2014年8月23日/1

王都から南、来た道を引き返した俺はカランウェの町に無事つくことができた。


まあさすがに味方勢力圏で二回も襲われたせいなのかあそこからこの町に着くまで全くと言っていいほど俺を襲撃するものやトラブルもなかった。珍しいこともあるもんだなと思ったが本来これが普通なのかと思い直しながらカランウェの町中を歩いていた。


さてまずは現状の報告と情報収集のためにラスタフ家の町の支部に赴くことにしよう。


闇の一族であるラスタフ家は師匠が各都市に影響力を与えるために建てた支部がいくつもある。めでたいことに、つい何か月か前にエラリアル王国全土の町規模レベルの集落全てにラスタフ本家の支部を作ることに成功したそうなのだ。


師匠が顔色一つ変えず喜んでいたが真にうれしいのは俺たち現場の人間や末端の者たちだろう。闇の一族のものであれば誰であれ支部にあるベッドで寝泊りすることができるし上限はあるが各種消耗品も無料で補充できる。


大きな町に行けば鍛冶師や錬金術師、魔道具職人までいて武器や道具の面倒を見てくれるのだから現場の人間は大喜びだ。


と歩いているうちにいつの間にかラスタフ家の支部についていた。


ゆっくりと扉を開け中に入る。


すると座っていた一人の支部員に話しかけられる


「合言葉は?」


合言葉の要求、いつも通りだ。


「闇の子らよ強く生きよ、我らこそが闇なり」


「よし、よくきた我がどうh・・・」


だが俺はさらに合言葉を続ける。


「光よ世界を照らせ、闇よ世界を守れ」


「な!?その合言葉は!幹部の人間か!」


基本ラスタフの人間は共通の合言葉を使い一族のものかどうか確認するのだが、


その合言葉には続きが今のこれはラスタフの幹部や分家の長などだけが使うことを許される言葉である。


まあ幹部にも色々あって何より俺は


「というかお前俺を知らないのか?」


「初対面だから知るはずも・・・ってお前まさか」


「闇の一族ラスタフ家次期当主ジャック・ラスタフだ」


と俺は自己紹介する。


「お前が・・・よその人間でありながら次期当主の座まで上り詰めた戦場の『死神』・・・」


「というか、ラスタフの人間で俺のことを知らない人間がまだいたんだな」


「当然だろ、戦う現場の人間と紙とペンを使う俺ら裏方の人間とではすむ世界が違うのさ」


「まあ。それはそうだな」


とまあ軽く話し本題に入る。


「今回の任務とこの町の情報なんかのことで支部長と話がしたいんだが今いるか?」


「いや、それは無理だ、お前には悪いが来るタイミングが悪かったな・・・」


「ん?なにかあったのか?」


すると支部にいた男がため息をつきながらこう話した


「支部長は捕まったんだよ」


「なに!?」


確かにタイミングが悪いな・・・


ラスタフ家におけるその町のトップは実質支部長なのだがその支部長が捕まったとなるとまとめ役がいなくなり支部が機能しなくなることに加え


多くの機密情報を知っている支部長が拷問されもし情報が洩れでもしたら、ラスタフ家に悪影響を及ぼすどころか死人が出る恐れすらある。


そして今回の任務に関しても支部長ではなく末端の人間など話すこともできない・・・


「それでいつ捕まったんだ?本家にはもう通達はしてあるのか?」


「ああ、捕まったのはつい昨日の話だ。もちろん通達はしてる。この町が王都から近かいこともあって情報はすぐに届いたし本家も事の重大さを考慮してくれたのかへ返書と同時に幹部クラスのやつもよこしてくれたのさ」


