1-6
彼の立場を踏まえれば、そこまでの重要性はない。
しかし、資格は取っておくに越したことはないものだ。
◇ ◇ ◇
ナギに連れられてやってきた場所は、明らかに戦闘のための場所であろうアリーナのような施設。
どうやら、ここで試験をやるようだ。
「王国軍直下組織、魔法隊第一隊長───フリューゲル・ヘッセです。新たな異邦人と出会えて光栄・・・と言いたいところですが、生憎と私には時間がない。詳しい自己紹介は省きましょう」
随分と鼻につく口調で、金髪オールバックで眼鏡をかけた長身の男性───ヘッセは、俺を見下すような目つきでそう言った。
初対面の相手に対しての態度としては明らかに無礼なのだが、どうにも懇切丁寧な言葉の組み合わせに脳がバグる。
しかし返事をしない訳にはいかないので、俺は困惑のままに口を開く。
「あ、ああ。よろしく」
「返事は結構。時間が惜しいので、もう既に試験は始めています。今から面接試験という体で試験内容の説明をしますので、聞き返すことがないように」
ものの見事に突っぱねられた。
ナギは確かに、あいつは時間には煩い・・・と言っていたが、これは時間に煩いで済ませていいものなのだろうか。
世界的には時間を気にするタイプの民族であった日本人でさえ、ここまで予定を詰めるなんてことはあまりない。
なんというか、この人は予定の立て方が下手くそなんじゃないかと思ってしまう。
「現在あなたが受けている試験は、我が国の国家資格である魔法実技試験です。内容は文字通りに実技のみであり───筆記は眼中に無い」
ヘッセはメガネをクイッとしつつ説明を続け、言葉に合わせて指を鳴らして魔法を使う。
「魔法の威力、精度、複数。この3点において、一定以上の成績を収めること。それが、この場におけるあなたへの課題です」
聞くだけでは簡単な試験だな───なんて呑気なことを考えつつ、俺は奥の方でせり上っている
今の説明通りなら、あれを魔法で破壊すればいいらしい。
「制限時間はそれぞれ1分ずつ。どんな手を使っても構いません。最終的に魔法で破壊すれば、試験は合格となります」
ちなみに、ナギ達3人はこの場に居らず、ちょっと上の観客席のような場所で俺のことを見守っている。
そのうえ、ざっと数えて30人くらいの、なんだか豪勢な服を着た男女がまばらに座っている。
恐らくは貴族か何かで、新しい転生者が来たことで話のネタにでもしようと思っているのだろう。
俺には縁のない事だったが、スポーツの大会に出場する時のアイツらは、おおむねこんな心境だったのだろうと思うと───こんな状況でも、少し面白く感じられる。
「鐘の音が鳴ったらスタートです。それまでは精々、魔法のイメージでも蓄えておきなさい」
項目の順番はランダムか、それとも説明された時の順番か。
どちらにせよ、俺がやりたいことは変わらない。
「・・・・・ふーっ」
深呼吸をし、集中力を高め───いわゆる、ゾーンに入る。
ゲームにおける初見突破の実績など、前世で腐るほど得てきた名声だ。
それが現実になっただけで、考え方は変わらない。
ましてや、これは国家資格の検定試験であり、人を殺めたりするような項目があるわけでもない。
真面目に遊びつつ、1発合格を目指す。
それが、現時点での目標だ。
───カアン!
