吉とでるか凶とでるか チートも貰えて美人確定 今度はきっと楽しめる

明けの明星

第1話 誕生

とうとう一人になった。


覚悟はしていたつもりだった。


長く患っていた祖母をついに見送り、

いろいろな手続きも何とか終わった。


会社に届けた休みも、あと3日は残っている。

でも今住んでいる家を出ないといけない。


新しく住む場所を借りるにしても、保証人のいない若くもない、

世の中のことに詳しくもない、独り者の女性に世間の仕組みは生きづらい。


絶望感にめまいがしてくる。


まだまだ家での片付けもある、祖母の遺品の整理や引っ越し準備、

どのみち家を出ていかなければいけないのだから、休みの間に目処をつけた方がいいだろう。


疲れた。


トボトボと歩いて帰宅する途中、何も食べる物がないことに気づきコンビニに寄ることにする。


くらっと身体がふらついて、意識がなくなった。




気がつくと、真っ黒な世界にいた。


目が見えない?


ココは何処?


上も下もわからない、怖くて動けなかった。


「あなたは死んだの。ようこそ黄泉の国へ。わたしは世界を司る神のひと柱。」


声がしたと思ったら、明るくなって周囲の様子がわかるようになった。

そこは宮殿か神殿の様な場所だった。



「わたし、あの、コンビニに行こうと…」


「そうね、でもあなたは死んでしまったの。過労と風邪、無理が祟って知らない間に手遅れになっていたのよ」

 

「死んだ…死んだんですか!」


「そうよ、今までお疲れ様。普通だと記憶を消去して、輪廻の輪に戻すのだけれど。今なら、異世界でやり直しも選べるわ。」


「…異世界。あの、輪廻の輪に戻る場合は、あの世界で生まれ変わるという事ですか?」


そうか、もう頑張らなくてもいいのか。


「えぇ、あちらもこちらも選べるわ。どう、異世界に興味はあるかしら。」


「…はい、異世界ってどのような世界でしょう。」少しワクワクする。魔法あるかな。


「フッ…あるわよ、魔法。そして剣も魔獣もいる危険で弱肉強食の中世ヨーロッパ風の世界よ。」


心を読まれたのかな、まぁ話がはやくていいかな。


「魔法!わたしも魔法使えますか?」


「使えるわ、魔力の設定も多くしてあげるし、チートということで、身体もいじって身体能力を向上して。では転生先は異世界でいいのね。」


「あの、なぜ今なら異世界も選べるんですか?」


「魔力を送る時期だったの。あなたを通じて魔力を補充するのよ。だから、勇者召還とか聖女召還とかではないし、特別な役目とかもないの。がっかりさせちゃったかしら。」


「そんなことはありません。むしろ何かお役目があったら、きっとプレッシャーに感じていたと思います。赤ちゃんからのやり直しになりますか?」


「いいえ、十代の女の子の予定よ。若返るんだけれど構わないかしら?」


「ありがとうございます。厚かましいこととは存じますが、容姿についてお願いできますでしょうか?」


「なにかしら。」


「転生する異世界に馴染める姿を希望します。そして出来るだけでいいので、見目の整った容姿でお願いしたいです。」


「理由を聞いてもいい?」


「…はい、わたしは自分に自信がありませんでした。それでもこれが自分だと、自分は自分と思って受けていましたし、いいところもあると思っていました。嫌いではなかったですが、でもチャンスがあるなら、姿形で損せず生きたいと思います。」


「損をしたと感じているの?悔しいとか?でもあなたからはあまりそう言った感情は伝わってこないけれど。」


「…容姿だけで自分に自信が持てるとは思っていません。でもわかった事があります。容姿も武器のひとつなんです。「武器」を使いこなせるかはわたし次第。見た目はとても大きな要素なんです。」


「いいでしょう。あちらの基準でも美しいと思われる容姿にしてあげるわ。でも、あちらの世界は、危険がいっぱいよ。美しいことで狙われたり、攫われたり身の危険も出てくるわ。」


「魔法で危険をしりぞけられるでしょうか?…」


「…あなたにあげるのはいわゆるチート。魔力は使い方をよく勉強すれば、とても万能だし、身体能力も基礎直を高くしてあげるわ。あなたが魔法を使いこなせれば、攻撃力も防御力もあなた次第でいくらでも高められるし創造できるわ。………少し楽しみになってきたわ(小声)。あなたにもう少しだけ時間をあげることにするわ。実は16歳くらいに転生させるつもりだったの。あちらでは15歳が成人なのよ。すぐに働いたり冒険者になったり結婚もできる。でも身体や魔力に馴染む時間、そして鍛えてスキルや技術を身につける時間をあげることにしたわ。あなたは6歳で転生する。あっ、大丈夫よ。当面生活するのに困らないように準備してあげるわ、やりすぎかしらねえ。でも6歳だしね、言葉や文字も分かるから安心よ。」


「ありがとうございます。お願いをきいて頂いて…」


「気にしなくていいわ、言うなれば神の気まぐれだもの。はじめはただちょっとチートにして、流行りに乗っかって異世界転生って思っていたけれど、あなたと共に送る魔力も含めて、どんなふうに世界に影響するのか。分からない事って神にとっての娯楽のひとつなの。楽しいからいいわ。でも気をつけてね、スタートは、6歳だしレベルは1よ。すぐに死なないような頑張ってね。」


「…すぐ死ぬかも?…えっ!」


急に床が抜けた様な浮遊感の後、急激な落下?


ウソウソ落ちてるゥー。


「イヤァー?アレ、いたくない?死んでなイ!やった生きてる。」


よかった、本当に心臓ヒュッーってなったよ。心臓発作起こしそうだったよ。ピタッ?ンn?胸にやった手が肌に当たる、なぜ肌、なぜ裸!


女神様、どういうことですか?


慌てて周囲を見回す。心臓がうるさい、恐い!


服が着たい、でも動いて大丈夫か気配を探る。遠く遠く遠く…脅威となるものがいないかそっと探していく。


ピロロン

[気配探査レベル1を習得しました]

[聴力強化レベル1を習得しました]

[恐怖耐性レベル1を習得しました]


アナウンスが聞こえて驚いたけれど、次の瞬間には落ち着いている自分がいる。

恐怖耐性を習得したおかげだろうか。


ステータスのことを考えると目の前に『表示』が現れたが、今は服を着るのを優先する。


とりあえず気配探査を常時発動しながら、女神様が困らないようにして下さるとおっしゃっていたのだからきっと大丈夫?のハズ。


まず服だ、服を着ないと!


周りに何も荷物がないということは、魔法で取り出す場所にあるのだろう。


まず声に出さないで、(アイテムボックス)と唱えてみた。


目の前に何かがあることがわかる。手を入れてみるととにかくいろいろ入っている。


下着と服と靴を出したいと思うと外に出せた。


やっとひと心地ついた、裸って心細い。そういえば、ちゃんと今の身体に合った服が入っていた。


その時気配探査に何かコワイ気配が引っかかった。


逃げなきゃ、隠れなきゃ、一瞬だけ混乱するが木に登ることにした。


近くの青々した大木に近づいてみる、ウァー、一番下の枝でさえ2メートルは離れてる。


とりあえず、一度飛びついてみた。まったく届かない。


次は身体強化を使ってみる。脚と腕、指先を意識して飛んだ後しっかり枝を掴んで身体を引き上げることを具体的にイメージする。


少し下がって、助走をつけてしっかり踏み込む。


グゥーんと飛んだ!と思ったら目の前に枝が迫っていた、慌てて掴み幹にしがみつく。


ここではまだ低いかもしれないので、上の枝を目指す。


⒈5メートルくらい先に飛び移れそうな枝があったので、恐怖を抑え込みもう一度身体強化して飛びつく。


気配が近づいてきたので、呼吸を鎮めて様子を伺う。間に合ったようだ。


ソレはモヤモヤした黒いものだった。


なんだか息が苦しい気がする、木に擦り寄って匂いを嗅ぐと木の皮の匂いがして少し楽になった。


木の匂いが自分を包んでいるのを意識しながらゆっくり呼吸する。


木とひとつになっていくイメージを維持しながら、そのコワイものを観察する。


コワイものは、わたしがいたあたりの匂いを嗅いでいる。獲物だと、目をつけられたのだろうか。


このままだと、ずっと狙われる。


どうしたらいい、何かないか、自分にできること。


じっと、黒いモヤモヤを見つめていると[闇属性]と浮かんできた。


闇?対抗策は、と考えると[光]と浮かんでくる。


まぁ、そうだよね、光だよね、わかりやすい。


あのモヤモヤが消えればどうにかなるかなぁ。


そっと手を翳し、モヤモヤが消えるイメージを思い浮かべてみる。

重い、なんだろう、思考するだけなのに、重りをつけた手脚のように動かすのが重い。


頑張れわたし、こいつにずっと追い回されたら大変だ。

今ここで何とかするしかない。


消えろ、消えろと念じ続けてどれくらい経ったのか、体感では1時間くらいに感じたが実際は2、3分くらいだとスキルが告げてくる。


コワかったものは今も下をウロウロしているが、黒いモヤモヤがすごく薄くなっている。


あと少し。


コワイものは、猪みたいな見た目だったのか。もうそれほど怖くない。


完全にモヤモヤが消えると、猪はキョロキョロして立ち去った。


わたしは、あの黒いモヤモヤがコワかったのだと知った。


ピロロン

[アイテムボックスが解放されました]

[恐怖耐性が2にレベルアップしました」

[身体強化レベル1を習得しました]

[気配遮断レベル1を習得しました]

[同化レベル1を習得しました]

[同化がレベルアップしました2]

[鑑定レベル1を習得しました]

[光属性魔法 浄化レベル1を習得しました]

[浄化がレベルアップしました2]

[体内時計レベル1を習得しました]







どうやら最初の危機は乗り切ったらしい。でもかなりギリギリだったような?もしかして危機一髪?


