私に成り代わって嫁ごうとした妹ですが、即行で婚約者にバレました

あーもんど

第一章

家族との関係性①

「────セシリア、お前の人生を妹に譲ってくれないか?」


 薄暗い地下の空間で、私の父────ローガン・アンディ・エーデル公爵は突拍子もないことを言い出した。

訳も分からず放心している私の前で、父はオールバックにした銀髪をサラリと揺らし、少し屈む。

間近まで迫ったアメジストの瞳を前に、私はハッとした。

『この場の雰囲気に呑まれてはいけない』と、己を叱咤しながら。


「仰っている意味がよく分かりませんが、私の人生は私のものです。他の誰かに差し上げることは、出来ません」


 自身の胸元に手を添え、私は真っ直ぐにアメジストの瞳を見つめ返す。

すると、父の背中に隠れていた妹────アイリス・レーナ・エーデルが顔を出した。


「え~!?酷いわ、お姉様!私にちょうだいよ、全部!」


 胸の下辺りまである銀髪を揺らし、妹は不満げに口先を尖らせた。

アメジストの瞳に難色を示しながら。


 前髪をセンター分けにする形で編み込んでいるからか、拗ねたような表情がよく見えるわね。

まあ、そうでなくてもこの子は凄く分かりやすいけど。

感情を隠す術や抑える方法を習っていないから。

それだけじゃない……簡単なテーブルマナーも、座学も全部中途半端に投げ出している。

お父様が妹のワガママを容認しているせいで。


 『やりたいことだけ、やればいい』という父の教育方針を前に、私は内心溜め息を零す。

────私の実母であるシエラ・ソフィ・エーデルが生きている頃はこんなことなかったのに、と嘆きながら。

『一体、どこで狂ってしまったんだろう?』と思案する中、父の隣に立つ女性が身を乗り出した。


「お願いよ、セシリア。これもアイリスのためだと思って」


 そう言って、私の両腕をガシッと掴んだのは────現公爵夫人であり、私の継母であり、アイリスの実母であるアナスタシア・ロッティ・エーデル。

ちょっと癖毛がちな金髪をお団子にし、様々な装飾品を身に纏う彼女はエメラルドの瞳をスッと細める。


「アイリスは貴方の婚約者────ヴィンセント・アレス・クライン様が欲しいらしいの」


「!!」


 ヴィンセント・アレス・クライン。

クライン公爵家の次期当主であり、私と共に人生を歩むと約束してくれた人。

誰よりも誠実で優しく、実母を失い失意のどん底に落ちた私を必死に励ましてくれた。

そして、妹ばかり可愛がる両親から私を引き離す、と……救ってみせる、と言ってくれた。

この婚約は政治的な意味も含まれているけど、一番の理由は私を幸せにするため。

だから、これだけは……これだけは譲れない。


 『ヴィンセントの気持ちを無駄にしたくない』と思い立ち、私は勢いよく継母の手を振り払った。


「そのような理由であれば、尚更応じられません!」

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