俺が考え事をした数秒後、どこからともなく甲高い鐘の音が鳴り、会場に響き渡った。
開始の合図だ。
「
開始と同時に、俺は自分の肉体に身体強化魔法を付与し、今から行うものの下準備を整える。
そして次に、俺は右手を前に突き出し、その手の中に丸い玉が出現するようイメージする。
「
なんとなくで詠唱しつつ、目的のものが出現したことを確認した俺は、まるでマウンドにたった時のピッチャーのように球を構え、出現したソレを投げる準備を整える。
俺の目前にあるモノは、依然として変わらず案山子のままだ。
精度や範囲を試すものであるとは、俺の目で判断する限りは到底思えない。
「っ・・・らあ!」
転生した直後に投げた槍と同じような感覚で、俺は魔法で作った球を案山子に向けて全力で投擲した。
そして、ぶっつけ本番で作ってみたということに若干の不安要素を覚えつつも、俺は左手の指をタイミングよく鳴らして合図をする。
「ボン!」
すると、俺の合図とともに球は勢いよく爆風を撒き散らしながら爆散し、案山子を後方に吹っ飛ばす。
爆炎のせいで案山子があった場所の周りの視界は悪いが、何らかのパーツが横方向に飛び散っているのを見るに、破壊は成功だと見なして良いだろう。
俺は次のターゲットを射抜くための魔法を、随分と早いタイミングではあるが準備し始めた。
『強化ダミーの破壊を確認。タイムは13.42』
ヘッセの淡々とした言葉遣いが会場に響き渡る。
この声を聞いていて思ったが、タイムも計っている・・・ということは、この試験をスポーツ感覚でタイムアタックするような変態もいるということだろうか。
我ながら嫌だな、これだけで察せるの。
『次は魔法の精度を試します。受験者はそこを動かないように』
作業感が満載の声色で彼がそう告げると、先程まで案山子があった場所の地面から、ダーツの時に使うくらいのサイズの的がせり上がってきた。
恐らくは、あの的の中心を射抜けばいいはずだ。
ちょうど案もあることだし、試させてもらおう。
「ふーっ・・・・・」
俺は右手を本体に、左手の親指をマガジンに見立て、右手の人差し指と中指をバレルのようにして指銃の形をつくる。
そして人差し指と中指の先に魔法の発射口を設け、人差し指の横っ腹をショットガンにあるような擬似的なサイトに見立てる。
お世辞にも狙いやすいとは言えないが、それを差し引いても精度は十分だと思いたい。
的に当てるだけなら問題ないはずだ。
「・・・
シャレで言ったつもりの詠唱を挟みつつ、俺は魔法を発動した。
すると、俺の意図した通りに魔法のビームは飛んでいき、肉眼で詳細は確認できないながらも───少なくとも、的に当たったことは確認できた。
『命中を確認。制度は93.5パーセント』
淡々と結果が発表されると、今度は観客席にいる貴族(?)が少しだけ盛り上がった。
ざわっと一瞬だけ声が上がり、その後はひそひそと何かを話している。
『最後は5つの的を、最初の的を破壊してから3秒以内に破壊しなさい。時間内に破壊できなかった場合、壊れた的は再生します』
最後の課題は随分と楽しそうなものだ。
どう的を破壊すべきか悩むところだが、なんとなく方向性は決まっている。
爆発系の魔法で破壊するという方針は変えず、問題は何を起点にして爆発させるか。
安直に範囲を増加させるだけではつまらないし、創作物を作っていた身からすれば───できるだけ映える手段でやってみたい。
自分の視界に
とにかく、今は楽しむ方が優先だ。
「
ということで、俺は固有武器をナイフの形にして取り出し、左手に持った状態で刃を右手のひらに当てる。
───ガコン
そして、5枚の的が目前に出現したことが確認できた瞬間、俺は自分の手を───一直線にナイフで傷つけた。
「っ・・・・・
痛みに耐えつつ魔法を使い、血液をコントロールして5つの刃を作り出す。
先程は魔法で作り出した球に爆発する魔法を仕込んだが、今度はこのナイフを参考に位置を決めて爆発魔法を発動させようと考えた。
なんとなくカッコイイ気がするし、そっちの方が映える気がしたから。
「・・・
作り出した5つの刃に魔法を付与し、勢いよく飛ばして的に命中させる。
まったくもって思い通りの挙動をしてくれたことに喜びを覚えつつも、俺は集中を切らさぬまま───爆発魔法の準備を進めた。
両手の間に空間を作り、そこに魔力を込めることで使用する時に不足がないようにする。
まあ、この行動そのものに意味があるかはわからないが、やった方が「すごい魔法を準備している」感が出てカッコイイと思うのでやってみた。
「
たしか五重のギリシャ語だかラテン語は、この読み方で合っていたはずだ。
堂々と詠唱しておきながら間違っていましたなんてカッコ悪いことは起こらないで欲しいが、まあ、頭が弱い高校生が多少なりとも思いつくだけマシではある。
「─────」