疲れた。今はまだ午前である。


習得したスキル体内時計のおかげで時間が分かるようで、日本でいうと6時くらい、正直もう寝たい。


でもサバイバルは始まったばかりだ。


木の股に腰掛けたまま考える。


優先順位はなんだろう。


まずは自分が何を持ち、何ができるか、ここがどこで、今後どうするか。


アイテムボックスを見てみるか。


あれっ、棚がある?服、下着もたくさん、…6歳、7歳、8歳…17歳。凄い、見出しがずらっと。


棚には、年齢別に春夏物、秋冬物の衣類や靴や外套などが仕舞われていた。

他にも、防具、武器、護身用アイテム。


中はとにかく広く、食糧保管場所、日用品、建築関連グッズ、農作業関連グッズ、積雪対策、海難救助・漁業に関する道具、ダンジョン探索装備品、魔法工房諸設備、野営野外装備品、砂漠の民の旅支度、ジャングル攻略グッズ。


えぇ〜!あっ、メモ。


『どこに転生するかわからなかったので、世界のどの場所に落ちても大丈夫なように準備してあげたわ。あっ、火山の場合を忘れていたかも、その時はゴメンなさいってことで頑張ってね。』


危なかった、命拾いした。火山もあり得たのか。


真冬の山の中に裸で転生していたかも、いや砂漠のど真ん中とかもあり得たのか。海ってことも!


とにかく、そんな目に遭わなく本当にラッキーだったわ。


気を取り直して6歳の棚にあった防具の中から胸当てをつけ、護身具の腕輪と指輪、ペンダントを身につける。


鑑定して腕輪は体力と生命力の強化、指輪は身体能力の強化、ペンダントは状態異常の無効化だ。鑑定のスキルがはやくに使えるようになって良かった。まだまだレベルが低いから守りは重要だ。


武器は子供で手も小さいのでナイフにしてみた。これも6歳用の棚にあった物だ。鑑定したら女神謹製の普通のナイフとの事?


見た感じ日本のモノっぽい。そういえば日用品など道具類も馴染みのあるモノが多い気がする。ただ全部ではない。使い方があまりよくわからないものもあるし、日本のものじゃなさそうなものもある。


なんだミスリル製とかじゃないんだ。護身具なんてあったから魔法のアイテムばかりかと思った。


でもそうだよね。チートももらってスキルも容姿もお願いして着るもの食べる物にも困らないようにしてもらっているのに、その上神様のアイテム持ちとかはさすがに欲張りすぎだろう。


日本っぽいものが多いのは使い方が分からなかったらあっても困るし、自分で創造しろといわれても単純な仕組みならいざ知らず、見たことはあっても作るなんて無理!という道具もある。


これから異世界転生する人たちに助言しよう。


物の仕組みや作り方など身の回りのものをよく観察するのがよいと思うよ、なんてね。


さすが女神様、ポヤッと現代日本で事務職していたわたしには、アウトドアもモノづくりもハードルが高い。


石鹸も作ったことないし、味噌も醤油もマヨネーズも手作りしたことない。買えばすむから外食も多かった。疲れて帰って食事の支度とか、そんな体力気力はなかった。


食糧はパン、干し肉、干した果物、水、塩。量はたくさんある、数を確認したらだいたい3ヶ月分。


ありがたい。どこでなにをするにしても、軌道にのるには多少は時間がかかるものだ。


それにしてもこのアイテムボックスはすごい。中に何が入っているかはもちろん、どれだけ入っているかもわかる。しかも食品などの場合単位?がわかること。


たとえば1日分がいくつか。ということがわかるので把握しやすいのだ。1日がわかれば、そこから一食はどれくらいかわかるといったように、いろいろ素人のわたしにも管理しやすいようになっている。



それにしても日用品の中にあった鍋や包丁、フライパンや食器類は日本っぽいものとこちら風のものがあった。


香辛料とか調味料とかはなかったが、農作業のコーナーに野菜などのタネや穀物類があった。


馴染みのある野菜とよくわからないものがあり、とうもろこしや稲、豆類などもあった。もしかすると香草類のタネとかもあるのかも知れないが、そのためには育ててみないとわからない。しかもどれも一袋づつと量は多くないので、慎重に試そうと思う。


魔法関係のものの中に、錬金術セットというのがあり、ここにも何かのタネがあったのだがここで鑑定スキルのことを思い出し片っ端から鑑定してみた。


鑑定すると、道具の基本的な使い方やタネのこともわかった。


一応簡単に全部を確認してみたが、薬がないことに気がついた。


考えてみれば、女神様が下さった物の中にはお金もなかった。


あと地図も本もなかった。娯楽要素も。


この世界を示す物、文化、歴史、音楽、宗教。


つまり自分で調べたり作ったり?


ステータスオープンってできるのかな!おっ、できた。


名前: ( )

種族: 人間

年齢: 6歳

レベル: 2

体力: 5+200

魔力: ♾

攻撃力: 3+200

防御力: 2+200

俊敏性: 2+200

幸運: ♾


スキル: 創造、成長促進、アイテムボックス、体内時計、鑑定2、身体強化、聴力強化、気配遮断1、(魔法属性)分析1、恐怖耐性2、気配探査2、同化2、浄化2



魔力量の心配はないとわかって嬉しい。ここからは魔力がたよりだもの。鑑定を使いまくったらレベルがひとつ上がっていた。


とりあえず、とにかくいろいろ試してみよう。


気づけばお昼になっていた。枝に腰掛けたままパンを食べる。周囲を探って脅威になりそうな気配はなかったので、身体強化を意識して下に降りる。


飛び跳ねたり岩を持ってみたりして、どのくらい強化されたのか確認する。


次は魔法が使えるか試す。


さっき浄化は出来たのだから他の魔法も使えるはず。


まずは指先に火を灯してみる。これはできた!なんだかそれだけでとっても嬉しい。


次は拾った乾いた木の枝に火を近づけて燃えるか試す。良かった、ちゃんとついた。


火が消えるように念じるとフッと消えた。


指先の火を大きくしたり小さくしたりしてみる。次は火を灯す指を増やしたり減らしたりする。


なんとなく慣れてきたので、水の魔法も同じように試してみる。


つい夢中になって練習したせいか日が暮れてきた。もう一度木に登りアイテムボックスからマントを出して寝ることにする。木の上でパンを食べ、幹に縄をかけて身体に結ぶ。


明日は周囲の様子や拠点になる場所を探そう。


マントが暖かくて心配していたよりよく眠れた。


気配を探り木を降りる。


いろいろな魔法を試したいが、まずは移動手段と逃走手段の両方の面からなんとか「飛びたい」と考えている。


昨日の要領で身体強化しながら浮き上がるイメージでやってみる。


少し違うようで魔力を纏い、周囲の魔力に同化し、移動したい方向を意識して!というイメージでやってみた。やった、出来た!移動を開始。


フラフラする(姿勢制御が難しい)。


まずは全体像を掴むべく上空へ。かなりの高さにやってきた。空気が薄い寒い。でも気持ちいい。視界がぐんとひらけて見渡す限り森が続いている。


高度を上げさらに移動、やっと人の住処らしきところ発見。こちらには山々が、あっちの方には大河が、その向こうには海に続いているようだ。わたしのはじめにいた場所は、大陸内部の大きな森林地帯らしい。コンパスを使って方位を調べてみる。


森の東が一番近い国になりそうだから、行ってみることにした。


空中で静止し、アイテムボックスから筆記具を取り出して見たことを記録する。


街道を発見し進むと、いくつか村らしき集落があり、やがて立派な城門が見えてきた。


今度は人の目につかいないように出来ないかイメージする。


[気配遮断がレベルアップしました、隠密⒈を習得しました]

[同化がレベルアップしました3]

[飛翔2を習得しました]

[隠蔽:擬似透明化1を習得しました]


わたしは、街に潜入することにした。







人の出入りを観察すると、兵士か門番のような人たちが対応していた。一人づつ身分証のような物を確認したり、聴き取りしたりしている。


あと、決まった金額を告げて硬貨を受け取っている。入国税の様なものだろう。

銀貨にみえるが2枚くらい必要らしい。


あと水晶玉みたいな物に手を当てている。何を調べているかは想像がつくが、あまり詳しく調べられると、わたしは困ったことになるだろうな。


ラノベの知識だと、犯罪者かどうかの簡単なチェックの場合が多いようだが。

近寄って、やり取りが聞こえるところにそっと潜む。


「辺境最大の街サンドルにようこそ、入るには銀貨2枚をもらうよ。それから身分証を見せてくれ。身分証がない場合は、名前、出身地と年齢、来訪目的を聞くことになっている。あと保証人はいるかい。」


「あの名前はウルド、15歳です。森から五つ目の村アガノールから来ました。保証人はいません。成人したので、冒険者になりたくて登録しに来ました。」


「なるほど、成人おめでとう。保証人がいない場合、街に入るのに銀貨5枚必要だ。聞いているかもしれないが、冒険者ギルドでも商人ギルドでも、どこかに登録したら銀貨3枚は戻るから忘れないようにね。」


「はい、聞いてます。ご親切にありがとうございます。よろしくお願いします。」

少年は銀貨を兵士に渡した。


「さぁ、これに手を当てて。」


「これが鑑定水晶!はじめて見ました。」


「街にしかないからね。簡単なことしか分からないが、犯罪を犯していないか確認するんだ。とても大切なことなんだ。…あれ君、討伐履歴があるね。村で盗賊退治したのかい。」


「はい、村のみんなで。小さな集団だったらしいけど、とても怖かったです。」


「少しだけど、討伐報酬が貰える。あと村にも報酬が届けられるよ。」


「そうなんですか。よかった、討伐で怪我した人もいて、報酬が受け取れるならみんな助かります。」


「じゃあ、中で手続きしていって。はい、じゃあ次の人どうぞ。」


まず、銀貨5枚必要なのか。ギルドって、何歳から入れるのかな?


