第57話 決戦
俺はギサール様と並んでカヘナ・ヌオヴァの城壁から北の方を見る。
数千のゾンビがやってくる様は圧巻だった。
例の爪の生えている人型のモンスターは今まで知られていない種類のものである。
そのため俺が呼んだゾンビが名前として採用されていた。
で、そのゾンビだが走れるかどうかは不明だが、少なくとも長距離を走ることは得意ではないようで町へとゆっくり近づいてきている。
整列するでもなく無秩序に進んでくる姿から受ける印象は知性はあまり高くない印象だった。
それを証明するように、いくつかの落とし穴にかかって仲間の姿が消えても気にせず次の落とし穴にかかっている。
これは近隣から避難してきた農家と海兵が総出で掘ったものだった。
土を耕す魔法で根切りをし、掘りやすくしたところで海兵が穴を掘る。
余った土砂は城壁の外側に作る土壁の材料となった。
何か目先の作業をさせることで不安から目をそらさせ、同時に一体感を生じさせることができる。
思いついた俺はギサール様に凄く褒められたけど、実施できなければ絵に描いた餅だった。
俺が依頼したのではここまで上手くいかなかったに違いない。
やっぱりギサール様はカリスマ性が違う。
俺作曲、ギサール様演奏により作られた落とし穴がゾンビの数を減らしていった。
それでも全体の1割程度でしかない。
士気低下による敗走というものがないので、まだまだ倒すべき敵は多かった。
ただ、ここでの俺の役割はゾンビの数を減らすことではない。
紛れてやってくるだろう魔人の処分を担っていた。
魔人と接触したことで、ギサール様は魔人の存在を感知できるようになっている。
カヘナ・ヌオヴァに寄せてきている中にいる魔人は5体。
こいつらを殺れるのは今のところ俺とギサール様だけだった。
ギサール様いわく魔人にも個体差があるようで、構成している魔力の量もかなりの大小があるそうだ。
俺が倒したのと同等以上のは1体というのは嬉しくもあり嬉しくもない情報である。
怪我を負いつつなんとか倒したのと同じぐらいの強さのがいるだけで気が滅入った。
そいつを含めて基本的に全部俺が倒すことになっているというのが泣ける。
魔人を倒す作戦は至ってシンプルだ。
この二日間でなんとか俺が身につけた魔力隠蔽を適当なタイミングで外す。
海藻を食いまくった俺は今や魔力タンクのようなものだった。
俺を食おうと魔人がやってきたところをディスインテグレートで魔力に還元する。
名付けて魔人ホイホイ作戦。
ちなみにロシア語の俗語でホイは男性にぶら下がってるものを指すらしい。つまりホイホイとは……。
それはさておき、この作戦を聞いたときにはこう思った。
完璧な作戦っすね、俺がやるってことを除けばよお。
でも実際に口に出してはいない。
コーイチならできるよねという曇なき眼で見つめられちゃったから。
まあ、布団を引っ被って部屋の隅でガタガタ震えていても何一つ事態は改善しないから、精一杯頑張ることにした。
一応、横にはギサール様がついていてくれているのが心強い。
ゾンビどもが城壁に近づいたところで、迎撃が始まった。
土壁の上には逆茂木が植えられている。
それを巻き込むようにラシスの唱えるファイアストームが吹き荒れた。
これで無数の松明ができたようなものである。
後は住民総出で、ファイアボルトを放った。
ファイアボルトなら一般市民でも4人に1人くらいは十分な火力のものを1発は放てる。
カヘナ・ヌオヴァは辺境の都市とはいえ、周辺を含めれば1万人は住んでいた。
さらにシーズン中の観光客も含めると合計で3千発は余裕である。
さらに半ば独立した防御塔には海兵が詰めていた。
仕事の性質上、風を操るのに長けており、風の刃の魔法で効率良く攻撃している。
塔のうちの1つには、引き返してきたナジーカの私兵たちがアーヘンに率いられ詰めていた。
全般的には順調に進んでいる。
しかし、こいつらは前座にすぎない。
「来たよ」
ギサール様の言葉に気を引き締める。
ゾンビとは明らかに異なる形状の者が戦場を走っていた。
何発かのファイアボルトがそいつに向けて放たれるが影も捕らえられていない。
無駄なのでゾンビに専念するように言ってあるが、突っ込んでくる恐怖に撃ってしまうようだ。
「無駄撃ちはやめゾンビに専念しろ」
海軍指揮官のアンドレの胴間声が響く。
偶然か狙ったのかは不明だが、接近中の魔人にファイアボルトが命中した。
しかし、なにも痛痒を感じていない。
「3番だよ」
ギサール様の声が聞こえた。
5体の魔人の中では魔力の多さが真ん中なのがトップバッターらしい。
魔人3番は掘り際まで来ると地面を蹴る。
空中にある間に俺のファイアストームが炸裂した。
牽制のための攻撃だったが、少しは効いているようだ。
反撃として魔人3番から魔力の塊が飛んでくる。
ギサール様が展開した防御魔法がそれを受け止めた。
その間に5番が突っ込んでくる。
美しい顔に陶然とした表情を浮かべた。
俺ってそんなに美味しそうなんだな。
喉元に伸びてきた手にカウンターのパンチを合わせ俺はディスインテグレートを発動した。
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