010_ガラクと説明
脱出までの経緯について対外的な言い訳を考えてから報告したら副社長に不審な目で見られたり、不要なグリーンチップと廃棄物の一部をR/R社に納品するなどして数日を過ごして、ようやく最初の休日となった。
ガラクはスクラに対して魔法の説明した上で魔法を使えるように練習させるつもりではあったものの、これまでの経緯も含めて話をするにはまとまった時間が必要だと考え、色々な説明をまとめて休日にすると話ていた。
説明するためにリビングから呼ぶと、スクラもようやく説明してもらえるのだと解り、返事をしながら自室から出てきていそいそとテーブルの自分の椅子に座ったのを見計らってガラクは話し始めた。
「いいかスクラ、これから話す内容は信じられないかもしれないが一旦は全部話を聞いてほしい」
と前置きした上で話した内容を要約すると、
・シーカーポイントを中心とした一定の範囲内では大型重機を使用しないというルールを守らなかった奴がいたこと
・そいつらによって引き起こされた崩落事故に巻き込まれたこと
・生存の可能性に賭けてコンテナに逃げ込んだ後に気絶したこと
・気がついたら怪我をした状態で不思議な箱の上に倒れていて、帰還の方法を求めてその箱を開けるとタブレットとチップと資源が入っていたこと
・一縷の望みを賭けて箱に入ってたチップを使用したこと
・そのチップによってタブレットの魔法陣を使ってではあるが魔法を使って傷を直したこと
・脱出のためにコンテナの外部に出ようとしたら、外部との時間経過に差異が生じていて崩落による落下の真っ最中だったこと
・そこから魔法を使って帰還を開始し、廃棄物の中から脱出するまでに体感で300日弱、実時間としては3日弱の時間がかかったこと
・ホワイトチップはガラク以外に使用できないが、魔法の使い方を教えることはできる程度には習熟しているので今後のためにスクラには魔法を覚えてもらうつもりでいること
・魔法のために必要な魔力操作を教えるには魔法陣の作成が必要なこと
・それ以外にもいろんな勉強をしないと使えないこt
を、何かを他人に対して伝えるのがあまり得意ではないガラクが、話を前後させたり内容を考えて詰まったりしながら懸命にスクラに説明した。
途中、スクラが崩落事故の話で涙目になったり、魔法の話で怪訝な顔をしたりしたが、魔法については納得させるために近くにあったコップに移動魔法を発動して手元に引き寄せたりブランケットを空中でフワフワと浮遊させたりしたあたりで、今までの暗い表情が嘘のように目をキラキラさせてそれらを見つめて、最後にスクラに魔法を覚えてもらう話をするや否や、椅子から立ち上がったかと思うとその場で小躍りし、ガラクが魔法を発動する真似をし、ちょっとやそっとじゃ宥めるのが難しいレベルでボルテージを上げて喜んでいた。
「いいかスクラ。スクラですら話の途中で兄ちゃんを信じられなかったように、誰かに話をしても誰も信じてくれないと思う。それどころか、嘘つきと言われてお友達がいなくなる可能性もある。それが嫌なら学校でどんなに仲が良い子でも話ちゃだめだ。どうしても話したい相手がいたら、まずは兄ちゃんに相談しなさい。それが約束できるなら魔法の使い方を教えてあげる。どうだい?約束できるかい?」
「お兄ちゃんが噛まずに長台詞!?」
「それはどうでもいい。約束できるの?」
「お兄ちゃんがこんなに長く話してでも説明が必要だって思ってるなら、それはとっても大事なことなんだと思う。だから約束する」
若干の腑に落ちなさを感じながらもスクラが約束してくれた事に満足しておくことにして、話を進めることにした。
今後の魔法を覚えるための手順として、一番最初にガラクが【魔力操作】を教えるために必要な魔法陣の作成、それが完成したら【魔力操作】の練習を開始、魔法陣の作成と並行して座学としての【発動方法】を教えつつ、【魔力操作】がある程度できるようになってから実際の魔法の勉強が始まる。
