村人の優しさと惚気
「それでまずはどうするんだ?」
「まずは畑を耕さないとな。見た感じ荒れてるってほどじゃないけど長年放置されていたせいで作物を育てるのに最適とは言い難いな」
ジャックに言われ早速畑を耕し始める。
俺とジャックが
メネアでは人が少ない分家や畑の面積が広い。
開墾し終わったら楽とは言わないが最初に整備するまでが一番大変に決まってる。
「くっ……!これは中々腰にくるなぁ……」
「はは!徐々に慣れてくるさ。その苦労の後で取れた作物は本当に最高なんだよ」
本当にその通りだと思う。
汗水垂らして出来上がった作物は美味しいに違いない。
無心で畑を耕し続ける。
そのときだった─────
「おーい、手伝いに来たよ〜!」
「耕すのは得意だぜ〜」
「俺たちにも手伝わせてくれ〜!」
声のしたほうには男達が20人ほど集まっていた。
突然の状況に少し困惑してしまう。
俺が戸惑っているとぞろぞろと俺の目の前までやってきた。
「俺たちも耕すのを手伝っていいか?」
「それは助かりますが……良いんですか?」
「いいんだよ。この村では新参者と親離れして独立した子供の初めての畑整備を手伝うのは昔からの風習なんだ。困った時はお互い様なんだからな」
「…!!」
ああ……なんて温かい人達なんだろう。
この村には昨日来たばかりなのにみんな優しくて温かくて涙が出そうになる。
俺もこの村の住人として優しさと思いやりに溢れた人になれるだろうか……
「無理して俺たちに恩を返そうとしなくていいからな?村の誰かが困ったときに手を差し伸べてやってくれ」
「必ず」
ここは田舎だから助け合いがあるんじゃないんだろうな。
その優しさはまるで人の嫌な部分を切り取ったかのようで不思議な気分になる。
村の人達が手伝ってくれたおかげで昼になる頃には半分以上耕し終えていた。
フィアたちも帰ってきたし手伝いに来てくれた人たちの妻や妹がみんなの分の昼ごはんを作ってくれたので宴会のようにみんなで食べることになった。
「おうおう、アルバートとかいったか?どこであんな
「幼馴染なんですよ。昔からフィアは可愛かったです」
「がっはっは!良い惚気を聞かせてくれるじゃねえか!俺も嫁との馴れ初めをはなそうじゃねぇか!あれは俺が10の頃だな───」
俺がフィアを褒めたことにより男達による惚気選手権が始まった。
みんな妻や恋人、想い人との思い出や魅力を自慢し合う。
当然それを見ていた女の人たちはみんな呆れた目をしていたが……
そして俺もフィアの魅力を他の人達に負けないよう自慢しまくったため俺とフィアが婚約していることがバレた。
別に隠すことでは無いが男たちから祝福と嫉妬を浴びながらもみくちゃにされる。
女性陣は恋バナの気配を感じ取り目を輝かせながらフィアに詰めかけていた。
◇◆◇
大騒動が起こって30分ほど。
俺は正座させられフィアに怒られていた。
「もう!すっごく恥ずかしかったんだからね!」
「ご、ごめん……」
「婚約の件を伝えるのはまだしもそれ以上の惚気は必要なかったでしょ!」
「だ、だってフィアが世界一可愛くて素敵だってことを自慢したかったから……」
10年以上の初恋が実って人生初めての恋人にテンションが上がってしまったのだ。
その結果がフィアの怒りなのだから恋は盲目とはよく言ったものである。
「そ、それでも他の人に言うのは恥ずかしいじゃん」
「なんで?フィアが可愛いのは事実だよ?」
「そういう問題じゃないの!」
余計怒ったようにも見えるが攻撃力が減ってきている。
よし、このまま褒めまくって説教を回避しよう。
何一つ言ってることは嘘じゃないし!
「そういうのは二人きりのときにたくさん言ってくれたらいいのに……」
「誰にも盗られたくないからフィアは俺のものだぞって示したかったんだ。嫌な思いをさせて本当にごめん」
「……許してあげない」
俺の予想以上に拗ねていた。
なんとか許して貰わなくては……!
「どうしたら許してくれる?」
「……二人きりのときにキスしてくれたら許してあげる」
なんだ。そんなのご褒美じゃないか。
すっと立ち上がりフィアの唇にキスをする。
フィアの顔がさっと真っ赤になる。
……可愛い。
「二人きりのときって言ったじゃんっ!もう許してあげない!」
「えぇ!?」
追加で30分怒られた。
◇◆◇
「さて、最後の仕上げといくか!」
フィアのお説教が終わったあと俺たちは続きを耕す組と肥料を撒く組に分けた。
肥料は落ち葉や枯れ木などを燃やして灰にしたものだ。
女性たちにも手伝ってもらって畑の耕しと肥料撒きを全て終える。
「終わった……」
本来一日で終わるはず無かったのに村の人達のお陰で一日で終了した。
本当に感謝してもしきれない。
「これから肥料をなじませるために二週間ほどおいておこう」
「そんなにも時間がかかるものなんだな」
「まぁな」
今日できることは全て終わった。
フィアと二人で村の人達にお礼を言って帰路につく。
「もう……アルがあんな人前で惚気けるなんて……」
「ごめんって。家に帰ったら好きなだけ甘えていいから」
「本当に!?じゃあもう気にしない〜」
目に見えてフィアがごきげんになった。
俺へのご褒美みたいだしとことんやってやるか。
夕日に照らされた帰り道を二人仲良く帰っていく───
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