あと、村の名前覚えて、盗賊を狩れば報酬が貰える。待て待てわたし6歳、流石に賞金稼ぎになるのは早いだろう。第一狙ってなれるものでもない。


まぁ、もうちょっと(うんと)戦闘力が上がったら考えよう。


さて見たことをメモした後は、門の方はもういいか。まだ時間もあるので次は街の中を観察しよう。


そっとその場から浮き上がり、城門を越える。さらに高く上がり街並みを見下ろすと、庶民の暮らす下町、商人、工房、スラム、そして貴族街。


俯瞰するとわかりやすい。この格好で溶け込めるか確認しようかな、庶民のところから見ていくか。


季節は春先、どの家も洗濯も終わっているようだ。


服装は大丈夫そう。わたしくらいの子たちもいて、みんな働いている。働くといっても家の手伝いがほとんどのようだ。


少し近寄ってみると会話が聞こえてくる。


「ねぇお母さん、わたしも早くギルドに登録したいよ。そうすれば、お姉ちゃんみたいに毎朝綺麗なお洋服着られるのに。」


「あともう少しだわねー。七つになれば職人ギルドにも商人ギルドにも登録出来るわ。でもね、お姉ちゃんみたいに綺麗なお洋服着られるようになるには、何年も一生懸命働いて、周りの方達に認めてもらわなけりゃならないのよ。」


「そっかぁ、わかった。ねぇ、お隣りのジオ兄も毎朝出掛けてるけど、いつも違う所に行ってるみたい?なんでかな。」


「ジオくんは、たしか冒険者見習いだったわね。たぶん見習い仕事で、街のいろいろな依頼をこなしているのね。頑張ってるのねぇ。」


「冒険者見習いもギルドに登録してなるの?」


「そうよ。七つから登録できるし、たくさんじゃないけれど、お金も稼げるわよ。ランクが上がれば、すご〜くたくさんお金を稼げるけれど、とっても危険だから心配だわね。」


「じゃあどうして危険なのに冒険者見習いになったの。」


「たぶん、去年お父さんが亡くなったからかもしれないわね。ジオくんは、家族想いの優しい子だもの。たくさんお金を稼いで、お母さんや妹たちを安心させてあげたいのかも。」


「…そう。」


「…いっぱい鍛えて、たくさん勉強すれば、きっと強い冒険者になれるんじゃないかしら。応援してあげましょう。」


「うん、たくさん応援するよ。」


ギルドは、7歳から登録できる。そう、この世界は危険がいっぱいなのだ。


死が身近に寄り添うのが当たり前な毎日。


でも、子供でも稼ぐ方法がある。しかも7歳から。それに死のない世界はない。元の世界だって、貧しい家庭や暴力はあった。それらが、この世からなくなる日はこないのかもしれないが、だからといって幸せを求める気持ちを諦める必要はないはず。


ジオくん、わたしも応援しているよ。


その後、冒険者がいっぱいいる区画や商人ギルドの周り、大きめな店構えの区画にも行ってみた。


大人に混じって子供が働いていた。子供でもできることや、大人がやってることを学んでいるようだ。


これならわたしが紛れ込んでも大丈夫そう。


公園があったのでお昼にした。

アイテムボックスからパンを出して食べる。


食糧は当面心配いらない量が入っていたとはいえ冬越しのことを考えると狩を覚えた方がいいだろう。


森には食べられる果物とかもあるし薬草や野草は鑑定しながら探せばいいが、アウトドア初心者としては心得ておくことやルールなどを教えてほしいと思う。


この後は、学校を見に行こうと思っている。どんな事が学べるかによって、今後の計画を立てようと思う。


結果として学校はある。その日のうちには見つからなかったが。


ちなみに拠点として毎日森に帰っている。森での寝起きは、それだけでいい魔法の訓練になった。


午後から学校らしき建物を探したが見つけられず、ならば子供たちの登校下校の時間帯ならと考えたが、結局みつけられそうになかったので、野宿の準備を優先することにした。


わざわざ森まで戻る理由は、やっぱり怖かったからだろう。わたしにとっての始まりの場所だからか、ほかよりも落ち着く。


というわけで森の中に簡易の"寝ぐら"を作ろう。野宿やキャンプの経験はないがやってみる。


まず、観察。…


見渡す限り木ばっかり、洞窟とかないのかと辺りを飛び回った。少し離れたところに洞穴を見つけられてよかった。中を気配探査で確認して、先住民(魔物や獣)はありがたいことにいなかった。


ここで、わざわざ飛び回って探さなくても探査で探せたかもと思い付き、ちょっとへこんだが次回試せば良い。


罠とかガスとか警戒したが、若干何か匂う気がする程度。あとはこれまた何かの骨や埃とかがあるくらいで、掃除すれば快適な住まいになりそうだ。横穴とか毒虫とかもいなさそう。


匂いを我慢しながら、骨みてウップとなりながら、風魔法を使って外に掃き出す。掃き出したものは、火魔法を使って燃やしてみた。


どちらも最初は威力がまったくなかったが、それぞれ繰り返して試したらなんとかなった。


この世界には、生活魔法ってあるのだろうか?

試したら出来た。(クリーン)どことなく綺麗になったから良し。


つぎに試したのは、結界魔法だ。

ぐっすり眠るためには不可欠である。


出入り口から室内(仮)を囲い、外敵などの侵入を防ぎ守護するイメージ。


これって、ラノベ風にいうなら『絶対防御』とか『完全防御』とか?


常時発動?それとも『固定化』出来た!コレでやっと眠れる。



あのまま眠ってしまった。起きたらだいぶ遅い時間で、学校探しは午後からにする。


喉が渇いたので、アイテムボックスから水を出して飲んだが、この辺りの水場を探そう。ちなみにわたしの水魔法で出した水を鑑定したら飲めることがわかった。ただ水場は探そう。泉や小川などはとても癒されそうだ。


さて結界は維持、留守の間に誰か入ってきたら困る。せっかく綺麗に掃除したんだから。


その前にトイレ!えっ!どうする。


家の中に作る、もう外はイヤだ。落ち着かないし、無防備になる気がする。穴を掘る、臭くないように何かする?魔法で?どんな魔法で?


洞穴の奥に、土魔法で深めに穴を掘る。時間がかかったが!ここにも小さい結界を張る。中に生活魔法の『クリーン』を常時発動。外から落ち葉や枯れ葉など、ふかふかした感じのものを入れる。料理の発酵をイメージ、さらに攪拌をイメージしてみる。便座の代わりに土魔法で座るところを作る。


ちなみに、紙の代わりは葉っぱ。落ち葉と一緒に、肌触りの良さそうなものを一緒に集めてきた。(クリーン)できれいにし、置き場所を作った。


トイレする都度、枯れ葉を足し攪拌と発酵、自分にも(クリーン)。


そもそもクリーンを使うなら紙の代わりはいるのか!と思うが今まで紙を使っていたのにすぐ切り替えられるかわからない。試しにクリーンでスッキリ出来るなら葉っぱは不要ということだ。


それにしても一部の魔力制御が上手くなった気がする。


街に行ったらトイレ事情も調べよう。


あっ、水場を探さなきゃ!


戸締まりというか結界を確認し魔力を操作して空へ。この「飛ぶ」魔法は「飛翔」。これで接敵したらすぐ逃げられるハズ。


空中から川を探す。幾つか見つかったので、流れをみていく。小さな滝や泉もあった。


その中でも比較的近い場所に湧水があり、鑑定して飲めることを確かめた。土魔法で甕をいくつも作り水を汲む。風魔法と重さを消す魔法で洞穴に運ぶ。


ひとつはそのまま隅に置き、他のものは、水魔法で水を浮かせ甕は土魔法で形を変えてお風呂を作る。


水の温度を操作してちょうどいい温度にする。


お風呂に入れて満足しながら思う。もしかして水魔法のほうが楽だったかも?まぁいいか、滝も小川も綺麗だった。散歩とかピクニックもいい。


魔法の練習したり近くを探索したりと大分疲れてしまったが、学校を探しに行く。街のなかを2時間くらい観察したが、明日また探すことに。


洞穴でパンを齧りながら、春とはいえ温かい物が食べたいと切実に思った。


これは料理が出来るようにしないと。

なぜかステータスに料理人レベル2がついていた。ほんとになぜ?まさか発酵と撹拌のせい?えぇ〜。


気配探査は相変わらず発動しているが、同じく隠密も発動していて、今のところ脅威に感じるモノはいない。


だが、生き物の気配はあるので探査を使えば場所は分かる。問題は、殺せるかということと、捌けるかということ。


元の世界で自分で殺したこともないし、解体の仕方も教わったことはない。


冒険者ギルドに登録してみるか。


そのためには、念のため、偽物の身元があった方がいい。


このあたりの地名や村の名前、親の名前っぽいものとか。まったくこの世界のことを知らないのがバレるのは面倒そうだ。身寄りのない子で誤魔化せるくらいには「普通」を装いたいので、一般常識を街をウロウロしながら観察する。


学校に興味があるのも、本とか地図、魔法や音楽に触れられるかもと思うから。


もう解体とかは魔法でやってしまえという気になってきた。肉さえあればいいんだし。鑑定すれば食べられるかは分かる。あとは塩を振って焼けばいいと思う。もう火力の調節は上手くなったし、フライパンとお皿にナイフもフォークもあるのだから。


森でお肉と果物を調達しよう。そして生き物がいたら鑑定して、食べられるなら狩ろう。


翌朝、気持ちよく目覚め近くの滝まで散歩してみる。散歩しながらも鑑定をしまくり、食べられる草や木の実、薬になりそうな草を採取する。採取の仕方もレベルアップした鑑定のおかげで分かるので根ごとだったり、芽だけだったりと慣れない手つきながら頑張った。


飛翔は楽だが歩かないと筋力が落ちそうだし、木漏れ日の差す森の中をフカフカの土を踏みながら散歩するのは大変だけど楽しかった。


滝のそばはそれだけで癒される気がする。キラキラした水の流れと音が心地よい。


わたしの祖父は絵描きになりたかったそうだ。父は趣味で彫り物をしていた。母はよく裏が白紙のチラシを集めて、手慰みに絵を描いていた。


久しぶりに絵を描きたいな。わたしは手芸関係が好きで編み物や刺繍をよくやっていた。


本当は機織りをやりたかった。でも現代日本ではあまり生活できそうになくて普通の会社に勤めたのだ。


でも昔祖母から聴いた話が蘇る。祖母の母は、村1番の機織りの名手だったが嫁ぎ先にはた(機織りの機械)を置くスペースがなく持っていけなかったことをとても哀しんでいたと。自分の得意なこと好きなことを諦めるのはさぞ辛かったろうと思う。


わたしが機織りに憧れているのが曽祖母譲りかはわからないが、今ならやってみたいことに挑戦し、我慢したり諦めたりしなくていいのだ。


そう、あれこれ手を出して長続きしなかったとしても、昔のように母に叱られたりすることもない。


下手でもいいし、続かなくても誰にも迷惑かけるわけじゃない。人のお金でやらせてもらうわけでもない。まだお金は一銭もないが。


練習の甲斐があり、風魔法もかなり強いものを出せるようになったから、ウインドカッターみたいなものを使えば獲物も獲れるはず。


カッターよりウインドアローのほうがバラバラにならないから、後始末が楽だろうか?