この順番なのは、まず体内で完全に休眠状態の魔力をアクティブにした上で感知できるようになる必要があるのだが、そのために必要な魔法陣の書き方や資材はタブレットに記載があったのでそれを参考に作成する。
その上で、魔法の勉強の前に【魔力操作】と【発動方法】二つが必須な理由は、その二つがおろそかな状態だと魔法が発動しなかったり、暴走したりとかなり危険な事になるとタブレットの【各種データ説明】に記載があった。
ガラクも当初はタブレットの情報も疑ってかかっていたものの、現在までのところ誤情報が全くない上、チュートリアルの説明者が種族の宗教の主神である牙神。
脱出するまでの間に絶対の信頼に加え若干であれば信仰心を持ってもいいかなと思うに至っていた。
「え?今日から始めるんじゃないの!?」
「まずは教えるための準備を兄ちゃんがしないと始まらないんだよ」
「魔法はすぐに使えないの?」
「ちょっとした失敗で死にたくないでしょ?時間はかかるけど魔法が使える様になれば生活するのに負担が減るから」
お兄ちゃんは一昨日は使えなかったのにとブツブツ言っているが、魔法が使える様にはなりたいらしく言うことは聞くつもりのようだ。
「多分、練習を始めても魔法を使えるようになるのにどのくらいかかるのかわからないんだ。それから、スクラに最初に覚えてもらう魔法は熱耐だ」
「何それ?私も空飛んだりしたいよ!」
スクラは最初の魔法が不満なのか、プィっとそっぽを向いてしまったが、ガラクがこの魔法を選んだのには理由がある。
「そう言う魔法もそのうち教えてあげる。だけど、この魔法が使えるようになると耐熱スーツが要らなくなるんだよ」
今の今まで拗ねていたスクラがバッとこちらに顔を向けると、懐疑的な、それでいて恐ろしく真剣な表情でこちらを見てくる。
耐熱の魔法は調べた限りでは魔法陣で使用した場合は一定以上の熱を遮断する魔法だが、詠唱で使用した場合は若干異なり『使用者が暑いと感じる熱を遮断』する魔法と記載してあった。
他の魔法もそうだが、魔法陣を使って発動した魔法は気楽に発動できるもののファジーさがなく、詠唱による魔法は詠唱を覚えるのに労力がかかるものの、使用者の認識によって色々と調整が聞く柔軟性を有している。
この耐熱の魔法に限ってしまえば、スクラとガラクでは効果にかなりの違いが発生するため、スクラにとっては最初から詠唱で覚えた方がより望ましい効果が得られる魔法だ。
今まで、厚手な上に腰のあたりにエネルギーパックを抱えた耐熱スーツは子供にとって非常に動きづらいものであるが、スクラが屋外で活動するには着用が必須であった。
それを着ないで1時間も外出すれば熱中症で倒れてしまうため、幼児の頃は公園に行っても友達と遊ぶこともできず、学校に通うようになったからと言って体質やこの衛星の環境が変わるわけではない。
学校では友達もできたようだが、その子達と遊ぶときには基本的には家にきてもらうのが原則で、最初のうちは何度か一緒にお出かけしたりしていたが、それも次第に行かなくなった。
可愛い洋服や小物を身につけてオシャレな格好をし、仲良しなグループでお出かけした先でお小遣いの中から安いクレープでも買ってちょっとずつシェアしながら食べ、かっこいい男の子の話でもしながら友情を深める。
そんなことが当たり前な年頃の女の子であるスクラにとって、今までの環境は様々な意味で過酷で心の折れそうなものであり、それを同じ屋根の下で暮らしながらつぶさに見ながらも、ガラクにはそれをどうにかするだけの何かを持ちえなかった。
今では。
「・・・友達と遊べるの?」
「スクラが生活しやすくなる魔法を、兄ちゃんが一個ずつ、いっぱい教えてあげる」
