第17話 緑を喰らう者

 羽を広げ上空へ羽ばたく。

 一気にその高度は上体を起こした3メートルを超えようかというバジリスクの高さを超える。


「キルシックル」


 スキルの同時展開。

 右手に大鎌を顕現させる。


 黒き翼を持ち、鎌を構えるその姿は死神とでも呼べようか。

 ……いや、それは言い過ぎだな。


 さあ、いくぞ。

 羽を一回、思い切り羽搏はばたかせバジリスクへと滑空。

 空気の圧力が全身を包む。


 狙うは頭部、蛇王の所以と呼ばれる王の証。

 一気に刈り取るために鎌を思い切り振りぬく。

 

「外したか」


 バジリスクが咄嗟に体を仰け反らせたことにより狙いがずれる。

 俺の攻撃は王冠ではなく丁度顎のあたりにヒットする。


 刈り取った後、羽を使い急停止してバジリスクへと振り向きなおる。

 地へとへたたる体、宙へ舞うバジリスクの頭部が目に映る。

 しかし、舞う頭部にある冠は健在。

 すぐに赤い輝きを見せる。


 引力に引き寄せられるように体が頭部へと引っ張られ、やはり再生していく。


 やはり王冠以外はすぐに再生されてしまう。

 もう一度、次は外さない。


 羽を羽搏かせ、バジリスクを襲う。

 再生を完了させ、こちらへ振り向こうとするバジリスク。

 しかし、それよりも俺の速さが上回る。


 今度こそ、俺は鎌を横に振るう。

 バジリスクの反射よりもはやく、俺の鎌は確かに冠の感触を感じる。

 硬く、鱗のそれでもない。

 バリンと鉱石を砕く音が耳に入る。


 そのまま勢いに任せ、宙で身体をバク転旋回させる。

 再びバジリスクへ速度を上げ、体を捻らせ鎌を振るう。

 綺麗にまた頭部を刈り取り、勝負は決する。


 一つ息を整えそのまま上空でくるくると舞うバジリスクの頭部を見る。

 王冠のない頭部は発光することなく、再生の予兆を見せない。


「終わったか」


 地に体と頭部がドスッと落ち、砂塵が舞う。

 俺もゆっくりと着地し、スキルを解除する。


「――ん?」


 右上の討伐数がカウントされない。

 どうなっているんだ?

 討伐完了したはずだが……。


 まさか、まだ終わっていない?


 疑問を確かめるため、討伐したバジリスクの死骸を近づいて確認する。


 その目に輝きはなく、体も動く気配はない。

 やはり死んでいるようにしか見えないが。


「ロビン! あれ!」


 後方からレイの声が聞こえる。

 振り向くと指を指すレイの姿。

 その指の先に何あるのか?

 急いで指差された方を見る。


「なんだ?」

 

 そこには赤く輝く物質。

 先ほど砕いた王冠の形をした鉱石。

 それが禍々しい赤いオーラを放って輝いている。


 まさか……。

 

「オーガスタンプ!」


 急いで完全に砕くため、影の拳を鉱石に振り落とす。


「遅かったか」

 

 オーラが飛び出し、バジリスクの頭部へと吸収される。

 パリッと何かが割れた音がその頭部から発せられる。


「キルシックル!」


 今度は俺の足元近くにあるその頭部へと鎌を振り下ろす。

 しかし、獲物を捕らえた重い感触はなく、その鎌はなにもない砂を突き刺していた。


「まずい、レイ!」


「えっ? 何?」


 土の盛り上がりがレイに向かって伸びる。

 間違いなくレイを狙っている。

 しかもかなり速い。


 俺は全速力でレイを守るために駆け寄る。

 間に合え!


「バットンウィング」


「ちょっと! えっ!?」


 なんとかギリギリ間に合った。

 そのままレイを抱えて天へ急上昇。

 一気に傍にある木々の高さを超える。


 そして一瞬遅れて土からそいつが現れる。

 ――先ほどまで倒したと思われたバジリスクだ。

 そいつを見て俺は目を見開いた。


 木に巻き付き天へ昇ろうとする。

 しかし、さすがにここまで来るのは無理と悟ったか、締め付ける力を強くして木を締め潰す。

 あれが、バジリスクの締め付けの力か。

 捕まると確実に圧死だな。


「何よ、あれは」


「わからない」


 だが、本当に驚いたのはそこではない。

 それはバジリスクの姿。

 

 茶色に黒模様だったはずのその頭部が赤く染まっている。

 それだけではなく、漆黒で冷たい瞳も充血したように真っ赤だ。

 そして、体はバジリスク――蛇のそれではない。

 形は蛇のようになっているものの、その体は砂を固めたもの。

 ――再生ではない。


 その後もバジリスクは狂ったように暴れ狂う。

 オアシスに生えた少ない木々は次々となぎ倒されていく。

 轟音と砂塵が一帯を覆い、その姿は視認するのも難しくなった。


 とりあえず、安全地帯の上空から収まるのを待つ。

 

 だが、もはやこの高さは安全ではなかった。

 一瞬影が映ったと思った瞬間、その赤い頭部が砂塵を突き抜け俺たちに迫る。


「オーガスタンプ」


 咄嗟に影の拳を顕現させ、そいつを叩き落とす。

 今のはちょっと危なかった。

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