第5話 男性との飲み会

 もう5月になり、授業にも普通に出席していた。英文科は、もちろん女子大だから女性ばかり。そんなに英語は不得意じゃなかったから、なんとか過ごしていた。


「彩って、あの室井さんと仲良いんだよね。あの人、変わっていない? なんか暗いし、話しかけても、あまり答えてこないっていうか。」

「そんなことないよ。いつも笑ってるし、楽しく話しているよ。」

「そうなんだ。でも、気をつけた方がいいよ。なんか、雰囲気の悪い男の人が周りにいて、気に食わないと、乱暴されるとか聞いたこともあるし。」

「本当? そんなことないと思うんだけど。」

「彩って、天然だから、気づかないだけだよ。」


 その日、理恵の部屋に行って理恵に話しかけた。


「今日、友達が、理恵は雰囲気の悪い男を使って、気に入らない女に乱暴しているとか、ありもしない話しをしてたんだよ。ひどくない?」

「私、昔から、よく言われないし、気にしない。でも、言ってくれて、ありがとう。私、前にも言ったけど、男性とはあまり近づきたくないし、女性も私のこと好きって思ってくれる人って少ないし、あまり人に溶け込めないんだ。だから、彩がいてくれて、本当に助かってる。」

「大丈夫、大丈夫。私は理恵のこと、信じてるから。」


 なんか、女性って、本当か嘘か分からないけど、人が言ってるとか言って、噂話しするの好きだな。自分が見たとか、聞いたことないし。女性って、こんな感じだったっけ? なんか嫌な感じ。


 翌日、いつも付き合っているグループとは違うグループで、好きな歌手のコンサートに行くとか話していたから、入ってみた。


「ねえ、ねえ、スピリットのコンサートに行くって盛り上がっているみたいだけど、私も話しに混ぜてくれない?」

「彩さんね。あの、室井さんと仲良しの。」


 あれ、なんで知っているんだ? もしかしたら仲のいい友達グループの誰かが広めてる? そんな裏切りみたいことするなんて、あるのかな?


「そう、室井さんとは仲良しだけど。」

「あなたも、男使って女をいじめているの?」

「室井さん、そんなことしていないよ。それって、根も葉もない噂だって。そうそう。いつ、どこのコンサート? あ、これ、夏に横浜アリーナでというやつ?」

「ふ〜ん。」

「どうかな。みんな、行こう。」

「そうね。今日のランチ、不味くなっちゃった。」

「あれ? 行っちゃうの?」


 それ以降、このグループの子達と話しても、はぶられているっていうか、なんか無視されてしまう。さらに、私は男にだらしないとか噂になっている。男なんて好きじゃないんだから全くの嘘なんだけど。なんか、女って関係が難しいな。


「彩、なんか悪い噂流されているよ。男にだらしないって? そりゃー、男にモテるってことだよね。いいことじゃない。気にすることないよ。」

「ありがとう。」

「そのうち、誰も言わなくなるって。あのグループって、本当に柄が悪いっていうか、いずれ、みんなから相手にされなくなるね。それよりも、男友達から一緒に飲みに行こうって誘い受けたんだけど、みんな行くよね。」

「行く、行く。」

「どんな人なの?」

「それが、京王大学の3年生だって。」

「いいんじゃない。」


 男性と飲み会? なんかやる気出ないな。でも、断るのも、角が立つし。


「いつのなの?」

「5/19の金曜日だって。そうそう、男性にモテモテの彩も来ないと。」

「ちゃかさないでよ。5/19は行ける。メンバーに入れておいてくれる。」

「みんなも大丈夫だよね。うん。では、こちらは4人、男性も4人でセットしておくね。場所は、六本木あたりだと思う。」


 なんか面倒だけど、これも付き合いだし、仕方がないか。


 男性との飲み会の当日になった。学生同士なので3時からの開始だった。最近は、私も彩で〜すなんて自然に言えるようになり、女性の服にもなれ、喋り方も立派にマスターしていた。


「こんにちは。女性陣4人で〜す。」

「きたね〜。いや、美女ばかりだ。大学1年生だし。今日は上がるね!」

「いえいえ、どう座ればいいでしょうか?」

「あなたは、こちら。あなたは、こちら。こんな感じかな。」

「私たち、未成年ですから、お酒は飲まないですよ。」

「冷たいな。少しだったらいいよね。なれてきたら、考えてみて。」


 飲み会は始まった。


 なんか、こいつ、私の胸ばかり見てるわね。こんなに男性って、女性の体を見ているのかな。まあ、笑顔で、そうですね、そうですねと言っておけばいいんでしょ。そうすれば、時間が終わって、帰れる。


 そんな形で始まったけど、私は、横からヨイショされて、まんざらではない気分になっていたの。


「彩さんって、綺麗だし、スタイルもいいし、男からいっぱい声かけられるんでしょう。こんな素敵な人っていないよね。」

「そんなことないですって。でも、そう言ってくれると、嬉しい。」

「いや、そうだと思う。まず、飲んで。いつも、休日とか何しているの?」

「何かな。気づいてみると何もしてない。あはは。」

「そりゃ、もったいない。彩さんは、誰もが認める美人なんだから、外に出る義務があるよ。そうだ、これは憲法に定められた義務だ。なんて。」

「そんな、いい過ぎですよ。」

「いや、こんな美人、自分の彼女とか言って、周りに紹介したいな。どう?」


 こんなことをずっと言われ、お酒も飲まされて、私は、よく分からなくなっていた。そして、体が熱って、なんか、横の男性がカッコよく見えてきたの。


 なんか、胸板が硬くて広いって、カッコいいのね。なんか、下半身がむずむずする。どうしたんだろう。酔ったふりして、腕組んでバストを押しつければ、少し興味持ってくれる? 