同じ発想からウォーターカッターやウォーターアロー、アイスアロー、ストーンバレットなど練習していると魔力の使い方がより理解できる気がする。


散歩と魔法の特訓から戻ると街へ行って観察だ。


子供たちの姿がある。家の手伝いしてる。お手伝い終わったみたい。


何処かに行くみたい。知り合いらしく挨拶しながら、連れ立って歩いている。


教会だ!そうか、教会で教えてもらうのか。


窓から覗く。机と椅子がいっぱい、人が集まってくる。


教えているのは、読み書きと簡単な計算みたい。


1時間くらい勉強した後、小さい子たちには絵本の読み聞かせをしていた。


途中からくる子もいれば、帰る子もいる。帰る子たちのあとをついていくと、仲がいいのか話が弾んでいる。


「これからギルドに行くの?」


「うん、薬草採りに行く。家の手伝いあるし、明日は来れないかも。」


「薬草採りでも、魔獣とかと遭遇するかもしれないんでしょ。」


「そんな遠くまで行かないんだよ。まだ戦えないうちは、門から離れないように言われてるから。


「ナイフとかは?使ったことある?」


「ないよ。まだ持たせてもらえない。それに、冒険者の初心者向け講習ってのがあって受けるよう言われてる。」


「講習って、何ならうの?」


「よく知らないけど、基本的なこといろいろ教えてくれるらしくて、親からも絶対出ろって言われてるし。」


「俺は、商人ギルドへ午後から行くんだけど、このところ毎日、母さんから言葉づかい直されるんだ。あと、手を洗え、顔を洗えってしょっちゅう言われてて。帰ったら、服まで着替えるように言われてる。ギルドへ初めて行くんだけど、なんだか大変でさぁ、気が重くなってきた。」


「そうなのか。商人ギルドも大変なんだな。冒険者ギルドとずいぶん違う。キレイにすることが、きっと大事なことなんだな。なぁ、また話してくれよ、面白いからさぁ。」


「面白いかなぁ?でも、冒険者のことも教えてね、危ないことは絶対やっちゃダメだよ。気をつけて!」


「うん、ありがとう。お前も頑張ってこいよ。」


友達かぁ、いいなぁ。わたしにもここで友達できるかなぁ。


とりあえず、今日はもう帰ろう。この国の名前については結構聞けたしね。


森に帰る途中で獲物に出くわした。まったく心構えができてなくて、でも気配探査と鑑定しながらゆっくり飛んでいたから「食用可(かなり美味しい)」って出ていてびっくりしたのだ。


結界魔法で咄嗟に閉じ込め、風魔法で首を落とした。


血抜きするため、植物に魔法を掛けて、逆さにして木に吊るした。


獲物の頭は、いつか素材として売れるかもとアイテムボックスに収納。


アイテムボックスにブルーシートっぽいものがあったのでそれを敷き、皮だけ分離するイメージ。


上手くいかない、ナイフでお腹側から切れ目を入れる。ウッてなったが、必死に我慢する。


今度は、剥離するイメージでやってみると成功した。皮は、クリーンをかけてアイテムボックスへ。


手足や尾も素材になるかも、アイテムボックスへ。


肉や骨、腱など種類ごとに分かれるようイメージする。できないかもと思ったが出来た。


気づくと錬金術のスキルを覚えていた。あと解体もついていた。


鑑定で棄てる部位かどうか見ながら仕分けした。いらない部位は土魔法で穴を掘って燃やしてから埋めた。そして肉が手に入る目処がたって良かったよ。


しかし、今日もパンと水だった。


疲れて料理する気が起きなかったことと、辺りが暗くなってきたからだ。


解体ができたことで無理して冒険者ギルドに入らなくても大丈夫になったけど、身分証はほしい。それに今日きいた冒険者ギルドの初心者講習は出てみたい。


学校のことも気になるし、この辺りの国や地域の情報や、今後のためにも街での観察は続けよう。


そして、今朝もやっぱりパンと水。今日は午前だけ街に行き、午後からは洞穴の生活環境を整えよう。流石にちゃんとした物が食べたい。違う味のものが食べたいよ。飲み物も水以外を用意したい。


今日は、大きい商人の区画と貴族街を覗いてこよう。


空からまず貴族街を偵察。朝食が終わる頃それぞれの家から、子供と付き人が乗った馬車が1つの方向に向かっていく。


広い門構えに広い敷地、門に標札?が掲げられており、


『サンドル辺境伯領 鍛錬施設(研究所および学園)』となっていた。


中に入り、幾つもある建物を順に見ていく。


いくつかの建物は教室かな、教員用みたいな施設、運動場(広い)、演習場(ひ、広い)。警戒が厳しいところは、研究施設かな。


わたしは図書館のようなものを探していた。忍び込めば本読み放題だしね。


本は貴重だと思うし、やっぱり施設から近くないと不便だと思う。独立した建物ではないのかも?だとしたら管理しやすい場所?教員施設っぽいものの中かしら。


授業が始まったようだ。6〜8くらいの子たちは読み書き計算みたい、この領地のこと題材にしてるみたい。自分たちの住んでいるところの事と、基本の読み書きを合わせて勉強しているのか〜。実用的でいいことじゃないかな。あっ、このクラス魔法、魔法の授業してる。少し上の大きい子(9〜11)たちのクラスは、簡単な法律やこの国や他の領地のこと、それに魔法を属性に分かれて勉強している。


正直、窓から覗いているだけだと分からないことや聞こえないことが多い。


わたしも習いたい。でもここは貴族街、とても身分は誤魔化せないだろう。忍びこもう。そして図書室を探してわたしも勉強するのだ。だいたい街に毎回忍びこんでいるのだから今更だ。


つぎは、商人のところを見に行くぞ。


窓に近づき子供の姿を探す。いたいた、お父さんのとなりいる子は、少し大きいから見習いかな。


違う窓からは、どうやらこの家では、子供に家庭教師をつけているらしい。ふたりの5、6歳の子と7、8歳の子を二十代くらいの男性が教えていた。


そうか、ある程度の大きいお家は家庭教師を雇うんだね。


でもなぜ貴族は、家庭教師じゃないんだろう。(あとから知ったが、家庭教師も勿論つける家もあるそうだ。資金にゆとりがある貴族家がそれだ。しかし、資金にゆとりがない家や、それ以上に魔法を練習する、武術を実践的に習う、集団戦闘に慣れるなど学校に子供たちを集めるメリットは大きい。ましてここは、精強な騎士団で知られる辺境伯領だ。小さな頃から効率的に育てて、優秀な人材を保有することは必要不可欠だった。)


そろそろ戻ろう。


森に戻ると、パンを取り出す。このところ、毎日パンを同じ場所つまり洞穴で食べていたからか、知り合いができた。


見た感じ、小鳥である。念の為鑑定してもやはり小鳥だった。少し灰色がかった羽毛の黒い目がクリッとしたといいたいが、じつはあまり目つきはよくない小鳥である。


今日もパン屑をつつきに来たようだ。

パンを食べ、服からパン屑をはらうと早速食べ始める。


では、生活環境向上のため頑張るか。


まず料理、洞穴の入り口近くに自在鉤を3箇所釣るす場所を決める。その下を囲炉裏にする。


外に作ると雨の日や夜、料理が出来ないことになる。まして冬場や天候の悪い日でも関係なく、洞穴で快適に食事したい。


囲炉裏は、石など燃えにくいもので囲み灰を敷き詰め、火を起こせるようにするらしいのだが、灰はアイテムボックスの中にあったかな。ない。そりゃそうか、火を燃やせば残る灰をわざわざアイテムボックスに入れないよね。


自在鉤はアイテムボックスにあったのだからヨシヨシである。


囲炉裏の下を土魔法で掘り下げる。


外から石と木を運び入れ木を燃やして灰にする。木は風魔法で伐り倒し、適当な大きさにしたものを使う。


燃やす、燃やす。出来た灰をならし、薪を置く。囲炉裏の良いところのひとつが細い枝でも薪になることらしい。枯れた枝を2、3日乾燥させれば煙も出にくくすぐに使えるという。わたしは木から水分を抜くイメージで魔法で乾燥させてみた。


家屋で囲炉裏をきるときは天井を高く、東西に煙出しの窓をつけることで季節の変化に左右されずに風で湿気や匂いが出ていくそうだ。また火棚という火の粉よけの板を備えると、対流で部屋が温まるのだという。火棚に自在鉤をつるすこともできるし、昔の日本家屋では便利に活用していたようだ。



キャンプセット(野営道具置き場)にあった焚き火台を薪の上に置いて火をつける。


火加減の仕方を覚えるまでは、魔法で火力調節だ。まずは無難にお湯を沸かそう。


キャンプセットからお茶の葉を出し、ポットがいることに気づく。ポットもあってよかった。


まず、お茶は飲めるようにできた。


次は肉を焼く、である。


うわッ、調理台。土魔法で土を腰くらいの高さに盛り上げ、上を平らにならす。隅に置いておいた木をまな板サイズにし、クリーンをかける。アイテムボックスから肉を出し、ナイフで使う分だけ切り離し残りは仕舞う。


ナイフで切るのが難しく、厚切りステーキサイズになってしまった。

終わってから、またもやスライスするなら風魔法でやればよかったのではと思ったが、今度試せばいい。


つぎは肉を焼いてみる。強火で両面、火を弱めて少し焼きその後、肉を休ませる。アルミホイルがないので、布巾みたいな布を被せた。


その間、煙は弱い風魔法で外に出していたが、アレッ!匂いは不味いと慌ててクリーンを周囲に発動した。

料理の度にどうしよう?そもそも野営している人たちどうしているのか?


