第10話 御神札

 ゴォァァァァァァッ!!


 魔鳥獣の咆哮ほうこう

 まるで...地獄の雄叫び!


「な、なななんでこんなヤツがいるんだ!?」

「ロテスコ様!逃げたほうが!」

「このままじゃ巻きこまれます!」

「クッ!ええい!撤退だ!」


 エトケテラを乗せた大怪鳥はぐるんと方向を変えると、びゅーんと退散。

 悪党はいなくなった......なんて言ってられない。

 それどころじゃない怪物が目の前にいる!

 最悪のバトンタッチだ!


「あああ!もうこの島は完全に終わった!!」

 村長が絶望にくずおれた。

「こんなのエトケテラどころじゃない!並の国家魔術師でも厳しいレベルだ...!」


「イナバ!どうしよう!こんなの逃げることもできないよ......」


 ああもうダメだ。

 泣きそう。

 俺の人生は十五年で終わるのか......。


「小僧!」


「な、なに」


「ちと早いが仕方ない」


「?」


「今からあの魔獣をやっつけるぞ!」


「えっ??あんなのやっつけられるの??誰が??どうやって??」


「お主の魔法でじゃ!お主ならできる!」


「はっ??俺が??魔法で??」


「いいからオイラの言うとおりにしろ!」


「いやいや待って待って!全然意味がわかんないよ!」


「このまま死にたいのか?」


「死にたくないよ!」


「ならやれ!」


「で、でも!」


「でももクソもない!いいからオイラの言うことを聞けい!」


「ぐべぇっ!」


 イナバにグーでボコッと殴られた。

 これまでで一番強く。

 

「なっ!なんでいつもいきなり殴るんだよ!」


「お主は死にたくないと言ったよな?」


「言ったけど!」


「それはこの島に暮らす者たちも皆一緒じゃ!」


 ハッとした。

 イナバの言うとおりだ。

 死ぬのは俺たちだけじゃない。


「今ここでお主がやらなければ、多くの尊い命が失われることになる。お主はそれでもいいと思うか?」


「そ、それは......いいわけなんかない!」


「ならば迷うことなどないじゃろう?」


「ほ、本当に、俺なんかに...できるの?」


「俺なんか...などと言うでない。お主は大いなる可能性を秘めておる。お主ならできる。自分を信じろ!」


「自分を、信じる......」


「お主の力で、島の危機を救ってみせい!」


「俺の力で、みんなを...!」


 そうだ。

 俺に何かができるなら、ここでやらないでいつやるんだ!

 俺の魔法で、島を救うんだ!

 

「な、なにをすればいいんだ!?」


「やっと良い眼になったな。では小僧、札を持っておるか?」


「ふだ?ふだって、神社のお札のこと?」


「早く出せい!」


「そ、そんなの持ち歩いてないよ!?」


「いや、お主は持っておる。そのかばんの中を探してみい」


 疑問に思いながらも、イナバの指示どおり鞄の中をゴソゴソとあさると、とした。


「えっ??なんであるんだ??」


 鞄の奥に木の御神札おふだがあった!?

 なんで!?

 いくら神社の息子だからって、持ち歩いたことなんてないのに!

 しかも取り出して見てみると......


神璽印しんじいんが押印されているだけで何も文字が書かれていない?印影はうちの神社と同じようで違うような......」


 それは無文字の御神札。


「どういうことなんだ??」


「それはお主が〔オリエンス〕へと運ばれる際に神が託した御神札じゃ。伝承どおりじゃな」


「そんな大事な物が託されているなんてもっと早く教えてくれよ!!」


「ふんっ。大事な物ということはすぐわかるんじゃな」


「い、一応これでも神社の息子だからな!」


「ちなみにお主はオリエンスの国民とも当たり前に会話できているが、それも神から授けられし御神力ごしんりょくじゃ」


「そ、そういえば!」


「その力によってお主はオリエンスの言語、文字は問題なく理解できる。どうじゃ?選ばれたということの意味を理解できたじゃろ」


「俺が選ばれたっていうのは本当なんだ......でも、それならそれで最初っから全部のことをちゃんと教えて...」


「いいか?物事には順序というものがある。順序を間違えると厄災が起きかねん。特に大きな力を扱う者にとってはなおさらじゃ。ましてやお主は未熟で若い。もちろん時と場合にもよるが、すべてはお主のためじゃ」


「わ、わかったよ。それでこの御神札をどうすればいいの?」


「その札に指で神の名を書いて読み上げるのじゃ。その際、精神を集中し、指先に心身の力を込めることを忘れるな」


「指でなぞって読み上げればいいってこと??」


「そうじゃ。お主の思う神の名を書いて読み上げろ。さすればこの危機も乗り越えられよう。何が起こるかは、やってからのお楽しみじゃ」


 イナバはニヤリとした。

 そうこうしているうちに、魔鳥獣プテラスキングが、その巨大な口をパックリと広げる。


「イナバ様!八十神殿!マズイですぞ!おそらくあれの威力は大怪鳥プテラスの数倍...いや、十倍以上になりますぞぉ!!」

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