「幹部?だれがきたんだ?」


「ああ、それは・・・」


と男が名前を言おうとしたとたんに入口の扉が開く音がした。そして扉の音が聞こえるまで俺は気配すら察知することができなかった。


「よくきてくれた、待っていたぞジャック」


話しかけてきたこの声、俺はこの声に聞き覚えがあった


そしてその姿を見て俺は旧知の友であることを確認した。


「リアムか!?」


「ああ、こうして会うのは久しぶりだな」


素朴な服の上に黒のローブを着て剣だけを装備しているこの男、今は一見何の変哲もない若い町人に見えるが


その正体はラスタフ家においてラスタフの名を名乗ることが許された11人存在する幹部のうちの一人


名をリアム・ラスタフ


「仕方ないだろう・・・あなたがラスタフの後継者候補になってからというもの、私は文官として各地の支部を回っていたんだ。闇の一族というか、そもそもラスタフ家には事務や書類仕事ができる人間がただでさえ少ないんだから」


この男を簡単に説明するなら文武両道とでもいえばいいのだろうか、文官や内政官としての能力がラスタフ家随一であり、規模の大きい町の支部の資金難をあっという間に解決させ各支部のトラブルにも対応したり、


戦争の際には各地の戦争地帯への物資や兵の補給・輸送などの兵站もすべて細かいところにまで管理してくれるため、この男のおかげでラスタフ家には補給や兵の不足といったよくある兵站ミスというものがほぼ全くないのだ。


それと同時に剣と弓と隠術に優れ魔力量も高く上位上級の魔法でさえ難なく使いこなし、つわものぞろいのラスタフの幹部にこの若さで上り詰められるほどの手練れでもあるのだ。


「最近戦場で見かけないと思ったら内政仕事のほうに回ってたからなのか」


「逆に戦場で戦える人材に関しては足りてしまうどころか余ることさえあるからな。それならば人手が足りていない内政のほうを手伝うほうがいいだろう」


「だからと言って、お前のその戦いにおける天賦の才を腐らせるのはもったいない気がするんだがな俺は・・・」


そういわれたことがうれしかったのかリアムは少し笑ってこう言った。


「もちろん修業は欠かさず毎日こなしている。だか心配しなくてもいい。何もなければこのまま模擬戦でもやらないかと誘う所だが今はそれどころじゃない」


「ああ、話を聞かせてくれ」


俺とリアムは三階にある支部長室に向かった。


今ここで話すのが早いのだがここでは末端の人間がいるため話を聞かれたくない。


それに機密情報を聞かせるわけにはいかないからな。


リアムが部屋に入り外から持ち込んだ資料を支部長が使っているであろう机の上に置きそのままそこの席に座る。


「適当に座ってくれ」


俺は目の前にあるソファーにもたれかかり腕を組み足をくみリラックスした状態で座ることにした。


「早速本題に入るぞ


私はパラドル城塞の支部での仕事が終わって


久しぶりに王都のラスタフ本邸に戻ってきたところに、レムルス様から今回の支部長のことを聞いたんだ。


そしてこの町に着いたのが昨日。そこから丸一日で集めた情報とレムルス様から聞いたことをかいつまんで


説明する。もちろん今から話すことは全て機密事項だ。幹部クラスの者以外誰にも話すことは許されない。いいな?」


「ああ、もちろん。そんなこと言われなくともわかってる」


「そうだな、一応確認したまでだ。」


そこからリアムは真剣な表情で話し始めた。


「支部長はラスタフ本家からすべての支部に下った『クラキモノ』ついての情報を集めるためにいろいろとやっていたみたいなんだ・・・


『クラキモノ』の話についてはレムルス様いから聞いたか?」


「レアンドロ教団を裏から支配しその教団の力を使って各国に対しクーデターを起こそうとしている、そしてもうすでにロマネス連合国は乗っ取られたという噂すらある、と俺は聞いたな」


「今回は主にその男の話だ」


リアムは机の上に置いた紙の中から一枚を引き抜きそれをジャックに見せる。


「ならレムルス様から高位神官を捕まえた話も聞いたな?」


ああ、師匠はそんなことも言っていたな。


「ああ」


俺はそう答えるだけで話の続きを聞くことにする。


「その高位神官と繋がりがあるかもしれない新王派の人間がここのカランウェ領の子爵と繋がっておりつい2日前にその二人が密会しているところを支部長が確認したらしい」


「ほう、それは有用な情報だな・・・ん?なんでお前がそんなことを知ってるんだ支部長にでも聞いたのか?」


「いや、支部長本人はすでに市庁舎に移送されていてその警備は厳重、だが支部長の持っていた私物に関しては捕まった後最初にいたであろう北の小さな衛兵詰め所に保管されていたんだ。