よく考えると、獣よけに火を焚くのだから大丈夫な気がしてきた。野営でバーベキューもするのだから平気ということにしよう。


アッ、お肉。鑑定…火が通り安全に食セル肉。


ウーン、オイシイヨ。だってパンじゃないし。温かいし、肉汁ジュワッてなって、火の気のある所で落ち着いて食べる食事。嬉しい。塩のおかげで不味くはない出来映えだ。わたしに料理の才能がないだけ?いや、レベルが上がれば解決するかも?


お茶を飲みつつ考える。採取した木の実をつまみながら明日も午前中は森の中で食材探しを続けよう。塩はかなりの量がアイテムボックスの中にあり、食卓塩と岩塩両方あるのだ。なぜ?


わたしには鑑定もあるし、とにかくアイテムボックスに頼る生活から脱っして、ちゃんと料理もして。まぁ農作業用品があるのだから魔法で植物とか作物とか栽培できないか試すのもいいと思う。


森で見つけた薬草とか増やしたいし、もしかしてポーションとかも作れるかも!


森から採ってきたものを簡単に仕分けし、保存方法など鑑定で調べたりした。


基本的にはアイテムボックスに入れておけば時間経過はないので、荷物にも場所もとられないから助かるのだが手作業も楽しい。解体は別だが。




さて学校をみつけたことだし、夜になったら潜入したい。


イヤッ、待て待てわたし。よく考えろ。いきなり夜はダメでしょう!なぜかって?


コワイ!そして、夜活動し慣れていない。建物の内部もよくわかっていない。夜目が効く自信もない。そこは魔法でなんとかなりそうな気もするが。


忍び込んで、図書館見つけて、本探して、座り込んで読書するのか?


上手くいくと思えない。


今日見た子供たちの格好を思い出す。実現可能な計画を考えよう。似たような服ないかなぁ。探すとそれらしい服を見つけた。まず見つかった時、見た目だけでも一瞬でいいから誤魔化す。


とりあえず動きやすく、男の子の服にする。


次に昼間から潜入する。そして図書館を捜索、発見したら潜伏する。


その間にも、生徒のふりして、読めるようならどんどん本読む。それだけで十分に知りたいことが分かれば、森に帰る。もう少し時間がかかりそうなら、夜を待ち光魔法とか使ってみる。バレないか?


光魔法?あのモヤモヤしたコワイのもには、『光』が有効だった。あれは光魔法なのか?


鑑定…浄化、解呪、回復、祝福は聖属性の魔法。

   灯り→ライトは、生活魔法に分類


問題について、解決策の提案…周囲に見つからないためには、結界と隠蔽、消音を同時に発動すれば内部である程度活動出来るかも?byスキル:(思考)補助


……スキル?そういえば、いろいろスキルアップしていた。忙しくて、よく見てなかったけれど、今度ちゃんと確認しよう。


そして、結界と隠蔽、消音の同時発動をやってみる。出来た。コレでイケるぞ。多分?


そして翌日。あの後クリーンで食器や自分をキレイにしすぐ寝た。


寝る場所として、洞穴の少し奥に土魔法で高さを出して、その上にキャンプセットの寝袋を敷いて寝ている。


この森が安全なのかもまだわからない。いつでも撤収出来る様に身軽に!がポイントだ。もう少し身体が大きくなって、怪しさが軽減したら何処かに定住したい気もするけれど、今の6歳児ではなにかと難しいのではと思う。でも、この世界を知れば、わたしみたいな六歳児でも普通かも知れないし、とにかくココの普通が知りたいです。異世界の常識で今は動いているけれど、こちらの世界では小さい子供だって役割を持って頑張っている。


もしかしたら、慎重に考え過ぎているのかも。もっと自由でもいいのかも。行き当たりばったりでも、何とかなるのかも。危なければ逃げればいいし、わたし飛べるし、隠蔽出来るし。でもずいぶん暮らしやすくなった。せっかくの居場所が勿体無いし、逃げるのはいつでも出来る。


外に出たらあの小鳥が来た。いつもより近い距離。あぁ、昨日は夕飯がパンじゃなかったから、パン屑なかったね。お腹すいたのかな。


小鳥は近いところをウロウロしている。パンを千切ると放ってやる。警戒しながらも啄ばむ姿に、なんだか嬉しくなる。



湧水のある泉まで散歩がてら採取する。薬草にできるものや食べられる野草。鑑定のとおりに採取していく。歩いていると、ところどころ黒いモヤモヤがある場所が見つかって、どうしようか迷ったが、浄化をかけていく。自分の住まいの近くに、黒いモヤモヤがあるのはイヤだからね。


泉まで来たけれど、採取しながらだと時間がかかった。汗もかいたので、飛んで戻る。できるか分からないが、転移も試めしてみよう。一瞬で戻れたら時間の節約になる。


そしてお風呂に入った。髪は水魔法の水分分離ですぐ乾く。魔法は便利だ。パンと木の実、採ってきたハーブのお茶を淹れて食事にする。小鳥にもパンの欠片をやりながら、夜は戻らないかも知れないことを話し、パンの欠片を近くの木の隙間に入れてみた。ここに置いておくと言ってみたが、伝わっているかはわからない。


服を着替え、靴も泥をおとし、髪もオイルをつけてよく梳る。ツヤツヤになったよ。忘れてたけど、今のわたしの髪短くて、おかっぱよりも短いのだ。だからこのところ、櫛を通すだけで、あとはクリーンで済ませたから、手入れしていなかった。考えたら化粧水もつけてない。六歳児だからまだいいかと思うが、まさかもういちどニキビに悩む年齢を経験するとは(まだ先だけど)。


ありがたいことにアイテムボックスには石鹸などの洗剤類もあったのだ。自然にやさしい素材だそうだ。こちらの世界のものだと思う。


ただクリーンがあるので身体も服も装備も清潔を保てるのだが、なんとなく「手入れをする」という工程が今だからこそ純粋に楽しめそうな気がするのだ。魔法も手作業もどっちも楽しい。




いつものように上空のかなり高い所を飛び、学園にそっと降りる。教員施設の入り口から堂々と入るつもり。だって見えないはずだから。


それでも侵入者の探知や罠魔法もあるかもしれない。学校という施設や子供たちの安全も考え、なんらかの対策を講じられていてもおかしくない。


対抗魔法を思い浮かべ、素人考えながら防御魔法や魔法効果の無効化など片っ端から付与していく。重ねがけにも慣れてきた。


もう後はなるようにしかならないし、エイッと、建物に入る。


職員室や会議室、食堂、仮眠室などを通り、ここにはないかと思い始めたところ見つけた。図書資料室。閲覧自由な図書館みたいなものとは全然ちがうようだ。鍵がかかっていたが、問題ない。解錠の魔法で開けて入り、もう一度施錠の魔法を掛ける。魔法が使えて本当によかったよ。


そこは、そんなに広くはなかった。中には、各学年の教科書と参考書?みたいなもの、辞典のようなもの、そして、壁には大きな地図が!地図!地図だよ。やっと見つけた。



それにしても大きい。この国だけじゃない、周辺の国々や海、わかっている範囲の海の向こうの国のことまで描かれている。勿論、どの程度の信頼性があるかは分からないが…。


しかし、コレは困った。ここで本を読むのはなかなか難しい。落ち着いて読めなそうだし、通うのも難しいのが分かる。持ち帰るのも論外。複製?!


できるか?やる、やってみよう。為せば成るなさねばならぬ何事も。


錬金術かな?沢山ある本の中でも、同じ内容のものを一冊選び、複製をイメージ、クッ…ダメだ。何か足らない。


アイテムボックスからノートを出す。本とノートを机に置き、再度『複製』をイメージ、成功!


中身を確認する。どうやらノートを材料に再構築に成功したようだ。


わたしは教科書や本の内容を確認しつつ複製したいものを分けていく。かなり複製することになりそうだ。


ノートの在庫はまだたくさんあるが、本の複製に必要となると在庫は無限ではないから心配だ。ここでちょっと試してみよう。


木と葉っぱ、ノートをよくみてしっかりイメージ。魔法を発動『生成』出来た。ちょっと紙が粗いけど立派なノートの出来上がり。アイテムボックスにあった木と葉っぱでノートを作っていく。


なんで木がアイテムボックスに入っているかって?それは、薪にするために沢山伐って入れといたからだよ。いつ野宿するかわからないし、どの位の量を使うのかもまだ手探りだから、不安で沢山用意しといたの。


本の中でも、紙質が粗くても問題ないものは木で作ったノートで複製する。ノートで複製するのは、物語や歴史書、辞典、生物図鑑、植物図鑑、鉱物図鑑、魔物や魔獣の資料、薬草野草大全、魔法薬生成、医学書、楽譜や楽器の説明書とかの立派な本だ。


本は複製出来た。もうアイテムボックスに仕舞ってある。帰って読むのが楽しみだ。鑑定もレベルアップしていろいろわかるようになってきたけれど、森に一人きりだとやはり寂しい。時間もあるしやることは多い方がいい。


ちなみに、本の中には領主の家系図や、領地の特産物の価格推移表とか周辺地域の勢力分布、主要特産品一覧とかもあった。


市場取扱品の一覧や、輸出輸入品目の価格表なんかもあった。きっと学年の上(10〜14)の子たちは、大人になる準備でこういった物価や政治経済的な事柄も学ぶ必要があるのだと思う。


わたしはこちらの人々が、日常口にしている食べ物が何かさえ知らない。まず暮らしについて知りたいが、その前にわたしは、自分がいる森の名前さえ知らない現状をなんとかしたい。


さて地図だ。これは何かに写せないか?写す?


