第21話 なんか割れたにゃ?

「あ、そうにゃ、これを見せろと言われていたにゃ」


俺は商業ギルドで貰ったカスタマーカードを見せたが…


衛兵1「なんだこりゃ…?」


衛兵2「…おい、それは! …商業ギルドの重要人物証明書VIPカード!」


衛兵1「知っているのか?」


衛兵2「ああ、このカードを持っている者は、商業ギルドがお得意様として重要視している人物だ。しかもこれは、俺も初めて見るが、おそらく最上位のブラックカードだ」


衛兵1「へぇ…でも、商業ギルドだろう? 国や領主が指定した重要人物というわけでもないんだったら俺達門番には関係ないだろう?」


衛兵2「バカ、商業ギルドの力を舐めるなよ。俺は、昔居た街で……」


衛兵1「?」


衛兵2「……商業ギルドの重要な顧客を酷く扱って、結果酷い目にあった門番を知っている……」


衛兵1「酷い目? …それは一体…?」


衛兵2「街で一切の物を売ってもらえなくなった」


衛兵1「え…」


衛兵2「街の商店はほとんどが商業ギルドに登録しているんだ。そのギルドから指令が出れば逆らえないだろう? 売ってくれるのは商業ギルドに所属していない怪しげな非合法モグリの商売人だけになってしまった。それだけじゃない。商業ギルドは貴族にも顔が効く。不公正な扱いを領主に訴えたが、相手にされなかった……結局、俺はその街に住めなくなって、この街に移住せざるをえなくなったんだ…」


衛兵1「お前の事か~い」


衛兵2「商業ギルドは王族とさえ繋がりがある。敵に回さないほうがいい……」


衛兵1「そ、そうか……おい、通っていいぞ……いえ、どうぞお通り下さい……」


衛兵たちは何やら話し合ったあと、すんなり通してくれた。


だが、入るのにも出るのにもいちいち面倒になってきたので、次は門を通らないようにしよう。俺は空も飛べるし転移魔法も使えるから、いちいち門を通る必要もないのだ。






さて、どこへ行くと聞かれて森へと言ったが、特に行く決まった場所があるわけでもない。森の中で、俺は好きな場所で寝るだけである。


なので俺は暫くの間、街の近くの森の中に拠点を構える事にした。と言っても簡単な作業である。木を何本か取り除き、少し開けた場所を作ってそこにこれまで作った“家”を置けば完了だ。


木の除去も、【収納】してしまえば一瞬で済む。撤収する時には元の場所に戻してやれば森も元通りである。


いつもは小さな小屋を置いている。外見からは小さな掘っ立て小屋に見えるが…実は内部は空間魔法で拡張してあり、多くの部屋が収納されているのだが。


今回はかなり広範囲に森を切り拓き、少し大きめの屋敷を出す事にした。なんとなく、無意識の内に先程見た城郭都市を意識してしまったかも知れない。


場所は街にあまり近すぎないよう、例の古い廃道の近く、崖崩れで通れなくなっている場所の向こう側にした。これなら不用意に人間が尋ねてくることもないだろう。


俺は魔法で移動するので道路などなくても問題ないしな。


拓いた土地を土魔法で水平に調整し、周囲に壁を建てる。そして中央付近の地面を【強化】し、上に屋敷を置けば完成である。


今回は石造りの、地球で言う中世の石造りの建築をイメージして作った屋敷にした。別に城郭都市に対抗意識を燃やしているわけではない。(…すいません、少し意識はしてました。)


石造りの外装も、空間魔法や風魔法を駆使して様々な模様を彫り込み、オシャレに飾りまくってある。


……まぁ誰に見せる事もないのだがな。


屋敷は過去に作ったものだが、外壁は土魔法で毎回作るので、今回は城郭都市の防壁をイメージして少し高く頑丈そうな感じにしてみた。入口は特に作ってないが、必要になったら作ればいいだろう。


それから今日買ってきた調味料を早速試してみる事にする。なんだかんだ言って、結構テンションが上がっているようだ。


庭に土魔法で即席のかまどを作る。上に鉄板を置き、下に火球を浮かべる。


熱せられた鉄板に、収納の中から何種類か肉を取り出し、並べる。


焼き上がってきたところで、短刀で小さく切り分け、まず自家製岩塩にプラスして胡椒を掛けて口に入れてみた……


美味うみゃい…」


素材が良いので、そのまま素材の味を味わうのも捨てがたいが、やはり調味料の刺激が入るとまた違う味わいがある。


というかやっぱり胡椒は必須だったな。


それから、ハーブなども掛けてみた。風味が変わって面白い。まぁ結局、塩胡椒が一番好みであったが。


これまで作った果物や野菜をすりつぶしたソースを取り出し、胡椒を少し混ぜてみると、これまた美味い。


お酢も買えたので、そのうちマヨネーズなども作れるようになるだろう。


色々と楽しみが広がっていく。


当分はここで料理研究でもして過ごす事になるかも知れないな…。




  +  +  +  +




数日後、俺はまた街に行った。


商業ギルドに魔物の素材を売るためである。


ふわふわと空を飛び移動していく。実は俺は転移魔法も使えるので、一度言った場所なら瞬時に移動できるのだが、滅多に使うことはない。なぜって? 転移による移動は風情がない。そこまで急ぐ人生ではないのだ。


俺は、この惑星ほし? の手つかずな大自然の美しさが好きで、よく高いところから景色を眺めたりもしている。


前回は城壁の外に降りたが、今回は門を通るのが面倒だったので高空から直接街の中に降下した。


一応、【認識阻害】の魔法を使っているので、俺の姿は見えない(見えても意識に登らない)ようになっている。空から街に侵入するのは、やはりお行儀の良い行為とは言われないだろうからな。


だが…


降下していく途中、街の数十メートル上空を通過するときに僅かな衝撃を感じた。パリンとなにかが割れるような音もした気がする……




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