第36話 領軍壊滅

騎士2「熱い! 鎧が加熱して火傷しそうです…!」

騎士1「モイラー殿、とても幻覚や錯覚には見えませんが?!」


モイラー「ううむむむ、確かに、目に見える火球は幻覚などには見えない…熱も確かに感じる」


モイラーの後ろのほうからも声が掛かり始めた。魔法部隊か?


魔法使い1「モイラー様!! なんですか、あの膨大な魔力は?!」


モイラー「…確かに、私も感じている、なんて魔力量だ……」


魔法使い2「なんですあの恐ろしい魔力は……あれではまるでドラゴンのようです…!」


魔法使い1「いや…あれは…あれほどの魔力量は、世界を破滅させる魔王ではないか?」


モイラー「…いや。いやいやいや! 惑わされるな! あれは幻覚だ! そう思い込まされているだけだ! 証拠はあるぞ、それは魔力が膨大過ぎる事だ! 冷静に考えてみろ、あんな量の魔力、現実感がなさ過ぎる! あんなちっぽけな猫人が出せる訳がなかろう!!」


「ちっぽけ? 大きさの問題にゃのか? ならこれならどうにゃ?」


俺は身体を大きくして見せる事にした。


俺は自らの様態を変化させる事ができるのだ。普段は二足歩行の大きめの猫だが、身体を小さくして完全な動物の猫のようにもなれるし、身体を巨大化させて猛獣のようにもなれるのだ。これは魔法というより、ケットシーの生来の能力スキルのようであった。


どんどん巨大化していき、小山のような巨大な猫になると、上からモイラー達を見下ろしてニヤリとキバを見せた。


騎士1「ひぃっ! 化け猫?!」

騎士2「おい、まさか本当に魔王なんじゃ…?」


モイラー「惑わされるな! あんな大きさの猫がいるか!」


「もう一度だけ、警告するにゃ。攻撃されれば反撃するにゃ」


俺は頭上の太陽から、溢れ落ちた一滴。それは地面に当たると大きく爆け、地に窪みを穿った。


「命令されて仕方なく従っているだけならさっさと逃げたほうがいいにゃ」


その言葉で兵士たちの何人かが後退りを始めた。そして、ついに走って逃げ出す者達が出始める。


モイラー「ばっ、逃げるな! 敵前逃亡は死罪だぞ! ワッツローブ伯爵軍の誇りを忘れたか!」


だが、逃げ出していく者達は止まらない。


逃亡兵「巫山戯るな! 俺達は安月給で雇われただけの平民だ! そんな誇りなんかあるわけねぇだろ!」


どうやら逃げていくのは服装からして街の衛兵達のようだ。彼らは雇われているだけで貴族でもないし伯爵に忠誠を誓っているというわけでもないのだろう。


「雇われてるだけなら逃げたほうがいいにゃ。アホな上司の命令で死ぬ事はないにゃ」


俺がそう言うと、まだ少し迷っていた衛兵達も全員一斉に逃げ出した。


だが、衛兵達が逃げ出しても、まだ兵士は半分ほど残っていた。彼らは衛兵達よりも良いモノを着ているように見える。おそらく貴族なのだろう。貴族というのは雇い主の上位貴族に忠誠を誓うものなのか? あるいは敵前逃亡など不名誉な事はできないという矜持でもあるのだろうか。それとも獣人ごときに負けられないと思っているのか、あるいは未だ本気で幻覚だと思っているのか……?


何にせよ、まだ戦意を喪失していない目つきをしている者が多い。


モイラー「錯覚に惑わされおって! 役立たずの平民など要らんわ! 臆せず攻撃だ! そうすれば消えるはずだ!」


モイラーが手をあげ、振り下ろした。すると残った貴族の兵士の中で弓を持った者達が一斉に矢を放ちはじめた。魔法使い達からも攻撃魔法が飛んでくる。


「シャー!!」


愚か者め。実力の違いを察して逃げるなら見逃してやるのに…命を掛けてその伯爵とやらに忠誠を尽くすなら、望み通りにしてやろう。


「攻撃してくるなら予告通り反撃にゃ!」


そして…


…俺の頭上の太陽のような火球が爆ぜ、無数の火の雨が俺の周囲に降り注いだ。


巨大火球は数千の火球に分かれ降り注ぎ、地面当たっては爆発し小さなクレーターを作っていく。


降り注ぐ火の雨に、逃げる間もない兵士達。あっという間に周辺は穴だらけになり、生きている者は居なくなった。


一人を除いて。


モイラーである。あえてモイラーにだけは当てないようにしておいたのだ。


「幻覚じゃないって分かってくれたかにゃ?」


モイラー「そそそそそそんなぁぁぁぁぁありえないぃぃぃぃ」


「やれやれ、いい加減現実を見ろにゃ」


俺はモイラーに向けて風刃を飛ばした。



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