014_ガラクと魔法陣作成(その4)
シーカーの仕事はシーカーポイントと呼称される新たに廃棄物が落下した地域で廃棄物の中に降下し、回収班が資源として廃棄物をまとめて回収する前にチップをはじめとした価値のあるものを発掘して持ち帰るのが主な仕事だ。
当たり前のようにボウズの日も発生する仕事にも関わらず、コンスタントに一定量を受け取り担当に提出しているガラクのような存在は珍しく、何かコツがあるのかどこかに溜め込んでるのかと考えて、前者ならやり方を盗み見るなり直接聞くなりしたいし、後者ならガラクが仕事を終えた後にでもこっそり回収しておこぼれに預かろう。
と言った思惑があってコッソリ後ろを着いて歩いてみたものの、あっさりガラクに見つかってしまったので言い訳してもしょうがないと考えたらしい。
「それで兄貴、どっちなんでやすか?」
かなり直接的に聞いてきたが、シーカーの基本給だけで食べて行けるほど甘い世の中ではないし、自分の収入を減らしてまで他人の面倒を見てられる余裕など、本来はない。
「・・・本当に普段からその喋り方してんの?」
そして、仕事がなくて途方に暮れていたのはつい一年前で忘却できるほどの年月は経過していなかった。
「あぁー、そうっすよね。前に見たホロムービーの下っ端っぽい喋り方を真似して見たんす。変でした?」
戻した言葉もかなり下っ端臭のする喋り方だが、さっきのヤンスはかなり酷かったのでまだマシだ。
話の流れで名前を聞くと『エッペンパリスハルトマン』と言うあまり聞かない長い名前を名乗られたので、こちらも一言ガラクと回答した。
「あれは流石に目立つからやめた方がいいと思う。金に困ってるの?」
「この仕事に流れ着く程度には困ってるっす」
ちょっと前の自分だってそうだったのだから聞くまでもない質問だった。
年下の同業者に同情できるほど自分にも余裕はないはずだ。
だが、なぜかは解らないがガラクはこの少年が気になってしまった。
「やり方は教えられない。でも、歩合給の手助けぐらいならできる」
そう言われたエッペンパリスハルトマンの方が泡を食っているようだ。
彼が予想していた反応は邪険にされたり追い返される程度であればまだマシで、場合によっては暴力を振るわれることも視野に入れていた。
まぁ、後者だった場合は相手が入り込めない隙間に逃げ込んでやり過ごすのだが。
「いいんすか?」
あからさまに怪訝な顔をしているエッペンパリスハルトマンは、ガラクに淡々と不要ならやめると回答されてしまい、慌てて頭を下げた。
ガラクの袋を預けてしばらくここから動くなと言う指示にも疑念を持ちつつも従うことにしたのか、素直に袋をて渡した。
15分ほどエッペンパリスハルトマンを待たせ、ガラクが普段から受け取り担当に納品している資源の6割程度の分量をつめた袋を返却した。
「ある程度詰めたから。あとは自分で作業して量を増やして」
「・・・なんで?」
「なんでだろうね・・・気に入ったんだよきっと」
この後は各自で作業をするように促し、着いてきたら今の資源も返してもらうと脅し、余計な時間を使ってしまったが日中は袋に資源を詰めた後は夜の作業の計画を考えたりする以外にやることはないので、適当なコンテナの中身をカラにしてその中にこもって時間を潰すことにした。
帰社の時間が近づいてきたので集合場所に戻るとすでにエッペンパリスハルトマンはすでに戻ってきていて、ガラクを見つけるとちょこちょこと小走りで近寄ってきた。
「ガラク兄貴、お疲れ様です」
「いや、お前の兄になった覚えはないんだけど・・・」
今までガラクを兄と呼んだのは可愛い従姉妹のスクラだけであり、彼がガラクを兄と呼ぶ根拠は全くない。
「そんなのどうでもいいじゃないすか。兄貴の収穫は大丈夫だったんすか?」
ある程度のまとまった量をエッペンパリスハルトマンに渡してしまったため、こちらの心配をしていたようだ。
作業員全員が帰りのヴィークルへの乗り込みが完了すると、運転手はヴィークルを発進させた。
日中から解決策の見つからない問題に頭を抱えていたガラクは、走っている間も難しい顔をしているのをエッペンパリスハルトマンが覗き込んでいるのにも気が付かなかった。
会社に到着して受け取り担当に資源を渡し、ロッカールームに向かおうとしたガラクにエッペンパリスハルトマンが話しかけてきた。
「何か悩みっすか?」
今朝と言い真っ直ぐな物言いをするんだなと思いながら、話してもしょうがないことだと伝える。
「ほら、悩みって誰かに話すと解決することもあるもんすよ」
金の悩みは解決できないっすけどねと軽くちを叩きながら言うエッペンパリスハルトマンに、話すだけならタダかと思いながら夜中に作業をする場所の条件を考えながらポツポツと話をした。
作業場所の条件としては、作業用コンテナが置けて、夜中に秘密裏に出入りができて、人目につかないスペースで、場所は居住区でも隔壁の外でも構わないが、できれば違法ではない方が良い。
という話をすると、今度はエッペンパリスハルトマンが難しい顔を押し始めたかと思うと、
「ちょっと希望に添えるかどうかは分かんないすけど、知り合いに相談してみてもいいすか?」