転写…か。


しかしこれは大きいし、こんなに大きな紙は持っていない。悔しい。紙がない…?紙以外、描けるもの?大きい面積で、わたしが持っているもの?


布なら?


わたしはアイテムボックスの中をあさり、同じくらいの大きさで色がなるべく白い物を探した。


結果は、天幕。切り裂きたくないし、天幕の壁なら眺めるのには丁度いい。


『転写』…成功!!


ここまででかなり時間が経った。だいぶ暗くなってきたが、せっかく来たので、しっかり見直した。


奥に古い地図があった。保管状態がいいということは、何かしら意味のある地図だろう。持っていて損はなさそうだ。転写…これは大判のハンカチに転写した。


そしてあったよ、この領地の地図が!


よかった、毎回天幕を取り出して位置を確認するとか、難しいと思っていたよ。念の為シーツにも転写してみたが。


でも、地図見て興奮した。嬉しかった。ここがどこかやっとわかったから。やっぱり地図は折りたためてポケットに仕舞えるサイズがいいね。ハンカチをアイテムボックスへ。


今日は大量の収穫があった。この何日かの苦労が報われたよ。


明日は、洞穴でのんびりしよう。


さて帰ろう。ドアに手をかざすと警戒のイメージに目の前が赤く染まる。鑑定…解錠出来ない、罠が発動している。無効化したはずでは?解呪に時間を要する、人が沢山近づいてきている。


出られない、上は?ダメ、人が乗った飛竜がこちらに向かっている。急展開だな、こういう時こそ焦ったらダメ。


やるしかない。森の洞穴の入り口を思い浮かべ「転移」する。


できた、できた、できた!

しばらく街には行かないようにしよう。



side ???


侵入者がいるらしい。しかし、ハッキリした確証があるわけではない。まるで霧か靄のようだ。


ではなぜ侵入者がいると思うのか。

それは領主と大地の契約のおかげだと思う。魔法の効果が高まったり、精度の高い解析ができたり、感知力が鋭くなったりするのだ。


ただ精霊たちに索敵を手伝ってもらおうとしても上手くいかない。理由を尋ねてハッキリせず曖昧な反応。


しかし、今日は学園の建物に侵入したようだ。流石に放置できない。魔獣たちは出るのを嫌がるし、精霊たちも非協力的で難儀なことだが、他国や他領地の間者だと困る。


ここは辺境の地、国の要衝のひとつ。常に万全の体制と警戒、如何なることにも即対応し対処することが求められている。


まぁ、害がないと分かればそれで良いことだ。


しかし、今回も逃げられたようだ。どうやって?


鍵はかかっている。紛失したものはない。破損したものもない。

ここにはそもそも重要書類は保管されていない。


一体何がいて、何処に行ったのか、何が目的か。


全く分からないまま、それから暫くは侵入者の来ない日々が戻った。


よくよく思い出してみると、侵入者は街を彷徨き、暗くなる前にどこかに帰る。しかも、今回忍び込んだのは、学校?しかも教科書などが保管されているだけに等しい場所。


子供?!


まさか。




あれから6ヶ月、わたしは午前中は森で採取、午後はお勉強という日々を送っていた。


転写した教科書から基本的なことを学び、今は冬越しについて準備を考えているところ。


あれから街には行っていない。やる事もいっぱいあるし、周囲と地図の確認作業が結構楽しい。大きい地図とこの辺りの地図両方、少しづつ確認している。


高速で上空を移動しながら、地形や村や町(街)の位置を確認、街道や他国もちらっと見てきた。


概ね、地図は正確のようだ。


そんなふうに動き回っていると、たまに嫌なものにも遭遇する。


ひとつは、黒いモヤモヤ。これは対処に慣れてきたのか、初めほどコワくないし、すぐに浄化している。


もうひとつは、盗賊。


これが困る。見過ごせないし対処がたいへん。


鑑定しても盗賊ってでるし、やってることは極悪非道、楽しんでいるのがわかるから、最初は怒りに駆られて切り刻んでしまった。まさに細切れ。助かった人たちは、恐怖に駆られて逃げ出した。それはいい。こちらも姿を隠蔽しているし、お礼を期待したわけじゃないから。


あたりに飛び散った肉片とかどうしよう?


まず、クリーン、次に消臭、肉には高速分解をかけて肥料にした。


残っているのは、盗賊の防具や武器、所持していた略奪品のアイテムやお金だった。


盗賊を討伐すると報酬も出るが、所持していた品も討伐した人がもらえるのだそうで、お金やアイテムを貰うことにした。アイテムボックスに仕舞うときにはクリーンと浄化をかけたよ。


盗賊には、時々出くわすので、ちゃんと鑑定して盗賊か確認し、言動や振る舞いを見て討伐している。


盗賊行為の最中の遭遇の方が多いし、騒がしいので目につくのだ。


それ以外にも、ゾロゾロ縄で括った人々を連れてアジトに戻る途中とか、人身売買の途中とかだったりする。


とにかく、見つけると討伐している。だって、見つけちゃったら見過ごせない。だってそのままじゃおちおち夜眠れないよ、気持ち悪いし。


というわけで、この世界に来て六ヶ月ちょいにも関わらず、盗賊退治を20件以上はこなしているはず。ほぼ、1週間に1度のペースだ。この国も週の単位があり、7日で1週間と同じだったので馴染みやすい。


この間、少し貯まったお金を数えてみた。


金貨 4721枚

銀貨 7568枚

銅貨 2922枚

鉄貨 153枚


初めてこの世界に来た時、お金がなくてお店のものも買えなくて、本も買えなくて地図も買えなくて。


いや、そもそも門を通るための銀貨5枚が用意できなくて、いつも街にはコソコソ忍び込んでいた。


どうやって、お金を稼ごうかっていっぱい悩んだ。


冒険者になるのだって、お金がかかる。


ギルドに登録するのにも、お金が必要なのだ。


それこそ、道に落ちていないか、見ていた事もある。


でも、いい方法を思いつかず、森で自給自足?の日々。

それはそれでもう慣れたし、気兼ねもない、食べる物も狩れるようになったしね。


しかしまさかこんな形で、お金が手に入るなんて。


気分は、盗賊の上前をはねる悪党のような…。


そんなわけあるか〜!

なんだか、自分で自分を正義の味方っていっていないと、落ち込みそうになる。盗賊とはいえたくさん殺した。盗賊から助けた人たちもいるがいつも姿は隠しているから交流もない。やっていることは自分のためだし、褒められるためにやっているのでもない。確かに賞金首を狩って!なんて考えたこともあるけれど、実際にやるとは思ってなかった。


あ〜ぁ、街に行きたい。買い物したい。宿に泊まりたい。お菓子が食べたい。


冬の到来に少しづつ備えているが、穀物や香辛料がほしい。あとお茶に砂糖、それに塩。やっぱり保存には塩かなぁと。保存食用に量が欲しい。


薬は採取した薬草から作ってみた。あの後風邪ひいてつらかったとき、頑張ったら製薬スキルがついて、上級ポーションが作れるようになった。おかげで、体調管理の不安が減った。


錬金術のセットに薬草と聖水を入れて魔法をかけたら出来たのだ。


怪我に効く薬草となら回復ポーション、風邪などに効く薬草だと状態異常の初級回復ポーション。


ちなみに聖水は水に浄化魔法をかけて作っている。余談だが、この聖水に薬草を混ぜて化粧水も作ってみた。


獲物が獲れるようになって、素材も蓄えられてきた。油分でクリームも作れるようになった。匂いを良くするのがたいへんだった。


錬金術は面白い。図鑑を見ながら鑑定して作成に必要なものを調べ、素材を用意して作成すると出来上がる。欲しかった楽器にも挑戦した。


竪琴に憧れてたから作ってみたが、自在に弾けるわけがないので、魔法でわたしがイメージした(思い浮かんだ)メロディが自動で再現されるようにしてみた。


弾きたい時にはイメージした曲を弦が指を誘って奏でるように魔法をかけた。わたしの日常に音楽が加わった。






今は、どんなシュチュエーションなら自然に街に入れるか。で、悩んでいる。


出来れば、鑑定水晶されたくないけど、無理だろうな。


ギルド登録にも、鑑定はつきものらしいし。


どうしよう、討伐記録は見られたくない。なら隠すか!「鑑定」を「偽装」できないかやってみる。


隠したい項目に被せるように無難そうな内容をペタッと貼るイメージ。できた、え〜できたよ、できた。


まだ6、7歳ならレベルだって1くらいだろうし、スキルなんて持っていないだろう。身体能力だって一桁でもおかしくない。これなら堂々と街に入れる。


二親がなくなり、近くの村から口減しで街にやって来たことにしよう。親の残したお金で冒険者になるという設定。大丈夫だよね、多分変じゃないはず。


森の洞穴の結界はそのまま、中には物を置いていないから身軽なものだ。


村から歩いて来たなら、多少草臥れた格好のはず。2日ほど同じ服で寝起きして、小さめの斜め掛け鞄に服と干し肉と水筒を入れて持つ。


結果からいうと、怪しまれることもなく普通に街に入れてギルドにも登録できた。


街に来たばかりの子供だからか、冒険者ギルドの宿舎に入れてくれた。お金はかかるが安いしとても助かる。宿屋と違って食事はつかないし、とても狭いが転移でいつでも森の洞穴に行ける私には問題ない。