もちろん全て持って帰ってくると気づかれるから支部長の暗号化された日記だけを偽物とすり替えてきた」


リアムはそう話していると懐からおそらく支部長の日記であるだろうものを俺に投げて渡してきた。


俺はざっと中を読み確認しようとするが・・・

「げっ・・・これ暗号を知ってる人間にすら解読に時間がかかる上位暗号じゃないか・・・一応解読方法は知ってるがこれじゃ今すぐには読めないぞ?」


こんな難解な暗号・・・暗号表を知らないものからしたら絶対に解けないので暗号としてはとても効果を発揮しているのだが、当の俺たちが解読に時間がかかるようなものはさすがに不便だろう


と俺は思っていたが


「安心しろ、すべて解読済みだ」


まじかよ・・・


と俺はドン引きしているがそんなこと気にせずリアムは話を続ける


「さっき話したことはその日記に書いていた。


そしてその内容についても話そう。


まずはこいつからだ」


リアムが顔の人相書きが書かれた紙を取り出す。


「この男の名はバール・シュピール、王都所属の騎士団員で新王派貴族の下についておりこの男が新王派、少なくとも新王派の一部の人間とレアンドロ教団の橋渡し役であることは間違いなく以前からすでに証拠も押さえてある。


しかしそれが新王派の一部の人間だけがかかわっているのか、それとも新王派全体が『クラキモノ』と関わっているのか、そこまではまだわからない」


この男は間違いなく黒だが、この男と関わる一部の人間が『クラキモノ』に関わっているのか、それとも新王派そのものが『クラキモノ』と繋がっているのかはまだ確証らない。

たが今のラスタフ家の見解、というか俺や師匠、リアムを含めた幹部の総意ではあるのだが、新王が表舞台に出てこなくなったことと『クラキモノ』がなんらかの繋がりがあるのではないかという見解だ。

といっても証拠はなく憶測で推測している程度た。


「『クラキモノ』の発覚と同じくタイミングでこのバールに対しても捕縛指令が出されている。そして一週間前、支部長はバールに似た男がいるかもしれないという情報を知り二日かけて奴がこの町に滞在していることを確認したのだそうだ。


そして今から二日前支部長はバールがカランウェ子爵との密会しているところを見つけある程度会話の内容を聞けたそうだ。


その会話の内容はこの日記によればバールはカランウェ子爵から金をもらい子爵が王都での何か用があるときはバールにいろいろと任せていたらしく、簡単な買い物や届け物から人には言えないようなことまでこの前捕まえた高位神官との接触もその一つだったようだ。


支部長は更なる情報を得ようと今度は子爵を探っていたようだが・・・」


「だがそこで捕まったんだな・・・」


「ああ、その時バールにはばれていなかったようだが子爵にはばれていたのだろう。すでにバールはこの町を出てしまったようだ。物乞い達曰く北に向かったと聞いている。


バールのことに関しては手紙を書く時間がなかったからこの支部の人間に伝令を任せた、それとこのカランウェの町への増員要請も含めてな。じき王都のラスタフ本家が動いてくれるだろうからこちらは今はおいておこう」


このバールという男は裏の世界でいきるラスタフ家すら足取りを辿る事すら苦労する存在、この男を急いで捕らえるべきでもあるのだがそれよりも...


「子爵と『クラキモノ』との関係も調べたいが今は支部長救出が最優先だな、脱獄計画はどうする?」


「いや、明日裁判が行われるからまずはその裁判で支部長に無罪判決を出させれば・・・と私はそう思っている。脱獄して犯罪者として生きるよりも法的に無罪とされ釈放されたほうが今後も支部長としてやっていくことができるからな」


まあ闇の一族そのものが元来非公式な任務が多いのでこういう事例はいくつかある。そして俺達のやり方は王国の法で違法になることが多い。王国の罪を犯し懸賞金がかかってもラスタフ家でなら生きていくことは可能だ。だがやはり懸賞金がかかっていない方が支部長にとってしてみればいいだろうし仕事もやり易い。


