第26話 ルームメイト②

 *


「余はライマス・ループレイク。ここリュケイオン魔法学園の特別クラス一年生にして、この部屋の王である」


 ルームメイトのライマスは偉そうに挨拶した。


「ヤソガミ氏には特別に親しみを込めて公爵デュークライマスと呼ぶことを許そう」


「さっきの態度とは百八十度変わったな。むしろ一番最初に戻ったのか」


 ハァーッとため息が出た。

 これから当面の間ひとつ屋根の下で暮らす同居人がこんな奴なのか......そう思うとマジで気が重くなる。


「どうした?ヤソガミ氏。やっぱりジェットレディ(巨乳)の下着を献上する気になったか?」


「なるか!ど変態が!」


「それはヤソガミ氏の主観だろう。余は何ひとつ変態行為はしておらぬ」


 ライマスは悪びれないどころか泰然たいぜんとしていた。


「まったくヤソガミ氏はケチだな。余がプライドを投げ捨てて土下座までしてお願いしたのに」


「お前のプライドの基準が俺にはまったくわからない」


「余は純粋に美しい女性を愛しているだけなのだ」


「ああそうですか。ところで、他にルームメイトはいないのか?」


「いない。というより、出ていった」


「えっ、なんで」


「知らん。ここにいると評判が悪くなるとかなんとか言っていた気がするが」


「それ正解だ......」


 まったくそのとおりだ。

 コイツと同部屋だと、学校でなにか変態的な事件が起こった際、真っ先に疑われる対象になりかねない。


「俺も考えたほうがいいかな......」


 一人言のようにつぶやいて肩を落とした時。


「コラァァ!オイラを出さんかい!」


 俺の鞄から声が響いた。

 あっ、となってすぐに鞄を開けると、ぴょーんと白兎が飛び出てくる。


「小僧!いつまでもオイラを閉じ込めおって!」


「いや寝てたんだろ!?」


「暑くなって目が覚めたわ!」


 などと俺たちがやり取りをしていると、やにわに悲鳴が上がった。


「ひっ、ひぃぃぃ!」


 ライマスが椅子から転げ落ちてササーッと後ずさる。


「なんじゃこの小太りの眼鏡は」


 イナバがてくてくと近づいていく。


「小僧の友人か?」


「ルームメイトのライマスだよ」


「小僧の同居人か」


 イナバがさらに近づいていくと、

「ひぃぃぃ!か、勘弁してくれぇ!」

 ライマスは泣き叫んだ。


 ......コイツ、イナバを怖がっているのか。

 しゃべるウサギが恐ろしいのか?

 あるいは動物自体が苦手なのかもしれない。

 ここは......ライマスには悪いが利用してやるか。


「おいライマス!」


「は、はいぃぃぃ!」


「その白兎に喰い殺されたくなかったら、変なことは一切せずに大人しくしろ!」


「わ、わわわわわかりましたぁぁぁ!!」


 ライマス・ループレイクはあっさりと平伏した。

 よし。一件落着だ。

 イナバがじ〜っと怪訝けげんな目を向けてきたけど、あとできちんと説明すればいい。

 平穏な生活を確保するためのやむを得ない防衛政策だと。

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