第62話 ウィンドカッターが飛んできたにゃ
■カイト
ワズローと名乗ったその騎士は、素早く剣を抜き腰を落とした。だが俺は城壁の上、
ワズローは剣を振る事で
ワズローの放ったウィンドカッターには相当な魔力が込められているのが感じ取れる。普通の人間なら両断されてしまうレベルだ。それがまっすぐ俺に向かってくる、直撃コースだ。酷いやつだな。当たったら死んでしまうだろうが…。
俺も爪を出し、
空中でワズローの風刃と俺の風刃がぶつかり相殺される。だが、相手の風刃は一つだけだが、こちらは四つ(爪四本分)だ。一つは相殺されて消えたが残り三つはそのまま飛び、ワズローの足元付近の地面を抉った。
それを見たワズローが少し引き攣ったように見えた。
「おい、酷い奴だにゃ。あんなのが当たったら死んでしまうだろうが」
ワズロー「死ぬくらいのは放ったつもりだが、お前はその程度で死にはしないだろう? というかお前だって俺に向かって風刃を飛ばしてきたじゃないか」
「当たらない軌道だったにゃ。反応できなかったみたいだがにゃ?」
ワズロー「…ふ、当たらない軌道だと見きっていたから動かなかっただけだ。いい加減降りてくるがいい。逃げようとしても無駄だぞ? もう背後も俺の部下が固めている」
ちらと後ろを見てみると、城壁の内側にも騎士達が何人か集まって見上げていた。
「お前の部下達に俺が止められるとでも? ってまぁ、逃げはしないけどにゃ。逆に訊くにゃ。お前達、逃げるなら追いかけはしないにゃよ?」
そう言いながら、俺はそこそこの魔力を込めて殺気を騎士達に向けて放ってやった。普通の人間なら失神してしまうくらいには強烈な【威圧】である。
だが、さすがは騎士達。ビクリとしたものの、倒れるような者は居なかった。(殺気に反応して思わず剣を抜いてしまっていた者も何人か居たが。それもまぁ、反応としては悪くないとも言えるか?)
「少しは鍛えているようだにゃ」
ワズロー「そ…その程度で臆するような者は我が騎士団にはおらんわ! 降りてこい、そして俺と戦え!」
「断る…と言いたいところだが、これを受けて耐えられたら相手しやってもいいにゃ」
ワズロー「? ……!!!!」
俺はもう一度、【威圧】をワズローに向けてぶつけてやった―――今度はワズロー一人に絞り、手加減なしに魔力を込めてである。
かつて森の深奥で出会った巨大な
― ― ― ― ― ― ―
ちなみに古龍との威圧比べは互角であった。そして、その後、古龍とは友達になった。
俺は古龍を食うつもりで戦いを挑んだのだが、古龍は人語を解するだけでなく、極めて高い叡智を備えた龍であったのだ。
そしてしばらくの間そこに留まり、古龍からいくつかの技を教わった。【威圧】も古龍の助言で洗練され、最終的には古龍に勝てるまでになったのだ。
― ― ― ― ― ― ―
巨大な古龍クラスの威圧となると、もはや単なる雰囲気などではなく、物理的な破壊さえも起こしてしまう強大なエネルギーである。現に威圧をぶつけられたワズローを中心に地面が少し窪んでひび割れている…
「おお、なかなか…かなり鍛えているようだにゃ」
森の奥の凶悪な魔物でも、これを浴びせられて逃げなかった奴は居なかった。普通の人間がこれほどの【威圧】を浴びせられたら心臓が止まってしまうだろう。だが、ワズローは剣を前に構え、なんとか耐えきってみせたのだ。
(余波で周囲の騎士達は全員倒れてしまっていたが。)
ワズロー「……! これは……かつてドラゴンと対峙した時にも感じた事がないほどの威圧……! これほどとはな……」
「ドラゴンと会った事があるにゃ?」
ワズロー「…ある。若い頃、修行のためにドラゴン退治に行ったのだ。下級種のドラゴンは何匹か斃したが、そこで上級種のドラゴンと出会ってしまってな。勝つ事はできなかったが良い経験であった」
「俺も会った事あるにゃ。ま、俺は勝ったけどにゃ」
ワズロー「……勝った?」
俺は城壁から飛び、ワズローの前に降り立った。
「じゃぁ、約束にゃ。相手してやるにゃ」
ワズロー「なるほど…。シックスやツォズ達が負けたのは当然だな」
「やめとくか? 俺は売られた喧嘩は買うが、関わってこないならどうでもいいにゃ」
ワズロー「だが、俺なら勝てる! 若く未熟だった俺とはもう違う! 今なら上級種のドラゴンにだって勝てる!」
「剣が得意みたいだから、俺も剣で相手してやるにゃ」
俺は亜空間収納に入れてあった自家製の剣を取り出す。これは生え変わって要らなくなった古龍の爪を貰ったので削って加工したものだ。(まぁ古龍の爪を削れる時点で、魔力を込めて強化した俺の爪のほうが強いんだがな。)
剣は龍の爪の形状を生かして作ったせいで、弓なりに反っていて内側が刃になっている、所謂“逆刃刀”になってしまったが。もちろん不殺の信念なんてものはない。
というか、たとえ峰でも本気で殴ったら普通に凶器だよな…。
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