第86話 猫探偵爆誕
メイヴィスにマルスはどうだったか尋ねられた。
「まぁ、悪い子ではないにゃ。ただ、若干お花畑感があるようにゃ?」
メイヴィス「お花畑?」
「王になるにしては、綺麗事、理想論が多い気がしたにゃ」
「あでも、教えればちゃんと聞くみたいだから、ちゃんと教育すれば良いにゃ」
メイヴィス「やはりそう思うか…」
「ってまさか、俺に教育させようと考えてるにゃ?! 俺は御免にゃ、そういうのは国でちゃんと教えるべきにゃ」
メイヴィス「いや、別にお主に教育して欲しいとは思っておらんよ。大体、お主、帝王学なんて教えられんじゃろ?」
「言われてみればそれもそうにゃ」
メイヴィス「この世界はほとんどの国が専制君主制じゃ。地球の民主主義の常識とは相容れない部分も多いじゃろ。まぁ参考になる部分も大いにある、取り入れるべきは取り入れるが……民主主義には欠陥も多いからの」
メイヴィス「専制君主制というのは、トップが賢いならば理想的な制度じゃよ。ただ、トップに誰が立つかは非常に重要な話になるが。愚かな王を戴けば、大変な事になるからの。あのマニブール王国のようにな…」
メイヴィス「…じゃが、今は皇帝の後継者は直系はマルスしか残っておらん。幸いマルスは頭は悪くない。ちゃんと王宮で教師をつけて教育はしている。してはいるのじゃが…」
「じゃが……?」
マルスは、教えると素直に聞くし、理解力も有るのだという。説明を聞くと、一見、納得してくれたように見えるのだ。だが…後日、ふとした拍子にピントの外れた、本当に理解したのなら言わないような事を言い出す事があるのだそうだ。
『それについては前に説明したはず』と指摘すると、それとは少し違う話だと言い、その後はその話題については避けるようになると。
メイヴィス「表面上理解しているフリをしているだけかと思い、教師達も色々質問をして理解度を確認しているのだが、マルスには期待する以上に深く理解する洞察力があり、理解については問題は見られないそうでな。皆、首をひねっておる状態なんじゃ…」
「……それは、盗聴器が着いてた事と関係あるにゃ?」
メイヴィス「盗聴器じゃと?!」
「前にメイヴィスがグリン(だったっけ?)に盗聴器を持たせていたと言ってたにゃ」
メイヴィス「グリスな。あれは盗聴器ではなく通信機じゃが」
「あの時、注意して確認して見たら、その盗聴器から微弱で細々と魔力の糸が出てるのが見えたにゃ。それと同じモノが、マルスが着けているアクセサリーにも繋がってるのが見えたにゃ」
メイヴィス「なんじゃと?! それでは誰かがマルスの会話を盗聴しているという事か?」
「にゃ。まぁ、その糸は切っておいたから、俺に会ってる間は聞かれてないと思うがにゃ」
俺は爪を一本出して見せながら言った。
「切ったあと、接続先を探すようにその魔力線が彷徨っていたので、結界を張ってキャッチされないようにしていたにゃ。デンパノ届カナイ場所におられるか電源がハイッテイマセン、ってにゃ」
メイヴィス「そうじゃったのか…。しかし、通信機に繋がる魔力の線がお主には見えるのか、まるで電波が見えるみたいな話じゃな。ケットシーの感知能力は、やはり、人間とは桁違いのようじゃな…」
「それにゃ。人間の街に来て分かってきたにゃ。人間は、魔力をあまりはっきり感じていないみたいにゃな?」
メイヴィス「うむ……魔力というのがあるのは感じているが、なんとなく感じる、という程度じゃな。お主は違うのか?」
「俺には魔力ははっきりと感じ取れるにゃ。それは曖昧なものではなく、はっきり分かるにゃ。色とか臭いとか形とか味とか色々にゃ。まぁ普段はあまり意識しないようにしているけどにゃ」
メイヴィス「しかし、マルスに誰かが盗聴器を仕掛けていると言う事か。早急に対策せんといかんな…」
+ + + +
メイヴィスから報告を受けた宰相がマルスの持ち物だけでなく住む離宮の中も極秘裏に調査させたが、盗聴器(通信機)はマルスが身につけていたアクセサリー以外は発見されなかった。(念の為宰相は皇宮内の調査も命じたが、幸い、皇宮内からも盗聴器は発見されなかった。)
さて、では盗聴器をマルスは誰に渡されたのか? という事になるが……
マルスには訊けば早いのだが、それをすると仕掛けた人間にもバレてしまう。そこで宰相はマルスには訊かず、そのまま持たせておいて魔力線を辿って受信者を特定する作戦に出た。
だが、この作戦は上手く行かず。結局、俺に泣きついてきた。
俺は簡単な事だと思ったのだが、魔力線は微弱過ぎて皇宮の魔道士達では追跡できなかったのだそうだ。賢者メイヴィスは良い線行っていたが、なにせ足が悪く機動力がなさすぎる。
『簡単にゃろ?』と言ってしまった手前もあり、俺はその依頼を引き受ける事にした。まぁ実際、俺にとってはごく簡単な仕事である。
俺は小柄な動物の猫の姿に変身して魔力を追跡する。(といっても服を脱いでサイズが小さくなるだけなのだが。)猫の姿なら身軽だし、どこを歩いていても怪しまれないからにゃ。
(時々、ネコ好きな人間が近寄ってきて触ろうとしてくるのがウザいが、素早く避けて逃げれば追っては来ない。)
マルス(のアクセサリ)に繋がっている魔力の糸を辿って歩いて行く。すると…
…辿り着いたのは皇宮に隣接する宮殿であった。
(後で聞いたらマルスの住む離宮だったらしいが、よく考えたら、間取りを一切知らない宮殿やら不案内な街へと一人追跡に出てしまった。犯人を見つけてもその所在を説明できない事に気付いたが、まぁなんとかなるだろう。)
俺は離宮の塀の上に飛び乗る。
結構な高さがあるが俺には関係ない。重力魔法で体重をゼロに近いくらいにしてしまえば軽くジャンプするだけで……おっとっと、飛びすぎてしまった。慌てて塀に爪を立ててブレーキを掛け、塀の上に着地した。無重力(に近い状態)というのは案外動き難いものだ。次は重力の方向を変えるか……いやあれは、“下”の方向があちこち変わって慣れないと目が回るし、速度の調整が難しいので、身体強化で脚力を増強する方向がよいか。
離宮の内部に侵入するため、塀の内側の着地点を確認しようとしたのだが、その時、離宮から出て来る男が見えた。そして、どうやら魔力線はその男から出ているようなのだ。
男は門から外に出てしまったので、後を追うため俺も塀から飛び降りる。
だが、無音で着地したはずなのに、男に気づかれてしまった。振り返った男は
しまった、ネコ好きか!
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