「要は証拠探しと捏造だな、なら捏造は俺が・・・」


「いや、この件にあなたの手を借りるつもりはない、ここへだって別の用件で来たのだろうからな」


俺は今回の件、事の重大さは明らかで、最後まで手伝うつもりであったが・・・


「いいのか?俺が手伝えば間違いなくうまくいくと思うが?」


「もちろん本音を言ってしまえばあなたの手は借りたいがレムルス様からじかに頼まれた別件も重要だろう?カランウェ砦の女のこととかな」


「!?」


師匠と俺しか知らないことだと思っていた俺には一瞬驚いてしまったのだが


よくよく考えればこの男リアム・ラスタフ、俺が組織にとってのナンバー2であるならリアムは組織のナンバー3、


師匠と一緒にやってきた期間はこいつのほうが上だ。師匠の右腕、腹心とまでもいえる存在だ。


だが俺はそれは気にせず話をつづけた。


「ああ、こっちもこっちでかなり大ごとだからな、おろそかにするわけにはいかないが・・・」


と俺は少し不安そうにリアムを見るが


「そう案ずるな、私を誰だと思っている?これでも幹部の中の最強各なんだからな」


と少し微笑んで冗談交じりでそう言ってきた。


まあこいつ冗談のつもりで俺を安心させようとしているのだろうが


リアムの場合何の冗談も嘘もついていないのが恐ろしいところだ


「わかった、そっちの件は任せる、それと女とさっきのカランウェ砦については何か情報はあるか?」


リアムは首を振る


「すまない、支部長とバールの件でそっちの情報は全く調べていない・・・今は人手も足りないからな・・・


私が知ってることは例の女がカランウェ砦に移送されたこと、それくらいしか知らないが


あなたであれば情報を集めることなんて簡単だろう。


支部長の件は任せてくれ、その代わり女の件はそっちに任せていいか?」


「ああ、そっちも支部長を頼む」


「もちろんだ、ああ、あとそうだ」


話が終わり席を立ち上がろうとしていた俺にリアムは語り掛けてくる


「もし支部のベッドを使いたいならなら二階のものを使ってくれ、物資の補充も好きなだけしていい。


だがここはほかの支部と違って世話係の人間はいないから飯の準備なんかはないが朝ここにいるのなら朝飯ぐらいは作ってやるが、どうする?」


とほかの支部なら専門の世話係がいて料理、洗濯、掃除なんかをやってくれるものがいるのだがここにはいないので飯は自分で何とかするしかないが・・・


そういうことならありがたい


「ああ、助かるよ金が浮いてありがたい」


「言っておくがそう手の込んだものは作れないからな」


「でもお前、料理も得意だっただろう?お前昔、戦場で料理してた時期があっただろう、あの時ふるまってたあの料理の味やばかったんだからな、期待してるぜ」


まあ剣も魔法も隠術も勉学も・・・なんでもできるリアムだがもちろんこいつは料理の腕もすごいのだ


「ああ、そういえば懐かしい。そんな時期もあった・・・ん、あれはまだ見習いの、確か8年も前の話だったような気がしたがなぜあなたがそんなことを・・・と、まあ気にはなるが


また時間ができたらゆっくり話すとしよう」


リアムは引き出しから大量の書類をだしたり周囲から事務道具なんかもかき集めながら俺に話しかける。


「私は午前中は裁判用の資料と手続きの書類づくりをしているから何かあればまたここに来てくれ、私がいなくても支部に常駐してるものに伝言を残しておいてくれ


助けが必要ならいつでも駆けつける・・・が、あなたにそれは必要ないな」


とリアムは会話が終わっていないにもかかわらずもう書類仕事を始めた


「そうだな、まあ何かあればまた戻ってくる


じゃあ、そろそろ行ってくる」


「ああ、きをつけて」


リアムは書類仕事をしながらそれだけを言うと俺は立ち上がって部屋から出て行くことにした。


支部長の件も気になるが


やはり師匠から頼まれた女のことが今は最優先だ。


俺は情報を集めるために支部をあとにしたのだった。

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