている。
きっと雑に書き散らかした文字で先の言葉をそのまま返すのよね。
更に余計な一言二言を書き添えて。
側近として近い位置で王を見てきた私にはそれが手に取るように解ってしまう。
「…わかりました。では、リックへの関わりを止めないとする内容を含め、私達で丁寧に返信を送らせていただきます」
それが現段階で可能な最善の策と私は思った。
「余計な仕事をさせるのは悪いし俺が書くぞ?」
王はそう言うけれど裏の思惑がある上に、あの手書きで返事を送られた日には却って面倒事が増えるのが火を見るよりも明らかなのよね。だから「いいえ、王はリックの手伝いと私達がお願いする仕事だけ、お願いします」と強く強く、伝えた…けれど、その数分後。
「俺ならこんな返事を送るぞ」と手書きの紙を渡してきた。
捨てるようなボロ紙になぶり書きの文字が踊っている。
文書はやっぱり口で発するそのままに書かれていて「あなたの礼儀はどこへ行ったの?」と真顔で問いたくなったわ…
「仕事も立て込んでいるだろうし、それを送ってやってもいいからな」
そう言う王は手紙にとても自信有り気な態度。
私は受け取った紙を無言で丸め捨て「言いたい事は承知しております。安心して私達にお任せいただき、くれぐれもご自身で書簡を飛ばされないようになさってください」と再度、強く強く…本当に強く、伝えリックの所へ向かう王を見送った。
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