入塾試験

僕が入塾試験を受ける塾には「通常コース」と「進学コース」がある。

通常コースは週2回、火曜日と木曜日

進学コースは週3回、月曜日と水曜日と金曜日だ。

土曜日は補習授業があり、学力がついて来れてない人の補習。

日曜日は完全にお休みなのだ。



授業も通常コースでは学年に合わせた授業をするが、進学コースでは特別なカリキュラムだ。

4年生の間に小学生の勉強は全て終わる。

5年生になると中学1〜2年の勉強を全てやる。

6年生では中学3年生の勉強を半年で終わらせて残りの半年は永遠に試験勉強をする。

中学試験に特化して、中学になってからも勉強に困らないようにする為に先に学んでおくため、ひたすらハイピッチで授業が進むのだ。


僕は少しでも多い日数を通いたいのでもちろん「進学コース」狙いだ。

この塾は有名な塾で、日本全国の有名中学の受験合格者を多く出している。

入塾の試験も難しく、地元の年上の子達も多く挑戦しているが受からない。


近隣の市からも電車で通う子や、親が車で送り迎えしてでも通う子がたくさんいるような、そんな有名な塾なのだ。

学力が全て、学歴が全てと言われるような時代だった為かもしれない。



僕は流石に舐めてかかると試験に落ちてしまいそうだと思い、3月の入塾試験までに持っている学校の教科書を使いひたすらに復習勉強を繰り返した。


勉強を一生懸命したいというような気持ちからではない。

ちょっとばかりの好奇心と、CDを買うためなのである。


進学コースに通う子達はみんな天才ばかりだ。

そんな噂を聞き続けた有名進学塾。

僕は学校の勉強はしなくても出来るので、自分がどこまで通用するのか知りたいと思う好奇心やプライドもあったんだ。


やれる事を全て準備しながら試験に備えた。

初めて進んで勉強する僕の姿を見て両親もすごく期待をしていた。




試験当日、僕は塾で割り振られた新4年生の入塾試験の部屋に入った。

周りはひたすら勉強ばかりをしてきたような子達ばかりだ。

同じ学校の子も3人見つけた。

あまり話した事はないがとりあえず話しかけてみるが、非常に緊張していてまともな話しにならない。


『そんなに緊張していたら試験に響くよ』

アドバイスしてあげたのに素っ気ないので僕は自席でのびりと試験時間になるのを待った。


試験は30分×3教科

最初に10分先生の挨拶と説明があり、30分の試験ごとに10分間の休憩が入る。

合計2時間で終わるのだ。

僕は試験が終わった後、同じビルの2階にあるCDショップに行く予定だった。

大好きなバンドのCD発売日なのだ。


もちろん買うお金はないが、視聴コーナーにそのアルバムが視聴可能で置いてある事を僕は知っていたので試験の帰りに寄って聴いて帰るつもりだったのだ。

早く試験が終わりCDを聴きに行きたい。


時間が過ぎるまでどうしようもないのに配られた試験を大急ぎで終わらせてしまう。

30分の持ち時間だが半分くらいで終わってしまい時間の流れが遅くて苦痛に感じた。

全然試験は難しくないのだ。

こんなの誰でも受かってしまうのではないだろうか?

拍子抜けであり、CDの視聴に思考が奪い去られてソワソワしながらなんとか試験時間終了。

絶対に試験に合格すると確信しながらなんとか試験の2時間を乗り越えたのだ。



回答用紙を先生が回収してみんな帰宅準備をする。

僕は急いで教室を飛び出して塾を出ようとしたのだが、塾の入り口付近で小柄な女の子が後ろから走って来て僕にぶつかった。

すごい勢いだったのでびっくりしたが、そんな僕には全く気を使う素振りもなく僕に向かって舌打ちをしてそのまま何も言わずに走り去っていった。


ぶつかって来ておいて何なんだよ…

少し気は悪かったが僕には新作のCDの視聴が待っているのだ。

気を取り直して2階のCDショップに急いだ。

進学コースに合格した後、さっきの子と同じクラスだったら嫌だなぁ…

なんて考えながらCDの事を考えポジティブに塗り替えた。


エレベーターを2階で降りてすぐ目の前がCDショップだ。

入り口を入ってすぐ、店の外からでも視認できる場所に特設のCD視聴コーナーがあり目当てのCDが山積みされていてすごく目立つ。

さすがは人気バンドの新作アルバムだ。


山積みのCDとそのアルバムの販促用のポスターが視界に入りテンションが上がる僕だったのだがCDコーナーにいる人を見て僕のテンションは急激に絶望に変わった。

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