そうした不安を抱えながらも放った俺の魔法は、俺がイメージした通りの位置でそれぞれ爆発し、全ての的を同時に破壊しきった。
ちなみに俺の手の傷は、俺が魔法を使って血の刃を形成したタイミングで綺麗さっぱり治っていたらしい。
物体飛翔魔法を使って血の刃を操った時には既に傷口が塞がっていたし、たぶんそれで合っているだろう。
『・・・全ての的の破壊を確認。タイムは23.18』
再度、ヘッセによる淡々とした結果発表がなされ、あとは合格か否かが発表されるだけとなった。
会場は───それほど緊張しておらず、見渡す限りでは貴族(?)がひそひそと会話をしているのが見える。
『全て時間内に終わったため・・・現時点で虚無の寵愛者、グレイアを魔法実技試験合格者とします』
なんだか受かった気がしない合格発表がされると、ひそひそと会話をしていた貴族(?)が一変し、しっかりと拍手をしてくれた。
「───虚無の寵愛者どの、こちらへ。案内いたします」
「あっ・・・はい。ありがとうございます」
そして、音もなく俺の背後に立っていた使用人っぽいお爺さんに驚きつつも、俺はなんとなく嬉しくなっていた。
前世で最初に合格したのは全商の英語検定だったか。
まったくもって難易度は高くない検定試験だったが、それでも受かった時は嬉しかった。
「─────」
時は経ち、結果的に資格取得マニアになりかけていた俺だったが───今回のでなんとなく初心を思い出せた気がする。
やはり、適度な緊張感というのは心地良いものだ。
▽ ▽ ▽
魔法技能試験が終わり、仕事は済んだ。
ヘッセはその立場が故に付きまとう仕事を処理するため、さっさとこの場を離れようとした。
「ねえ、ヘッセ」
しかし、
相手が部下や対等な人物であれば、会話を突っぱね、早々に早歩きでその場を立ち去るところだが、彼の目の前に居るのは正義の寵愛者。立場が云々だとか言っていられる存在ではない。
「・・・・・なんです?」
とんでもなく不服だし、できることなら怒鳴ってやりたいくらいだが、ヘッセはナギの呼びかけに応じる。
グレイアは彼に対して「予定の立て方が下手くそなんじゃないか」なんて、随分と失礼なことを考えていたものだが、それが彼の耳に入ればプッツン間違いなしだろう。
彼とて、好き好んで仕事に追われているわけではない。
あまりに仕事が多すぎて休むことができず、目の下にくまができてしまったため───何を思ったか、彼は「目の下のくまを隠す効力を持った眼鏡型の魔道具」を生み出した。
そんなトンチキ魔道具を開発してしまうほど、彼には余裕というものが無いのだ。
それを踏まえての、ナギとの会話である。
「虚無の寵愛者───グレイアについて、君はどう思う?」
「・・・・・質問が広義的すぎて回答することができませんが、驚異に感じているかというのなら肯定しましょう。あれは異常なセンスを持っている」
「引き込むかと思ったけど、違うんだ」
ここで恐らく、ヘッセはこう思っただろう。
とんでもない、これ以上問題を増やしてたまるか・・・と。
ただでさえ仕事に追われるくらい面倒事が多いのに、そこへ更に転生者という数え役満どころではない代物が投入されれば、どんな問題が起こるかわかったものではない。
そうなったら多分、この人は過労死するのではなかろうか。
「・・・何を言っているんですか。そもそも、転生者に首輪を付けることなど不可能だと───あなたも、常々そうだと考えていたはずでしょう」
「まあ、そうだね。でも彼は違うらしい」
「そうですか」
また「この転生者は特別だ」とか言い出すのだろうと予想してしまったヘッセは、より一層この会話をぶった切ってしまいたくなった。
数えてはいないが、これで2桁は行っているだろうと───あの王が居れば、そう答えたはずだ。なんて考えつつ、彼はその場を立ち去ろうとする。
「ああ、ごめんね。時間をとらせちゃって」
「───ええ全く。有意義な時間でしたので満足です」
100パーセントの本音を口に出しつつ、魔法隊第一隊長───フリューゲル・ヘッセは次の仕事と戦うため、その場を後にするのだった
◇ ◇ ◇
やっぱり、何か魔法を使ったり、戦闘みたいな描写を書いている時がいちばん楽しいですね。
ちなみに、前書きの「資格は取っておくに越したことはない」という文言は、商業高校生である私が耳にタコができるくらいに聞いている言葉です。
異世界でも資格があったら、主人公や他のキャラクターの強さの表現がやりやすいんじゃないか・・・という、素人の思いつきですね。
ちなみに今回の『魔法実技試験』は、現代で言えば『ITパ〇ポート』とだいたい同じくらいの試験難易度・・・ってことにしてます。
まあ、わかる人にはわかる。
私は思いっきり落ちたんですけどね(*´・ч・`*)
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