と、思いもよらぬ回答をしてきた。
もしそんな都合のいい場所が見つかれば御の字と思い、お願いしてみることにした。
別れ際にエッペンパリスハルトマンが『俺、名前が長いんで、友達はパリスって呼ぶんで、兄貴にもそう呼んでほしいす』と言って去っていった。
帰宅後、魔法陣の完成は目前に迫っているものの、今朝のニュースのこともあ理、当面は本職の映像撮影者も増えていると考えられる隔壁を超える行動はやめた方が良いと判断し、自宅で箱の発動している魔法なしの範囲で作業をして終了することにした。
スクラをねつかせてから3時間程度しか作業ができないため、作業のメインは本番用の魔法陣を作成するための資材作りだ。
魔法陣を刻印するための材料は廃材の中で一番簡単に手に入る鉄に刻み込む予定だ。箱型のコンテナから切り出せば重量は嵩むものの厚さも十分な材料となるだろう。
鉄板に魔法陣の元になる線を刻み込むのには詠唱で威力と発動時間を調整した最弱の光魔法で鉄板を融解しながら刻み込んでいく。
シーカーの仕事の過程でダウンロードした機械工学の知識に、この手の作業には遮光用のマスクが必要だとあったので、最寄駅付近にある工作機械の小売店で購入して準備してある。
そして、光魔法で作成した溝に魔力結晶を砕いて粉末にしたものを埋め込んでいき、最終的にはアーク溶接の要領で全ての溝に蓋をすることで魔力結晶の粉が離れないようにして完成となる。
今日の作業の魔力結晶を粉末にするため、収納魔法に格納されている中にから非常に珍しい天然石を重ねて作られているものの、発掘する資源としては無価値な『石臼』と言うものを取り出し、ゴリゴリと音を立てながら回していく。
非常に挙動が重く、タブレットで見つけた【筋力上昇】と言う魔法がなければ、とてもガラク1人で回せるような代物ではなく、魔力結晶一つを粉にするのに1時間以上かかってしまう。
作成する魔法陣の大きさからおよそ7〜8個程の魔力結晶を粉にする必要があり、明日からはスクラに手伝ってもらうのも視野に入れたほうが良いかもしれない。
どうにか箱に発動されている魔法なしの作業で就寝前に3個ほど粉末状への加工が完了することができた。
最近は夜に箱に発動されている魔法で作業をして、スクラが起床する時間に合わせて帰宅できるよう就寝時間の調整をしていたので、普通に就寝してスクラと同じ時間に起きるのは久しぶりだ。
「昨日は出かけなかったの?」
スクラもガラクが夜中に出かけているのは承知しているとはいえ、気にはなっていたようだ。
状況が変わって今度の休日までに魔法陣の完成が難しくなった話をした。
「でも、その内教えてくれるんでしょ?」
それはガラクの中では確定事項のため、黙って頷くとスクラは納得したように頷いて登校のために自宅を出て行き、時間的にはガラクも出勤時間が差し迫っていたため会社に向かう。
いつも通りシーカーポイントへ移動するためのヴィークルに乗り込もうとすると、パリスが兄貴と呼びかけながら近づいてきたのを邪険にする理由もなかったため、そのまま一緒にヴィークルに乗り込んで座席について出発を待つ。
「兄貴、昨日話してた場所の条件の秘密ってどのくらいのレベルっすか?」
「レベルと言われても・・・俺が中に入ってから出ていくまで誰にも見られないくらい?」
「なんで疑問形なんすか。でもかなり厳しいんすね。あるかないか確認しますんで休み明けまで待ってもらえるっすか?」
特に期待していたわけではなかったガラクの話について、パリスはかなり真面目に考えてくれているようだ。
パリスの回答より前に良い場所が見つかる可能性もある話をすると、その場合はそっちを優先してくれて構わないとあっさりとした回答があった。
シーカーポイントに到着するまでは取り留めもない話をしながらヴィークルに揺られ、到着するとパリスは当たり前のようにガラクに着いて歩いてきた。
ガラクも昨日、歩合の手助けはできると話た手前、特に文句を言うでもなく周りの作業員がある程度ばらけるのを見計らってから誰も行かなかったあたりを進行方向と定めてだるき出す。
途中、パリスを待たせて一目につかないように身を隠すと、パリスの袋に昨日と同じように6割ほど、自分の袋も8割ほどの収穫を詰め、パリスにその袋を返すと本人はペコペコと頭を下げてきた。
ガラクも中に入って作業ができそうなサイズの適当なコンテナを見定めると収納魔法で中身をカラにし、追加の資源で袋を満たすべくキョロキョロと降下場所を探っているパリスに対し、中身を空にしたコンテナを指してその中にいるからパリスが作業をきりあげる時に声をかけるように頼んでから作業を開始した。
その日ガラクは追加で資源を回収するそぶりも見せず業務時間を全て魔力結晶作成に費やし、パリスに就業時間だと声をかけられるまでにギリギリ魔法陣を作成するのに足りる魔力結晶の粉末を完成させることができた。
そんなガラクを見つめながらパリスは何か心に決めたかのように拳を握りしめていた。
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