明日は、冒険者ギルドの初心者講習を受ける。


宿舎に泊まる冒険者たちは外食が基本だ。朝からやってる屋台は少ないし、日中は採取や狩で街から離れていたり、ダンジョンに潜っているので昼ご飯を食べない者も多い。夜多めに買い朝食べたり、買い置きしたパンをお弁当がわりに持参する者など。


あまり健康的ではないが、ちゃんと食べているだけまだいい方だろう。


わたしは森の洞穴で食事を作りアイテムボックスに入れている。シチューやスープは大きな深い鍋にたくさん作りおきしている。


まだ大したものは作れないが、鑑定しながら調理してきたのでこの世界の食材にも少しづつ慣れてきた。


それにしても、この街にダンジョンがあったとは!まったく気づかなかった。でもダンジョンなんて、異世界って感じがしてワクワクする。


初心者向け講習は大変ためになったので、解体講座や換金講座、ギルド積立説明会や屋台の始めかた講座(引退した後の冒険者の受け皿)まで受講してしまった。


受講した後は、自己責任で依頼などを受けて良いらしいので、私はダンジョンに潜ってみることにした。


といっても、なりたて冒険者のFランクは、1階層までなのだが採取も狩もできるのは魅力だ。外と違って確実にエンカウントするし、採取品もある程度安定して獲れる。


魔物を狩れるならダンジョンの方が稼ぎがいいことがわかった。


この半年で大陸の三分の一くらいは飛び回ったが、初めての冬なので一箇所に落ち着いて様子をみようと思っている。一応、行ったところは転移でいつでも行けるようにしてある。また結界を少し弄って、異常を知らせるようにしてみた。自分が通った道や浄化した場所などに設置して、ソナーのように周囲に広がるイメージだ。これはパトロールの意味もあるが、また盗賊とか出れば稼げるのではというちょっと邪な思惑もある。


なんとなく、せっかく自分が助けたり浄化したりした場所が穢されるのがイヤなだけである。まぁ自己満足であり、完璧に守ろうとかまで気負うつもりはない。ゆるく、やれるだけ、やれる範囲で好きなようにしようと思う。


この警報装置、たまに鳴るのでその都度転移して討伐したり浄化している。お金も貯まるし、暴れるとスッキリするのでいい考えだったと思う。暴れるといっても自然破壊しているわけではない。魔法を思いきり使って悪人を成敗しているだけだ。ストレス発散である。


警報装置に呼ばれない限りは、ダンジョンや街の周辺で採取とかしている。そうなると、だんだん顔見知りもできてくる。


キッカケは、人助けだった。


ある日、街の外で採取をしていると大気が乱れた。


イヤな感じがして駆けつけると、私と同じくらいの男の子と女の子が魔物に囲まれていた。


恐怖に固まった顔の2人をみて、助けに入った。ウインドカッターという風魔法の定番で、魔物の頭をすべて落とす。


何が起こったか理解の追いついていない2人に声をかけて、討伐部位と魔石を取り出し3人で安全な街の近くまでなるべく急いで戻ってきた。


「「あっ、ありがとう。」」やっと喋ったと思ったら、ふたりは泣き出した。


安心したのだろう。どうして街から離れたのか聞いたら、孤児院が経営難で少しでも稼ぎたかったという。シスターたちや他の小さな子たちのために冒険者になり、毎日働いているという。


わたしは放っておく事もできず、ふたりをダンジョンに誘った。人数が揃えば戦い方もある。3人でダンジョンに潜り、1日の稼ぎを3頭分にする日々がしばらく続いた。


私はギルドに依頼して、孤児院の調査をして現状を確認すると、孤児院に寄附をすることにした。


貯めたお金のほんの一部、金貨80枚分。


焼け石に水かもしれないが、稼いでいるのだからまぁいいか、というくらいの軽い気持ちでないと後が続かないだろう。全世界を救えるわけでもないのだから。


子供でも安定して稼げることが広まると、人が集まってくるようになった。具体的には孤児院の他の子たちも一緒にダンジョンに潜りたいと言ってきた。


元々引率の気分だったからわたしは構わない。2人はむしろ嬉しそうにしていた。


人数は増えていった。それに伴いわたしも考えるようになった。守るだけではなく、彼らの力を活かさないといけないと。


さりげなく鑑定しながら、適性を考えて役割を振る。闇雲に活動するのではなく、休みや勉強、技能やスキルの向上を促すような活動を目指す。


そんな中で幾つか仕組みを作っていく。まず、その日の報酬の使い方をアドバイス。毎日決まった割合を貯えること。これはギルドの機能を活用した。


次に孤児院のシスターたちにちゃんとお金を払って協力してもらい、お弁当を作ってもらうことにした。個々に食べ物を用意するのは高くつく。メンバーみんなで無理のない金額設定を考え、日々の報酬の中からお弁当代を出し合う。シスターたちには、安定した現金収入の機会が生まれる。


それに孤児たち全員が冒険者になるわけではない。身体の弱い子や、不自由な子、適性のない子や狩猟などが好きではない子もいる。料理を手伝うことで、調理という技能の習得と収入の機会、それに安全に働ける場所が増えたことになる。


どうしても社会的な弱者になりがちな孤児院出身の子たちの選択肢を増やせればいいなと思う。




◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



sideあるシスター???


どうしたら、ほんとうにどうしたらいいのだろう。


子どもたちは、増える一方。お金もなく、近頃では満足に食べさせてあげることもできない。たしかに雨露くらいは凌げるが、ボロを纏う姿はスラムと変わらない。


このままでは冬を何人越せるだろうか。


そんな絶望に飲み込まれそうになっていた時、冒険者になった子がふたり帰ってきた。


はい、シスター。と渡してきたのは、何枚かの硬貨とパン。


聴けば、魔物を倒して魔石を稼いだらしい。明日は、ダンジョンに行くという。どうか、気をつけて。危なかったらすぐ逃げるように約束させた。


その子たちは、毎日元気に帰って来た。毎回、硬貨と食べ物をお土産にくれる。少したつと、小綺麗な格好になった。ダンジョンに一緒に行っている子と古着屋に行ったのだとか。


ふたりを見ていたほの子たちも、いつしか一緒にダンジョンに行くようになった。


ある時、冒険者ギルドの人がきて、この教会付属の孤児院に寄附の申し出があったので、使いとして来たそうだ。


中で話をきくと、借金を返済する立会いと冬支度の相談まで乗ってくれるという。


怪しい話なら受けなかったが、冒険者ギルドまで通しての申し出なら少しは信用できそうだ。


借金を返すことができ、冬仕度の目処が立った夜、わたしは溢れる涙を止めることが出来なかった。


良かった。良かった。ほんとうに。あの子たちがこの冬死ぬことはないだろう。わたしは神に感謝の祈りを捧げた。


それからも、子供たちは元気にダンジョンに行き、近頃ではわたしたちが持たせるお弁当を持って出掛けていく。


自分たちで稼いだお金で、服を買いイキイキとした様子を見ていると失った希望が湧いてくるような気がする。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


sideある冒険者ギルド職員???


その子をはじめ見た時、それほど強く印象には残らなかった。


身なりは悪くない、可愛い子。でもきっと身寄りはない子。親がいるなら、このくらいの歳ならまだ一緒に登録にくるだろうから。


思った通り身寄りはなく、この街にも来たばかり。泊まる所も決まっていないというので、ギルドの宿舎を勧めた。


初心者冒険者には、研修を必ず受けてほしい。それだけで生存率がグッと上がるし、怪我への対処や自己管理にも役立つ。


独り立ちしても、かつかつな生活からやがて身を持ち崩す若者も多い。なんとか堅実な生活を送ってほしいと思っていても、口うるさいと思われておしまいだろう。


その子はギルドお薦めの初心者講習を受けただけでなく、他の講習まで出ていた。


なにがハマったのか、屋台出す気なのだろうか?


その子は、朝から出かけて夕方戻ってくる。はじめは採取とかをしていたが、一通りこなすと、魔物を狩りだした。


いつもとくに怪我した様子もなく、魔石を3、4個換金していく。


魔石はレベルの低い、牙ネズミや角兎やゴブリンで決しておかしくはない。


でも、ダンジョンではないフィールドで、毎回3、4個というのはなんとなくおかしい。


そのうち、ダンジョンにも行くようになり、魔石も10個とか持ち込むようになった。


おかしくはないのだ、ランクEくらいで何年か冒険者の経験もある10歳くらいの子なら。


そう、その子はつい最近冒険者になったばかり。フィールドでいつも一定にエンカウントするかどうか?また十匹以上倒していて、まだ一度も怪我もない?


