第2話 神の間、そして転生

 次第に目が慣れたのか、前に人が立っているのが見えてくる。

 白装束を着たおじいさんだ。

 白髪で、長く白い髭を蓄えた細身の老人。

 なんというかオーラっていうのかな? 圧倒的に格上の存在だというのが見ただけで感じられる。

 

「神、様?」


 死後の世界。

 この圧倒的なオーラ。

 俺がこの存在を神だと判断するのにさほど時間はかからなかった。


 そうか、本当に死んだんだな。

 しみじみと実感が湧いてくる。


「そうとも、我こそ神である」


 髭を撫でながら肯定する神。

 そうであれば、ここは天国? いや、もしくは俗に言う審判の間だろうか?

 褒められる人生ではなく最後はひったくり――地獄かな……。


「お主は先程死んだのだ」


 まあ、それは分かっているけどさ。

 そうあっさり言われるとなんだかなぁと思うよね。


「だが、寿命を全うしたわけではない」


 ん? どういうこと?

 

「あ、ああ、あの。そ、それはどういう……」


 畏れ多くも神に対して問いかける。


「実はのぅ……」


 そう言って神はどこからか子供を抱きかかえる。

 子供の手にはバチであろうか。

 一本だけ持ってそれを振り回している。


「この雷神の子が遊んで、バチを落としてしまったのじゃ」


「え? いや、意味が分からないんですが」


 突然の言葉に困惑する。

 いや、大体言いたいことは分かっていた。

 しかし、脳がそれを理解したくないと拒んでいる。


「まあ、そのバチが丁度お主の頭に当たって、ポックリというわけじゃ」


 いやいや、そんなポックリとか言われても。

 んじゃあなんだ? 雷神の子供のうっかりで俺は死んだのか?


「すまんのぅ」


 神は謝罪してくるが、なんだろう、なんか含み笑いしているように感じる。

 なんか最後まで本当についてないんだな、俺は。

 そしていつの間にか子供、いなくなってるし。


「そこでじゃ、お詫びのしるしにそなたの順位を繰り上げ、今すぐに転生させようと思うのじゃ」


 なに? それってすぐに生まれ変わらせてくれるってこと?

 さっきまで地獄に行くことと思っていたがこれはラッキーなのでは?


「いいんですか?」


 神に問いかけるも神はなにやら難しげな顔をして話し始める。


「じゃがの、手続き上、今いた世界に戻すことは難しくてな」

 

「じゃあ転生できないんじゃないですか?」


「そこでの、別の世界に転生してもらおうと思うのじゃが」


 え? 世界っていくつもあるの?


「勿論少しばかり優遇するのでな」


「優遇?」


「そうじゃ。そなた、前世では努力というものをしなかったな?」


 おぅ。

 神にバッサリと前世を斬られる。

 さっき優遇って言ったのになんでそんなこと言われないといけないのか。


「そこでな、お主には努力をすれば必ず報われるようにして存ぜよう」


 人差し指を上に向け、ドヤ顔で言ってくる神。


「そ、それはどういうこと……なのですか?」


「お主の今行く世界は前世とは違う。そういったな?」


「はい」


「じゃが、そこと似たものはお主の前世にもあるのじゃ」 


 何かよくわからないんだけど……。

 

「ゲームというものがあるじゃろう?」


 ゲームなら得意分野だ、よく知っている。

 ……まあ、ゲームのし過ぎで駄目人間になったまであるけど。


「その世界によく似た世界じゃ」


 ん? それ最高じゃね?

 つまりゲームの世界に行ける、みたいな?


「お主には特典として16歳になるまで得られる経験値を超絶アップしようというわけじゃ」


 経験値、そうか。

 努力すれば経験値が一杯もらえて凄い奴になれるってことなんだな!


「どうして16歳まで、なんですか?」


「色々理由はあるが、まずはこの世界での成人が16歳。お主が大人になるまで努力しなかったことを後悔するならばこの成人になるまでがリミットとしては一番キリがいいじゃろう。後はその世界に行けば理解できる」


「は、はぁ……」


 なんか腑に落ちないけど、行けば分かるってことなら行ってみるしかない。

 しかもゲームの世界。

 これはもう最高の世界なのではないか?

 

「さらに、前世から今までの記憶も残しておく。これでどうじゃろう」

 

「はい。なんか、ありがとうございます!」


 もう断る理由なんてない。

 これって所謂、強くてニューゲームみたいなやつだ。

 いや、俺強くないから強くてってのは違うか。

 まあ、そんな小さなことはどうでもいい。

 早くその世界にいきたい。


「では早速、転生してもらおうかの。では、次の世が良い人生になるよう」


「ありがとうございます!」


 遂に異世界転生!

 努力して英雄、いや勇者にでもなってやるか!

 

 体が光に包まれる。

 感覚が次第に無くなって、なんだか光と同化していくみたいだ。


 ――そして俺の意識は途絶えた。


 ♢


 そして、俺は異世界に無事転生を果たした。

 生まれた時から俺の意識は鮮明だった。

 直後は体の自由が利かず、ただの赤ん坊のように産声をあげている。


 しかし視界もはっきりし、頭脳も赤ん坊のそれとは違う。

 抱きかかえてくれる美人の母親の顔もハッキリ見えるし、視界の左上に羅列された何かも見える。


 少し戸惑ったが、すぐにそれがゲーム世界によくあるアイコンだということが理解できた。

 まず一番左上にあるレベル表示と赤いHPゲージ、緑のMPゲージ。

 そこから下にステータス確認アイコン、持ち物、パーティ等々。


 それは実にゲームのそれであり、俺の胸は熱く躍る。


 体は相変わらず泣きわめいているけどね。


 ♢

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