花火で一杯!  


今夜は夏を告げるA神社の花火の日。めずらしくジイサマが留守のスキに、好物の刺身湯葉、胡麻豆腐、しそ味噌を買い込み、いそいそ夕餉の支度。缶チューハイも1本、ん?!酒のつまみか?!暗くなりがけ、空打ちの音を合図に、ベランダの物置に膳を運んでスタンバイ。一発めの花火で、物置によじ登って座りこむ、今年は、向こうの丘の木を切ったか、建物がなくなったか、ちょうどいい具合に視界が抜け、ほぼ花火の全容が見える。「たまや~」、「かぎや~」、花火の音が夜空にこだまし、煙が夜風になびいて消えていく。物置の屋根の上で、お尻がそろそろ痛くなりはじめた頃、この住宅と同い年、齢45年の物置は、鉄錆も来て屋根もベコベコ言いはじめている。待てよ、屋根がつぶれて抜けるかも、ブロックにのせた中高の物置が前に倒れるかも・・と下敷きになったまま身動き出来ずへちゃげたわが身の姿を思い描いて、そろりそろりと物置から降りた。毎年恒例の桟敷席だが、こんな不安に襲われたのは初めてだ。年を取ったせいか。いや、独りでいる不安のせいと、独り暮らしの心もとなさを少し味わった気分に陥る。

 花火からひと月・・夏もいよよ盛りを迎え、最高気温38・3℃の体温越え。昔人間ながら35度と低体温の婆サンには、高熱でウンウン呻る温度に達し、物置ならずとも、既にへちゃげて伸びきった。

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