第34話 感じる視線

今日もとりあえずいつも通り商業ギルドで狩った魔物の素材を売ったわけだが、以前狩った魔物が大量に亜空間に収納してあるためそれを出すだけで、実は最近はあまり狩りはしていない。


そもそも商業ギルドに現金がないという事で、小出しにしか買い取って貰えないし。


口座を作ってくれと時々言われるが、あくまで俺は現金に拘っている。実際に金がないのに口座に数字上記録して金を払いました、というのがどうにも信用できない。


まぁ、商業ギルドは組織としては国を跨ぐ世界的な規模らしいので、信用してもよいのかも知れないが、扱うのは人間だからな。末端の人間まで教育・統制が取れているようには見えなかったので、まだそこまで信用する気になれない。


商業ギルドからはレアな素材をなるべく卸してほしいようだが、レアな素材を出したら出したで現金がないとなってしまうので、結局意味がなく、そこそこの素材を小出しにしている。


先程素材を売った金を現金で受け取ったが全額ではない。いくら受け取るか金額は決まっておらず、毎回決めているのだが、今回は三分の一にした。残りの金? それはスラム街の支援に使ってもらうのだ。


現金を俺が過剰に溜め込んでしまうと市場に現金が不足する事になり、経済がおかしくなる。(多分、貨幣の価値が上がる⇒デフレが起きる……のかな? うろ覚えの経済知識なので微妙に怪しいが。)


そこで金をある程度市場に戻して回してもらうため、金を使う必要があるわけで。高価な本を買い漁ったり、高級な服を仕立てたり高価な食材や調味料を買ってみたりした。したものの…それでは追いつかないのであった。


事業に投資という話もあったが、俺はそこまで人間の街に関わる気はなかった。それに事業は、もし利益を上げれば再び俺の収入が増えてしまうことになるしな。


利益を産まずに金をばらまく必要がある。だったら最初から魔物の素材を安く売れば良いではないかと思ったのだが、商業ギルドの信用に関わるので、価値があると分かっているモノを安く買い叩くなどはできないのだそうだ。


そこで目をつけたのがスラムの支援である。スラムの解決は本来領主の仕事だが、この街では(この国では?)獣人が酷い扱いを受けており、獣人達のスラムを救済するという考え方はこの国の貴族にはないらしかった。(というか、意図的にスラムに獣人達を追いやっていたのだが。)


別に獣人だからと肩入れする気は俺にはない。もし仮にスラムに居るのが人間であったとしても、俺は支援したと思うしな。


本来なら、本気でスラムの問題を解決しようと思ったら、ただ金を恵んでやるのではなく、仕事を与えたりして生活を自力で立て直す手助けをするべきなのだろう。だが、この街では獣人にまともな仕事を与える事が禁じられていた。仕事を与えても、人間の十分の一以下しか賃金を支払ってはいけない。それでいて獣人に課せられる税金は人間の十倍なのだとか。


獣人達が働いて生活を立て直すなどできないようにされているのだ。


まぁそれでも俺には問題ない。金を使う事だけが目的だったので、ペイしても帰ってこない支払いはありたがい。


俺にはスラム問題を解決したいなんて気もない。ただ……幼い子供達が餓えているのは可哀想に思った。ので、食料や衣服を恵んでやっただけだ。


ついでに餓えていた大人達にも恵んでやったが、人間の街の問題は、街の住民と支配者が解決すべきで、外から来た俺が気にする事でもあるまい。






素材を卸し、俺が発注していた品と現金を受け取り、昼飯を食って、いつものルーティーン終了である。帰る。


商業ギルドのマスター、ヨニールに指名手配の件を知らされていたので少し注意していたら、どうやら監視されているようだ。だが、視線だけで、特に何かしてくる様子はないので放置していた。


仮に襲ってきたとしても特に気にしてはいない。蹴散らすだけである。なぜ俺がずっと街で舐めプをしているかというと、【鑑定】で人間達の実力が分かってしまっているからである。


森の深奥で狩っていた魔物の強さに比べると、人間の力はまさに巨像と蟻と言った差があったのだ。街の中ではおそらく強いほうだと思われる騎士でも、若干大きめの蟻という程度でしかなかった。


おそらく、俺が本気で攻撃魔法を使えば、このサイズの街なら一瞬で消してしまう事すらできる。


まぁ、油断はしないつもりだが。蟻だって、油断したら危険な事もある。強力な毒を持っている蟻だっているかも知れないし、小さいが故に、油断して体内に入り込まれたりしても厄介だ。軍隊アリのように膨大な数で圧して象を倒してしまう事もあるからな。


俺は防御の魔法を常に意識しつつ行動したが、結局、街の中で攻撃される事はなかった。


だが、攻撃は、街の外で待っていた。


街の門を抜けしばらく歩いていると、森に差し掛かる手前の開けた場所で俺は取り囲まれたのだ。


俺が出てくるのを外で待ち伏せしてたのか、御苦労な事だ。




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