三日目

三日目は初めてヘルプについた。

シャンパンコールの練習とテーブルマナーの確認まだまだ覚えることはたくさんある。

それに加えて、先輩との人間関係も構築していかなければならない。

ホストは体力と気力が必要だ。

一日目にご飯に連れて行ってもらったAさんから、必ずお礼のlineを別れた後に入れたほうがいいことを教えてもらった。

自分は同世代の中だと比較的気を利かせて生きているともったが、この世界では全然できていないことになる。

昨日の帰りの電車では、お礼をしたほうがいいよなと思い、グループからlineの名前を探したが、二日目で誰が誰か把握しきれておらず、結局意識が無くなってしまっていた。

研修で覚えることが多すぎてパンクしてる中、さらに先輩の名前も憶えるのだが、読み仮名が普通ではなかったり、見た目がある程度似ていることも覚えにくい要因となって頭が常にパンクしている。

わけがわからなくなるがそれでもできるだけ覚えようとするが、そんな余裕は正直なところない。

僕は体力にある程度自負があるが、パンクしてる中で毎日なれない歌舞伎に通う東野は相当なストレスと脳の容量を消費する。

それに加えて、見た目や立ち振る舞いにも気を使うため、とにかくきつい。

しかし、ここで諦めるというのは僕としても面白くない。

だが、この時新人がやめていく理由がわかった気がする。

比較的、人見知りしない僕でもここまで人間関係で疲れるのだから、こうした精神的な体力がなければ簡単に折れてしまうのだろうと思う。

一応、僕がどんな人間かを簡単に説明しておくと、高校は男子校で文化系の部活で全国出場しており、大学の一年間は片道二時間半を通いながら、週五回の運動部に所属していて、バイトは塾講師をしていた。

二年生からはバイトで溜めた金で一人暮らしを始めて、イベントバイトで、現場仕事の設営仕事や警備、物販などをして生計を立てていた。

そのあとは少し飲食のバイトもしたが、激務のわりに面白くもないためやめて、水商売の世界に入っていった。

僕は自分のことを比較的社会経験も多く、ガッツがあると思っていたが、全然だめだった。

僕が思ったことは、ホストにおいて顔がいいことの利点の一つに、見た目を気にする割合が低くなることが大きいと思った。

僕の顔は、顔では売れないが悪くもないと先輩ホストに評価される程度なので、気を抜くと芋大学生になってしまう。

なぜはホストがきついのかがやっとわかってきた。

始める前までは、ぼんやりとしていたやめる人の像が輪郭を帯びてきて、業界の何が怖いのかも見えてきた気がする。

その日は研修を一通り終えて、初めてベテランホストの卓にヘルプにつかせてもらった。

その姫は普通の僕と変わらないぐらいの女の子で、どこにでもいる風な見た目なのに、伝票を確認すると、すでに数万円を使っている。

ここにいると金銭感覚がおかしくなる。

そして、その日の営業が終わると、店で先月の売上がNo.2のSさんがご飯に誘ってくれた。

6人で韓国料理屋に入り、卓上に入りきらないほど注文を入れた。

その人はあまり語らずに、淡々と僕の品定めをしているようだった。

ここでの行動も今後の営業中の動きに関わってくると思い、好印象を与えるように立ち回った。

食事が終わると、僕は店舗に戻って始発の電車を待った。

そうして、僕の三日目が終わった。

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