第48話/千年の時渡り

「あれ……ここは」


 違和感を体に感じ、仲間を失った悲しさから我に返りあたりを見渡すと研究所ではない場所にいた。まるで魔界のように空が赤く、荒れた大地が周囲に広がっている。


 それだけでなく数人程度だが体の一部がない状態で倒れており、かつ感じたことのある嫌な気配と自分とよく似た魔力が近くに感じていた。その正体を確認するために振り替えると空中にアデルキアが飛び黒い炎の球を出しているのが見えた。


 アデルキアの視線の先には満身創痍のシルヴィが大地に膝をついている状況。夢でも見ているのかと自分の頬を捻ってみる彼女だったが、痛みはしっかりあり夢ではないと実感する。となれば考えられるのは一つ。過去に来たということ。実際シルヴィが使う魔法、時空魔法の応用で時渡りすることが可能ではある。しかし時渡りできるのはせいぜい数分。ゆえに過去改変などできたものではない。


「まさか……千年前のここにくるなんて……原因はわからないけど、これなら……!」


 シルヴィは手を伸ばして少しでも長くアデルキアの注意を引くために過去の自分にアンチマジックを付与する。


 アンチマジックは消費魔力が少ない代わりに魔法の類のものを一度だけ防ぎ、物によっては跳ね返すことができるものだ。


 その付与魔法でアデルキアの炎を一度無効にし、その後アデルキアが撤退したところで過去の自分から瘴気を断ち切る剣を借りようと試みたのだ。だが付与した瞬間にその魔法の効果が発動し、再び無防備状態になった過去のシルヴィはアデルキアの黒炎に包まれてしまった。


 自分が死ぬところを目の当たりにして複雑な感情覚えるのと同時に、目の端で瞬間移動の魔法が発動し誰かがいなくなったのが見えていた。


 そこでふとフレアの苗字でもあるメールシュートルの名を思い出す。もしも今転移したのがメールシュートルであればだれかに救出され、フレアを養子として迎え入れられるまで世代がつながるのだ。まさか自分が起こしたことが千年後の未来に繋がっているとは思っていなかったシルヴィだが、今はそのフレアを救うべく奇跡的に訪れたこの時代から瘴気を断ち切る剣を持って帰らなければならない。

 

 カランと軽い音が聞こえた直後、シルヴィは急いでその音が聞こえた場所へと向かう。

 

「シルヴィ!? いやこれは……ほう、まさか別次元から来たというのか」

 

「アデルキア……ごめん今は戦っている時間はないの」

 

 瘴気を断ち切る剣を拾ったところでアデルキアに見つかってしまう。だが驚いていたのは一瞬で、未来からは不明のようだが別次元からきたことだけは一目でわかっている様子だ。


 しかし人を恨み、復讐と言わんばかりに人間を葬り去ってきていた彼女からはまだ殺気が放たれており、別次元のシルヴィすらも手にかけようと瞳には深い闇が灯っている。


 可能ならば今すぐにでも先ほどと同じように黒い炎で息の根を止めにかかるところだが、シルヴィの魔力の不安定さに気づいているアデルキアは拳を握り言葉を放つだけ。


 なにせ別次元からきていることを感じ、不安定な魔力がゆえにシルヴィが長くはここにいられないと悟っているのだ。それでも殺さないという理由にはならない。


 右手を魔力が薄れつつあるシルヴィに向けて。


「そのようだな……だが別次元であろうとも我はお前を殺す。……【死神トート呼び声ルーフ】。これはお前の命を常に削り太陽が昇るころに死が訪れる呪いだ。本来は我が何度だって殺してやりたいが、いつ消えるか、そもそも戻れるのかわからない人間などかまってられないからな。せいぜい元の次元で苦しむがいい」


 アデルキアもまた時空系に関しての知識があるのか、シルヴィへの怒りはそのままに襲うことはしなかった。代わりに呪いを付与される。その呪いは絶対に発動するもので元の時間に戻ってから数時間で命を刈り取るものだという。


 またその呪いの影響でシルヴィの右腕が黒く変色していた。


「……そっか……じゃあ会えるのもこれで最後か……ごめんね、救えなくて」


 アデルキアから受けた呪いの話を聞き、もうアデルキアには会えないと、そして魔族を救えないんだと悲しそうな顔を浮かべたシルヴィはその言葉を放った瞬間淡い光に包まれて消えた。


「はは……救えなくてか……本当にお前は変な奴だ。ニンゲンのくせに」


 悲惨な戦場にぽつりと残されたアデルキアは小さく呟き、自分の住処へと戻るために身を翻した直後。光の槍が彼女を背後から貫いた。唐突のことで何が起きたのか理解できていない様子だが、光の槍は魔を葬る効力がありアデルキアの意識は直ぐに遠のく。


 その仕業は魔法研究に生涯を捧げていたアロック。魔王の力を利用し人工魔王計画を企んでいる者。しかしその技術の研究は重ねられたものの、千年の間果たされることがないままだった。

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