幸せな朝のひととき
朝、目が覚めると楽しそうな顔で俺を見ているフィアが目に入ってきた。
昨日は絶対眠れないと思っていたけど告白とか引っ越しで思いの外疲れていたのかいつの間にか眠ってしまっていたみたいだ。
「おはよう、フィア」
「えへへ。おはよう、アル」
ニコニコしていて上機嫌のようだ。
朝からフィアの笑顔が見れるなんて最高の目覚めだな。
「何かいいことでもあったの?」
「ん〜?アルの寝顔はやっぱり可愛いなって思って」
またそれかい。
どんだけ俺の寝顔が好きなんだ。
それに可愛いは褒め言葉じゃないって何回言っても分かってくれないし……
「男の寝顔なんて見てて楽しいものなの?フィアは随分気にいってるみたいだけど」
「男の人の寝顔が好きなんじゃなくてアルの寝顔が好きなのー!なんていうか……ギャップ萌え?」
「なんだそれ?」
「いつもと違うアルが見れて嬉しいってこと!」
なるほど。
正直同じフィアを見続けても飽きるなんてことは絶対ないと断言できるがまた違う一面を見せられるとより愛しく思うのは確かだ。
そういうことならば可愛いと言われるのも甘んじて受け入れようじゃないか。
……寝顔以外で可愛いと言われるのは勘弁してもらいたいが。
「まぁこれから寝顔なんて見る機会はいくらでもあるだろう」
「えへへ。そんなに見せてくれるの?」
「いや、見せてあげるというよりは一緒に暮らすんだから見る機会も増えるでしょってこと」
ギャップ萌えとやらのためにわざわざ自分から見せつける必要なんて無い。
フィアの寝顔はぜひとも見せてほしいが。
「さて、それじゃあ朝ごはんを作るけどなにか食べたいものでもある?」
昨日ジャックたちが大量の食料のおすそ分けをしてくれたのでしばらくはそれを食べる。
その後は自分たちで調達したいが畑は作物を植えても食べられるまで時間がかかるので狩りもしてみようと考えている。
「なんでも大丈夫!それにアルと一緒に料理したい〜!」
「え?フィアって料理したことあるの?」
俺の記憶では無かったはずだ。
目を盗んでこっそりやっていたという可能性も薄い。
「無いからやってみたいの。アルのお嫁さんになるんだからおいしい料理を作れるようになってアルを喜ばせたいもん」
「なるほど。それはすごく楽しみだな」
これからの楽しみが増えた。
たとえ料理が不味くてもフィアがそう思ってくれているだけで充分嬉しい。
残念ながら朝から料理らしい料理ということはしないがせっかく申し出てくれたんだから一緒にやりたい。
「それじゃあ朝ごはんを作りに行こうか」
「やった〜!」
朝ごはんはパンをカリカリに焼いてバターを塗るという至って庶民的な朝ごはんにするつもりだ。
周りは自然に囲まれているんだし果物を探していつかジャムとか作ってみたい。
フライパンに油を引いて焼き始める。
遠い国には簡単にパンが焼けるトースターなる道具があるらしくいつか手に入れてみたいものだ。
トースターのことを考えているとフィアがやりたそうにパンを見つめていた。
「フィアも焼いてみる?」
「いいの!?やりたい!」
やる気満々なフィアに不安しか覚えないがパンを炭にしたりフィアが怪我をしなかったらなんでもいい。
危ないとき以外は口出ししないことに決めた。
そんなに難しくもないし大丈夫だろう───
◇◆◇
「うう……失敗しちゃったよ〜……」
俺たちは今焼き上がったパンを皿に出し机に向かいあっていた。
そしてフィアはしょぼくれていた。
「そうか?全然失敗には見えないけどな」
バターを塗り早速一口。
うん、普通に美味しいパンだ。
確かに所々香ばしいところはあるが別に苦いわけじゃないし全然失敗だとは思えない。
「そうなのかなぁ……?」
「焼きムラのことを気にしてるの?全然美味しいし初めてなんてそんなものだと思うけど」
俺なんて今まで何度失敗してきたことか。
それと比較してもフィアの方が器用そうだ。
「でもアルに喜んで欲しいじゃん……」
気にしなくてもいいと言ってもフィアは気にしちゃうだろうな……
なら言い方を変えてみよう。
「これから一緒に暮らしていくんだからまだまだ時間はある。焦らずにいこうよ。いつまでも待つからさ」
「アル……うん!そうだね!毎日練習してみる……!」
うまい具合に立ち直ったみたいだ。
やっぱりフィアは元気で笑顔なのが一番だ。
「食べたら早速畑仕事をしてみようか」
「すっごく楽しみっ!何作る?」
こんな朝がずっと続いて欲しい。
そう思わせる幸せな朝だった。
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