第59話 召喚します

「衛兵! この嘘つきどもを捕らえよ!」

「すまないアリシア。こんなにも早く君を頼ることになってしまった」

「かまいませんよ。そのつもりで来たのですし」


 アリシアは息を吸い込むと、ホワイトの召喚を行った。


「ホワイト、来てください」


 すると天井近くの空気が揺らめき、白いドラゴンが現れる。


「狭いところに呼び出してごめんなさい」


 優雅に降り立ったドラゴンを避けて、貴族達が壁際に避難する。


「いいや、最初に召喚された図書館よりはずっと広いから問題無い。しかし召喚が遅いから心配したのだぞ」

「近くにいたのですか?」


 事前にホワイトには事のあらましを説明し、召喚する事は伝えてあった。

 その上で、もし危害が及びそうになったら逃げてほしいと話すと、ホワイトは巨体を揺らしながら「我を傷つけられるのは同族だけだ」と大笑いした。


「城の塔に座って様子を覗いていた。お前に万が一の事があれば、クッキーを食えなくなってしまう」


(民に目撃されてますよね……大騒ぎにならないといいけれど)


 マレクを守るように控えていた騎士団を、エリアスが牽制する。


「全員その場を動くな。大人しくしていれば、危害を加えられることはない」


 驚いて動けない兵士達は、その言葉に反応してあっさり槍を床に置く。ただ王家直属の騎士団はそれぞれ顔を見合わせ、ホワイトに立ち向かうべきか悩んでいる様子だ。

 と、ここでわざとらしい悲鳴が上がる。


「いやぁああ! 騎士の皆様、気味の悪い大きなトカゲを早く追い出して!」


 ダニエラに視線が集中する。彼女は怯えた小動物のように身を震わせ、大粒の涙をこぼす。


「マレク様! あの女は恐ろしい魔女ですわ! ロワイエの王子だって、本物かどうか分かりません。旅の役者を雇って、なりすましているのです。きっと玉座を狙いに来たんだわ!」


 身を寄せてくるダニエラをマレクが抱き寄せ、同意するように頷いた。


「なんて恐ろしい女だ。やはり私の判断は間違っていなかったと証明されたぞ。おい、騎士達よ、早くトカゲを殺してしまえ」」

「……こんな国庫が底をつきかけている国を、わざわざ乗っ取ろうとは思わないぞ」


(エリアス、取り繕うのが面倒になってきたのね。完全に素に戻ってるわ)


「茶番はいいから、早く罪を認めろ。国王が軍備や各国を取り込むために金を使ったせいで、バイガルの金はつきかけている。ああ、君の散財が後押しした形にはなったけどな」


 貴族達が再びざわつき始める。このままではまずいと思ったのか、マレクがアリシアを指さした。


「それならばこの女だって共犯だ! アリシアはレンホルム公爵と共に、我が国の裏金作りに加担したのだ! 私に罪を償えと言うなら、まずその女を断罪しろ!」


 これでは自らの罪を認めたも同じだが、マレクはそこまで考えてはいないらしい。

 ただアリシアも、マレクの指摘には困ってしまった。


「憶えてません。確かに私は王家の帳簿管理も任されていたらしいのですが、本当に当時の記憶が無いのです。ですが国民に嘘を吐き金策をしていたとしたら、相応の罰を受けます」


 忘れてしまった数年間、自分がレンホルム家とバイガル王室の金銭管理を一手に引き受けていたのはジェラルド達の話から知っていた。


「マレク王子、私達は民を欺きました。正直に罪を認め、罰を受ける勇気を持ちなさい」


 怯まず言い返すアリシアに、マレクが後退った。

 その時、貴族の中から初老の男性が駆け寄ってくる。


「お待ちください、アリシア皇女。その件でしたら、貴女に罪はございません。私が証人になります。アリシア皇女は軍事関連には、全く関わっておりません」

「ええと、貴方は?」

「バイガル国宰相、メローと申します。私も裏帳簿製作を任されておりましたが、アリシア様を含め関わった者は国庫の蓄えが何に使われているのはか聞かされませんでした。恥ずかしながら、いま知った次第です」


 それまで完全に空気だった宰相が声を上げた事で、側近らしき男達も次々に告白を始める


「もう黙ってはいられませんマレク王子。エリアス王子の仰る通り、この国はもう崩壊寸前なのですよ」

「私を含め、侍従長、メイド長全員がアリシア様に罪はないことを証言します」

「貴様ら、裏切ったのか!」

「裏切りも何も、あれだけ国庫から使途不明金が大量に出たのに、全てをアリシア皇女に任せた挙げ句、貴方たちは毎晩下らない遊びに耽っていたではないですか!」

「アリシア様は文句一つ言わず、理由も分からない不明金のつじつま合わせに奔走されていたのですよ」

「これ以上アリシア様を苦しめて、お心が痛まないのですか!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る