5月

『春を送り出す』


 隣にいた春が、そろそろ行くよと言い出したので、盛大に送り出すことにした。

 沢山のご馳走やプレゼントを用意して、クラッカーを鳴らす。

 紙片の向こう側でありがとうと笑った春は、そのまま消えてしまった。

 仕方ないから夏と分けあおう。あいつはいつもせっかちだなって、夏も笑ってくれるだろう。


(2024/5/1)



『ハンカチ』


 切り裂かれた君の心をハンカチで包む。次々血が滲んでしまうので、幾度もハンカチを取り替えた。

 沢山のハンカチを使い続けてやっと君が笑った時には、周りは使ったハンカチでいっぱいで。

 ありがとうと君が笑うから、僕は恥ずかしさで顔を赤くして、最後に残ったきれいな一枚をそっと君に差し出した。


(2024/5/7)



『インク』


 真っ白な紙にぽとりとひとつインクを落とす。たったそれだけで駄目になってしまうものだって、知らなかったの。もっと大事にしたらよかった。

 他に代わりがないものだなんて、思ってなかったの。もっとしっかり握りしめていたらよかった。

 そしたら、君はまだここにいて、笑っていてくれたんだろうな。


(2024/5/17)

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