いや、おかしい。なんだか違和感がある。


その子はパーティにもはいらず、ひとりで活動していたが、あるときから孤児院の子供たちとパーティを組み始めた。


ダンジョンは一階層までしか入れないが、3人で魔石30個を持ってくるようになった。


その子の勧めで、孤児院の子たちもギルドに口座を開いて一部を蓄えるようにしたようだ。


ある時はオススメの古着屋を聞かれた。


その少し後だったか、その子からひとつの依頼を出された。その内容に固まったわたしは、ギルドマスターに取り次いで今話を聴いている所だ。


孤児院に寄附をしたいが、まず情報収集と孤児院の現状を正しく把握したいから調査をお願いします。そして、寄附するのに問題なければ仲立ちなどまで依頼したい。


およそ子供らしくない依頼内容で、報酬は寄附の予定の金貨100枚から諸経費などを差し引くようにという。


ギルドマスターも頭を掻きむしりつつ質問する。


「なぁ、この金額どうしたんだ?普通、子供が持つ金額じゃないだろう。依頼はこの金に問題なければ、受けてもいい。しかし、いくらパーティを組んでいるといっても、赤の他人だろう。なんでそこまでする気になったんだ。」


その子は、心を決めたように話し始めた。


「わたしに、身寄りがないのはほんとうです。むしろ、この街どころか、この国やその向こうの国々のどこにも関わりのない、天涯孤独の身の上です。ある時、死の間際に新しい生を勧められたので、ありがたく生き直すことに致しました。気がついた時には、この近くの森で、子供の姿になっておりました。わたしは魔法が使えたので、人里を目指して移動していると、盗賊や野盗にでくわしました。とても見ていられない光景に、思わず魔法で討伐しておりました。捕虜となっていた人たちは無事に逃げ、後に残された金品をありがたく頂きました。」


ギルドマスターがプッと吹き出します。


「この街に来るまでに、ずいぶん貯まりましたが、子供が大金を持っている正当な理由も思いつかず、使い所が難しいまま今に至った次第です。正直、冒険者ギルドが信用できるか不安でしたが、この街とこのギルドにしばらくお世話になって、やっとお話ししてもいいかもと思ったのです。」


「やれやれ、とんでもない話ではあるなぁ。正直勘弁してもらいたい気もする。しかし孤児院のことは俺も気になっていたし、仕方ない引き受ける。しかし、その前に鑑定を受けてもらう。今度は誤魔化しはなしだぞ、いいな!」


はい、と素直な返事をしてその子は鑑定を受けてくれた。


なんと盗賊の討伐を20組以上、魔物の討伐も百体以上。


ぼそりとギルドマスターがこぼす。「どおりで、盗賊や魔物が減ったわけだ。」


しかし、目の前には可愛らしい7歳児。

ギルドのランクは、討伐記録もあるのでそれらを参考にCランクにして、討伐の報酬も支払うことになった。


ほんとうなら、ギルド職員と対戦して実力判定もしたいところだが、本人があまり目立ちたくないらしいのでしばらく保留。


討伐した魔物の魔石や素材はどうするか聞いたところ、買取に出せるならお願いしたいとのことで引き受けた。


出るわ出るわ。マジックバックらしき物から、B ランクCランクがゴロゴロと。


魔物がBランクなら魔石もBランク、当然Bランクの魔物の素材もBランクだ。


査定して後日振込することになった。


今後も盗賊と魔物を間引く作業は続けるらしい。本人曰く、きれい好きだかららしいので、その結果採れた品の買取を委託された。


調査したら、教会が運営している孤児院は、かなり厳しい状況のようで早めに動くことになった。


それにしても、昼間は子供たちでダンジョンに行っているのに、なぜ掃除(討伐)する時間があるのか不思議だ。


ギルドマスターには、一切詮索しないことと、契約させられた。


その可愛らしい子は、今日もダンジョンに潜っている。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇




そんなふうに子供たちで活動していると、孤児院の子供以外の子供からも一緒にダンジョンに行きたいと言われるようになった。


その子たちは、孤児ではないが片親がいなかったり、貧しかったり、家族が病気だったりなど働く理由を抱えていた。しかも少し前の孤児たちのように、細々と活動しており中々安定した収入には繋がらないうえ危険も多かった。そこにかなり安全にダンジョンを攻略する集団が現れたのだ。自分も参加したいと思うのも無理はない。


みんな気持ちは理解できるので、活動についてよく説明し見学とかしてもらった上で双方とも合意ならば仲間に加えることになった。


ここでパーティもかなり人数も増えてきたため、ギルドから名前とかつけたらどうかと言われた。


名前、名前、名前。ここは辺境伯領の街サンドル。ならば「サンドルの雛鳥」でいいかな。ちゃんとみんなが巣立ちできますように。


訓練を続けていると成果が見え出した。まずある程度全員の技能が、駆け出し冒険者という以上にレベルアップしたこと。その中から才能に恵まれて、顕著に成長する者が現れてきたこと。生活に乱れがないため、治安維持に貢献していること。冒険者の健康について見直す者が出てきたこと。


その他にも安全面に考慮した適切な活動は、他の冒険者から注目されている。


ギルドに交渉して、ダンジョンの2階層や3階層に潜っても良いと許可を得たことは大きな変化だ。勿論、各自のレベルの確認やグループでの戦闘などギルド職員の試験をクリアし、ランクをあげることができたからでもある。


ちなみにメンバーは、出たり入ったりがある。事情が変わったり、他所から来たり、この雛鳥はその点も柔軟で自由がきく。堅苦しくないことも支持が高い理由の一つらしい。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


sideある冒険者???


この街は辺境ではあるがその割に治安がいい。領主様に恵まれているのもあるが、スラムとかの底辺の連中でさえある程度暮らせているからだと思う。


ダンジョンがある事や、周辺に盗賊やモンスターの出現が少ないせいかもしれない。


少し前まではまだ空気も重苦しかったが、気づけば暮らしやすくなっていた。


盗賊やモンスターの被害が減少し出したのだ。でもそれはこの領内だけではない、周辺の国々もその傾向にあるらしい。


理由は分からないが、みな気持ちが軽くなったのではと思う、自分がそうだからだ。


それに、この街には雛鳥たちがいる。子供たちの互助組織みたいなものだったが、近頃は年齢層が広がっているようだった。なぜなら雛鳥に入ると生活が安定するし、強くなれるからだ。そのかわり訓練は甘くないようだが。


自分も孤児で苦労した。今だって冒険者をやっていれば怪我も絶えない。依頼が受けられなければすぐに食うに困るだろう。


この互助組織、子供だからと絡まれることもあったようだ。でも子供たちはたいてい複数人で行動し、何かあるとすぐ仲間たちが駆けつけてなんとかしていた。まぁそれでもマズい事態になることもあるのだが、その場合はほぼ100%リーダーが防いでいる。


とにかく雛鳥のリーダーも子供なのにめちゃくちゃ強い。5人10人どころか20人30人規模が相手でも、リーダには手も足も出ないのだ。


そのリーダーだってすぐに駆けつけられない場合もあるだろうに、どうやって持ち堪えさせているのだろう。


緊急事態の備え、さらにその場を凌ぐ判断力と忍耐力、恐怖に流されない精神力。子供たちばかりとはいえ、その時々で適切な選択ができるのは本当にすごい。


なぜこんなに詳しいかって!俺も雛鳥に入れてもらえないかと思って調べたからだ。


話しに行ったら、意外に前向きに検討してもらえた。でも俺のようにいってくる奴らが結構多いらしく、雛鳥とは別にクランみたいなものを作るかってなった。


でついた名前が「サンドルの若鳥」。リーダーにネーミングセンスがないことはわかった。


この若鳥は廃屋を安く手に入れ拠点にし、怪我して冒険者を引退した奴とかに大工仕事や受付、厨房を任せている。あと、雛鳥でもやっていた「貯蓄」や能力開発、育成、基本スペックの底上げも行う。


生活が規則正しくなり、勉強する機会を与えられ、鍛えること、備えることを学んだ。ひとりで行き詰まっている奴を見かけたら俺も声をかけてやろう。





◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



なんだか、人助けしてたらとんでもない人数の集団ができていた。今更放り出せないので、必死こいて動き回っていたら「クラン」ができた。なんだか格好いいよね、クラン!


小さなパーティだったのに、雛鳥ってクランが上手くいくようになると、子供じゃない人たちも頼ってくるようになった。


新たに「クラン」を立ち上げたり、訓練方法や生活環境にアドバイスとかしながら、みんなの暮らしが少しでも良くなるといいねと思う。


今試しているのが、鑑定して才能のあった人の中から治癒能力のある人を育てること。


お医者さんはいるのだがやはり全体からみると少ないし、ちょっとの才能でも伸ばせないかやってみている。冒険者の中にも魔術師はいて、パーティの中で回復魔法が使える者は人気がある。


貧しかったり孤児だったりすると、せっかくの才能もなかなか伸ばせなかったりするからクランメンバーの才能の発掘には力を入れている。


ちなみに治癒能力だけに拘っているわけではない。戦闘には向いてなくても自立に役立つ能力もあれば、工夫次第では思いがけずバケる能力もあるし。


訓練すればスキルだって伸びてレベルも上がる。毎日ちょっとでもいいので継続すれば確実に変化する。


今のクランには様々な能力の持ち主が集まっている。飛び抜けた能力の持ち主は少なくても、みんなが力を合わせればいろいろできる。


わたしは、メンバーに結界魔法を付与した魔石を持たせ、単独での活動を再開した。


この魔石は警報装置と発動すると最長24時間継続する人ひとり分の簡易結界魔法を付与している。


危なくなったら使ってもらえば、わたしが助けに行ける。



あとたいていの人に魔力があるので、気配探知を応用し簡単な連絡手段としても活用している。ごく短い合図を決めて信号弾のように使うのだ。


ただ、より精度の高い使い方も可能なはずだ。そのためには空間認識力や地形把握、魔力識別などを取得する必要があるが研鑽を積めばできるようになると思っている。


わたしと過ごすうち、クランのメンバーからもいろいろな魔法の使い方や戦い方のアイデアが出てくるようになった。まだ子供だからか思考が柔軟なのだろう。


単独での活動を再開して、以前より人々の生活に目がいくようになった。多分クランのみんなと接して、この世界の人間がより身近により現実として感じるようになったからだと思う。


こうなると気になってくる。貧しい人たちの中に多い部位欠損を抱えた人たちのこととか、周辺の村の環境とか…




sideある女神???


そういえば魔力を送ったあの世界はどうなったかしら。いい具合に負の要素が薄くなっているわ!大地からも大気からも魔力が増えているのが感じられる。


あの魂はすぐに死なずに生き延びているようね。


今回の転生に限らずわたしが異世界に魔力を送る場合、一応異世界でも馴染めそうな魂をえらんでいる。


あの魂のように一見大人しく内気そうでも、本心では変わりたいと願っている部分があったり。


そうでなければ柵から抜け出てすぐに前向きになったりできないだろう。


新しいことに挑戦するのは勇気がいる。今度の魂は世界と調和し始めているみたいだからしばらく様子を見守ろう。



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