第41話 決闘の儀(3)
訓練所の舞台にたどり着くと、既にデルカルトとジクルドが待ち構えていた。
「遅かったな。誰かに襲われでもしたのか」
デルカルトは舞台の上からニヤニヤと笑みを浮かべ、見下ろしてくる。
やはりあの貴族達を仕向けたのはデルカルトか。
それにしてもわざわざそんなことを口にするなんて、挑発しているつもりなのか?
だけどルリシアさんは既に戦闘モードに入っているようで、デルカルトの言葉を無視している。
それなら俺もデルカルトに構う必要はないだろう。
俺は舞台の周囲を見渡してみる。
突然決まった決闘の儀だからか、周囲に人はほとんどいない。観客席には二十人程しかいなかった。
だがこの時、唯一知っている人達と目が合ってしまった。
それは皇帝陛下と皇后様だ。
「小僧! お前だけこっちに来い!」
「ユートく~ん」
皇帝陛下は鬼の形相で、フィリアさんは笑顔で手招きしている。
い、行きたくないけど行くしかないよな。
「何故決闘の儀を受けた! 貴様なんてことをしてくれたんだ!」
皇帝陛下は怒りを露にして問い詰めてくる。
まあその気持ちもわからないでもない。もし負けたらデルカルトとルリシアさんが婚姻を結び、しかもいずれ皇帝の座も渡すことになるんだ。
「まあまああなた落ち着いて下さい。決闘の儀を受けたのはルリシアでしょ。むしろユートくんは巻き込まれた方で⋯⋯」
「そのようなことはわかっている! くそっ! 何故このようなことに⋯⋯」
「あなたもわかっているのでしょ。ルリシアは私とあなたの命をを奪おうとした人達が許せないのよ」
「⋯⋯⋯⋯」
「それに今更取り消すことは出来ないわ。私達に出来るのはルリシアとユートくんの応援をすることだけよ」
フィリアさんは肝が据わっている。さすがは皇后様なだけはある。
「それにもし負けたとしても、月のない夜にデルカルトを処分すればいいだけの話よ」
フィリアさんがボソッと怖いことを口にし始めたぞ。
冷静に見えるけど、フィリアさんも今回の件で相当怒っているようだ。
「小僧⋯⋯いや、ユート」
「はい」
「勝てるのか? あの二人は強いぞ」
「戦いに絶対はないです。だけど必ず勝つことを約束します」
「信じていいのか?」
俺は皇帝陛下の問いに頷く。
「⋯⋯娘を⋯⋯ルリシアを頼む」
「わかりました」
皇帝陛下ももうどうしようもないことを悟ったのだろう。今まで騒いでいたのが嘘のように、落ち着いた様子で語りかけてくる。
「だが! ルリシアに傷の一つでもついてみろ! その時は私がお前に引導を渡してやる!」
先程の落ち着いた様子はどこに行ったのやら。皇帝陛下はまた騒ぎ始める。
「でももしルリシアに傷一つつけさせずに勝ったら、ユートくんをルリシアのお婿さんに認めるってことね」
「「えっ?」」
フィリアさんがとんでもないことを口にする。何故そのようなことになるのか理解出来ない。
「何故そうなる!」
「だってあなた、さっきの台詞はまるで嫁に出す父親のように見えたから。娘を⋯⋯ルリシアを頼むって」
「あれは決闘の儀のことを言ってるだけで嫁に出すとは⋯⋯」
「十歳の子が命をかけるのよ。何かユートくんにもご褒美があった方がいいんじゃないかしら。その方がユートくんもやる気になって、決闘の儀に勝つ確率が上がるかもしれないわ」
「うぅ⋯⋯た、確かにそれはあるかもしれん」
「いえ、絶対にあるわ。ルリシアが負けてもいいの?」
フィリアさんが皇帝陛下を追い詰めていく。だけど話が二人の中だけで進んでしまい、俺は蚊帳の外だ。
「⋯⋯わ、わかった。決闘の儀でルリシアが傷一つつけずに勝てたら考えてやる」
そしてついには、あの皇帝陛下が俺とルリシアさんの結婚を認めることになった。
「いや、ちょっと待って下さい! 二人だけで話を⋯⋯」
「それでは決闘の儀を始める! ルリシア姫にユート。そしてデルカルト様にジクルド騎士団長、舞台に上がって下さい」
しかし二人の話を止める前に審判らしき人に呼ばれてしまう。
「小僧! 死ぬ気で戦ってこい!」
「ユートくん頑張ってね」
勝手に決められて色々言いたいことはあるけど、それは戦いの後にしよう。
俺は既に舞台に上がっているルリシアさんの元へ向かう。
「ユートくん、お父様達と何を話していたの?」
「え~と⋯⋯決闘の儀を頑張れって」
「そうなんだ」
ここで敢えて結婚の話は出さなくてもいいよな? 余計なことを言って戦いの最中に動揺されても困るし。
「よくぞ逃げずに来たな」
「あなたこそ。ここで負けたらどうなるかわかってるの?」
「それはルリシア姫にも言えることだ。言っとくが私は手加減するつもりはない」
「望むところよ」
「その生意気な態度⋯⋯ルリシア姫と婚姻を結んだ後、二度と私に逆らえないよう調教してやる」
この男は変わらずふてぶてしい態度だな。
「それはあなたの妄想ですか? 私はあなたの妻になる気はありませんから」
「その自信を俺がへし折ってやろう」
生意気って。こういうのって言ってる方が生意気だったりするんだよな。
俺も最後に言いたいことを言わせてもらおう。
「自信を折られるのはあなただよ。泣いて謝ってもルリシアさんに手を出したあなたを僕は絶対許さないから」
「この糞ガキが!」
「話はそこまでです! 両者とも下がって!」
舌戦は審判の手によって終わりを告げる。
そして俺達は指定された場所まで行き、剣を構えた。
「これより決闘の儀を初めます! 両者ともよろしいですね」
審判の問いかけに、ルリシアさんとデルカルトが頷く。
「それでは! はじめ!」
こうして戦いの火蓋が切って下ろされるのであった。
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