第37話 フェエル・ポラン①

 * * *



 夢は、国家魔術師になること。


 それはぼくの夢で、大好きなおじいちゃんの夢でもある。

 だから、いくら学校に行くのが辛くても、ぼくは休まずに通うんだ。


 もっともぼくの場合、小さい頃からよくからかわれてきたので、多少なにかを言われたりされたりすることにはもう慣れている。

 耐性っていうのかな。

 それが自然と(あるいは不自然と?)ぼくには身についていた。


「おい、ザコフェル子」


 気がついた時には、トッパーくんたちにそう呼ばれていた。

 気がつけばパシリのようなことをさせられていた。


「なにがいけないんだろう」


 昔はそんなことも考えたけど、今ではもう考えもしない。

 きっと理由なんかあってないようなもの。

 だから、何も考えず、何も感じないようにするのが一番。

 それで痛みは消えないけど、自分なりに誤魔化すことはできる。

 あとは卒業するまで、ただただ時間が過ぎていくのを耐え忍んでいればいい。

 そう思っていたんだけど......。



「フェエル。なにか良いことでもあったのかい?」


 家でおじいちゃんにそう訊かれた時、ぼくは驚いた。

 そんなふうに訊かれたこと、リュケイオンに来て初めてだったから。


「そ、そう見えるかな」


「気のせいでなければな」


「実はね?と、友達ができたんだ」


 言ってからハッとした。

 この言い方だと、今まで学校に友達がいなかったことがバレちゃうじゃないか。

 それがバレれば、イジメられていることもバレかねない。

 そんなことになったら、おじいちゃんに余計な心配をかけちゃう。

 

「あっ、ええと」


 ぼくがあたふたとしていると、

「そうか。良かったな」とおじいちゃんは嬉しそうに顔をほころばせた。

 その笑顔を見たらもう細かい葛藤は全部吹っ飛んでしまった。


 それからぼくは、せきを切ったようにヤソガミくんの事をおじいちゃんに話した。

 とんでもない魔法で教室に洪水を引き起こしたこと。

 しゃべるウサギのこと。

 他愛もない会話で笑い合ったこと。

 

「おもしろい友達だな。でも良い奴そうじゃないか」

 

「うん!そう思う!」


 やがてベッドに横になり、目をつぶる。

 明日の学校が楽しみになるなんて、いつ以来だろう。

 トッパーくんたちの嫌がらせがなくなるかはわからない。

 でも、ヤソガミくんのおかげで、ぼくの学校生活は変わるかもしれない。

 そんな期待に胸が高鳴るんだ。

 そう思っていたのに......。

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