ガラクがそういうと、最初に必要なのは空を飛んだりする派手な魔法ではないと言うその優しい意図がスクラに伝わり、彼女は両手で顔を塞いでポロポロと涙を流し始めた。
が、それはガラクが帰宅した時の恐怖と不安がない混ぜとなった涙とは違い、嬉しさや喜びが溢れ出した涙だと解っているガラクは、その涙が止まるまで優しい眼差しで見守っていた。
泣き止んだのを見計らって説明を続けた。
「魔法陣が完成した後は、学校に行く前に1時間、学校が終わって帰ってきたら1時間は魔力操作の練習時間にしようと思う。頑張れるか?」
「うん」
ひと泣きして落ち着いたのか、素直に返事を返してきた。
「魔力操作の練習はとてもあぶないからひとつ約束をしよう」
「何?」
「魔力操作の練習は危ないから絶対に1人でやらないこと。朝と夕方以外に練習したかったら付き合ってあげるから必ず兄ちゃんに言うこと。約束できるか?」
言った瞬間、スクラのほっぺたがプクっと膨らむ。
「二つじゃん」
「じゃぁ三つ目。魔法の練習を勉強をしている時はちゃんと兄ちゃんの言うことを聞くこと。それを守ってる限りちゃんと魔法を教えてあげるから」
プクっとし膨れたほっぺたをさらに頑張って膨らませながらもスクラは頷く。
ほっぺたに頬袋がついてないのでおそらくもうギリギリ限界でこれ以上は膨らまないであろうスクラのほっぺたを突くと『プヒョ』っと変な音を立てて決壊したため、思わず2人で笑ってしまった。
一通り笑い合ったあと、ガラクがいない間の二日間はどうしていたのか聞いてみた。
スクラは最初は普段どおり学校から帰ってきてガラクの帰りを待っていたのだと言う。
しかし、大体同じ時間に帰宅するガラクがいつまで経っても帰らないので心配し、ガラクの個人ID宛に連絡を入れたが返信がない。
何かあった時に連絡できるようにと冷蔵庫に貼ってあったR/R社の代表に連絡を入れると、会社に戻っておらず仕事をしていたポイント付近で崩落事故が発生して巻き込まれた可能性があると言われた。
それからはガラクが居なくなる恐怖と不安で眠ることもできず、かといってどうすればいいのかもわからず、ただ自室で無事を祈りながら怯えていたらしい。
彼女の母親でガラクの叔母であるスクラが事故で亡くなってまだ1年しか経っていないのに可哀想な目に合わせたと、自分はつい半日前まで遥かに大きな災難に見舞われていたことを棚に上げつつ、昨晩までのことを思い出してまた涙目になって椅子の上で小さくなっているスクラの肩を撫でて慰めることしかできなかった。
今後の方針として魔法のことを話す相手を検討した結果として、ガラクはまずは身近で信用できる人物として休学した今でも普段から仲もよく、R/R社で働き始めるにあたって仕事を紹介してくれたクロスタには話をしようと考えていた。
「スクラの魔力制御にある程度目処が付いたら、クロスタにも魔法の話をした上で今後の相談をしようと思ってるんだ」
「ふーん?クロスタちゃんは喜ぶんじゃない?私は反対しないよ」
どうにも何か歯に物が挟まったような物言いで返答してきた。
「クロスタに何かあるのか?」
「だから反対しないって。クロスタちゃんに早く話せるように私も頑張ろっかな!」
なぜスクラが頑張る話になるのかガラクには皆目検討がついていない。
「毎日2時間じゃ少ないかもしれないね。暇な時間はどんどん練習するよ!」
「今までに経験のない技術の練習だからあまり無理はしないようにね。あと、1人で練習しちゃダメだからね?わかってる?」
わかってるよもー!と言う回答を聞きながら、やる気を出すのは大変結構なのだが、なぜそうなったのか頭を捻るばかりだった。
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