 なんか、横の男性に抱かれる姿を想像しちゃってた。あれ、私って男性なんだよね。でも、横の男性が素敵に見える。見つめられると、恥ずかしくて、顔、見れない。何でだろう。


 横の男性が、ふと気づくと、私の手の上に手を乗せてる。なんかドキドキしちゃった。手って、とっても暖かいんだ。手だけなのに、なんか包み込まれている感じがして、心が温かくなる。こんな気持ち、初めて。


 そんなことされると、なんか、キスをして欲しくて、口を開けて彼の顔を見ちゃった。ダメダメ、そんな求めるようなことしゃちゃ、誤解されちゃう。


「彩さん、今、飲んでるドリンク、どんな味か僕にも飲ませてくれないかな。」

「いいわよ。」

「じゃあ、飲ませてもらうね。美味しい。でも、これって間接キスじゃなか。やった。」

「積極的なのね。じゃあ、私も、飲んじゃう。あ、間接キスしちゃった。いやだ。」


 私は、体の興奮を抑えられなくなっていたの。少し、時間も経って酔いが回ってきて、いつの間にか、腰を横の男性にくっつけ、手で彼を叩いたりしてボディータッチもしていた。どうしちゃったんだろう。なんか、ずっと、そばにいたい。


 気づくと、横の男性は、私の腰に手をかけていた。気づいたけど、気づかないふりしてたの。離れたくないから。そして、私も、気づかないうちに、ももを彼の体にピッタリとつけていたの。


 どうしたら、横の男性の気持ちをひけるんだろうかなんてことばかり考えていた。暑いと言って、バストが見えるように、少しはだけるとか。私を抱いてほしい。


「ねえ、彩って、ベタベタしすぎじゃない。顔が少しだけいいからって、図に乗っているんじゃない。」

「そうよね。やっぱり、男にだらしないって本当だったんだ。」


 女子トイレでは、友達がこんな会話を続けていた。一方、男子トイレでは、こんな会話がされていた。


「この媚薬、効果てきめんだね。彩って子、もう持ってける。俺と2人でこの後、みんなと別れる。お前たちはどうする。」

「みんな目星はついた。じゃあ、バイバイね。」


 私は、気づくと、どこかの部屋にいて、ベットに横になっていたの。時間をみると夜の7時。


「あれ、ここどこ? みんなは?」

「大丈夫。これから、僕とカラオケをするんだ。」

「そうなのね。でも、ベットの上? あれ?」


 いきなり、さっきまで一緒だった男性が上に乗ってきた。彩ちゃん、かわいいねと言いながらキスをしてきた。


 いきなりで驚いたけど、なんか満たされた気持ちでいっぱいだった。抱きしめられるって、こんなに安心感に溢れるんだ。知らなかった。なんか、ずっと、このままで抱きしめていてほしい。


 彼の胸板とか憧れちゃう。筋肉もすごくて、かっこいい。そう、そのがっしりとした体で抱いて。ぎゅっと私を壊して。


 私は、もう自分を抑えられなくなっていた。下半身が、さっきから相変わらず、むずむずして我慢できない。もう、濡れちゃってる。


 気持ちいい。やめないで。でも、体だけじゃなくて、この人好きって気持ちが抑えられない。好きな人に抱きしめられたいという気持ちが抑えられない。


 この硬くてたくましい体、なんかとっても魅力的。もっと来て、やめないで。私は、あなたのものだから。私は、両手を上げてのけぞっていた。


 でも、彼は、私の体の中に出し切ると、いきなり立ち上がり、帰ろうとしたの。


「さあ、9時になったし、帰ろっか。女子大の寮って門限もあるんだろう。」


 まだ帰らないで、私を、ずっと抱きしめていて。この時間がずっと続けばいいのに。ずっと、抱きしめていて欲しい。帰っちゃうんなんて寂しい。


「もう帰るの? 寂しいな。でも、門限もあるし、また会ってくれる?」

「そうだね。今度、連絡するよ。LINE教えて。」

「わかった。」


 でも、それから数日経っても、彼からの連絡はなかった。また、私は、自分の変化を感じていた。最近、お風呂で女性の体を見ても全く興奮しないのに、ついつい男性に目が行ってしまう。


 背中がかっこいいとか、胸板がかっこいいとか、抱かれたいとか、そんなことばかり考えるような毎日となっていたの。


 久しぶりに、理恵の部屋で夕食を一緒に食べていた。


「彩、最近、ちょっと冷たくない?」

「そんなことないけど、この機会だからいうと、なんか、ちょっと、女性とエッチするの、気持ち悪いって思うようになっちゃったんだよね。ごめん。理恵が嫌いとかじゃないよ。」

「そうなんだ。仕方がないね。寂しけど、別の人探すしかないな。」

「本当にごめん。」

「たぶん、初めての経験で、興味があっただけなんだよ。よく聞くことだし。それとも好きな人できたの?」

「好きな人というのはまだなんだけど。」

「じゃあ、エッチはやめるけど、時々は、一緒にショッピングとか付き合ってね。」

「わかった。」

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