第10話/秘密を知る者

 それから一週間。初日の騒動から注目を集めてはいたが、シルヴィには勝てないからと挑まれることはそうそうなかった。無論同学年にだが。


「シ、シルヴィ!  あの先輩が呼んでるけど何かした!?」

 

「え? あー、いやはじめましての人だけど……」


 教室に勢いよく入ってきて直ぐにシルヴィの元へと駆け寄ってきたのは今ではすっかり仲のいいフレア。いつもはポンコツ気味だが優雅に振舞っているのだが、シルヴィの前にいる彼女は髪はボサボサで汗だく、息も上がっていて相当焦っていたのがよく伝わる。


 そんな彼女は教室の扉へと指を指しており、シルヴィの目線がその先へと導かれた。だがそこに居たのはシルヴィは知らない人。

 

 教室の扉の高さがざっと二メートルだが、それがほぼ埋まる背丈で身なりはすらっとしていた。いわゆる好青年のそれだ。

 

 だが別に見とれるほどではい。直ぐに息を切らしているフレアの方に視線を戻して言った。

 

「とりあえず落ち着いてフレア」


「お、落ち着いてなんか居られないわよ……! あの人は――」


 そう言いかけたところで細い手で口を塞がれるフレア。その後ろには先程まで廊下からこちらを眺めていた人が不気味にニコニコしながら立っていた。


「やぁ。君が噂のシルヴィ君だね」


「どちらかと言うとちゃんなんですが……何か用ですか?」


「単刀直入に言うね。オレと決闘てくれないかな?」


 ズバッとストレートなことを言ってきて思わず言葉を失うシルヴィ。その様子を見て男はこう言い始めた。

 

「黙ってるってことは良いってことだね」


「勝手に決めないで欲しいんですが!? それに私は先輩に勝てるほど強くもありませんし、その挑戦を取るメリットもありませんから」


「またまた謙遜を〜。知ってるよ君がどれほど強いのか」


 ケラケラと笑いながら言う彼は、フレアから手を離しスっとシルヴィの耳元に顔を近づけて話の続きを始める。


「時空魔法を編み出した勇者様ほど強い人はいないだろう?」


 ぽそりと吐き出された声に背筋が凍りつく。この学校ではまだフレアしか教えていないシルヴィの真実。どうして知ってるのかと疑問に持つよりも先に身体が警戒を始め彼を突き飛ばしてしまう。


「おっとっと……失礼。急に顔を近づけるなんてマナーがなかったね。それで決闘はしないでいいかい?」

 

「します……」


「それなら良かったよ! 君の実力をこの目で見たくてさ〜」


 もし彼の申し立てに乗らなければ隠している秘密をバラされてしまうかもしれない。もしそうなった時の危険性は充分に想像できやむなく決闘を受けることに。

 

 それにシルヴィが勇者であると知られている以上手を抜く事はできない。ならばと彼女は決闘に条件をもちかけた。


「……でも条件があります」


「ん? あー分かってるよみなまで言わなくても。立会人はフレア、君だけ。観覧席は誰もいれない。そしてタイマン。でいいでしょ?」


 まさにその通りだ。考えていることが読めるのかと錯覚する程に、シルヴィが求めようとしていた条件を言い当てられ少女はたじろぐ。


 一体何者なんだ。と思ったところでシルヴィの中で答えはなく、聞いたところでも教えてはくれないだろう。


 とはいえシルヴィが出した条件によって相手はほぼ不利に近い。もし仮にも彼女の強さを知るというのなら普通自分が不利になるようにするはずもないのだが、男はそんなものは考えてないかのごとく至って余裕の表情を浮かべていた。


「それじゃあ決闘は放課後。先生には話をつけとくよ」


 ひらひらと手を軽く振ってその場を去る先輩。台風のような人ではあるが、少女はそれよりも秘密を知られていることに恐怖を覚えていた。


「フレア……今の人誰……?」


「……生徒会長、ハベル……この学校の絶対君主とも呼ばれるほど強い人よ……魔力量なんて私の比にならないわ。とはいえタイマンで私たちだけならまだシルヴィにも勝機は……」


「でも用心に越したことはないってところか……はぁ目立ちたくはないんだけどなぁ……」


 思い悩むほどはた迷惑な決闘の申し立てにため息を付き、気が気でないためか授業には集中できなくなっていた。

 それでも時間は止まらず放課後はやってくる。


 ルミナに案内された場所は地下の訓練所。普段は避難場として使われる場所だが、こういった時のために訓練もできるよう頑丈に作られている。


「それじゃあフレアさん。先程教えた手順でしっかりと審判を下してくださいね。あと終わったらすぐに呼んでください」


 条件によりルミナは審判も観戦もできない。だが似たようなことは稀にあるため、文句1つ漏らさず立会人としての役割などをフレアに教えてその場を去った。


「じゃあフレア、行ってくるね」


「ええ、応援してるわ」


 相手は既にフィールド中にいる。あまり待たせるのも失礼ではあるため、一言吐いてからシルヴィは戦場へと向かった。

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