2章
第8話/副作用
二人が外に出ると腕を組み般若の面で睨むルミナが立っており、声を荒げ始めた。
「フレアさん、貴女は人を殺す気ですか!? 最初から最後まで、一歩間違えたら死人が出てましたよ!? 止めれなかった私も私ですが!」
「やり過ぎたことは、その、すいません」
怒っているのはフレアの魔法について。ただでさえ何もしなければ並大抵の子供として扱われるはずだったシルヴィを最初から最後まで殺そうとしていたのだ。先を生きる大人としてその行動に怒るのは正しい。
いや、途中で戦闘を止めれなかった自分にも怒りの矛先は向いている。なにせ今回戦闘訓練を許可し、審判兼立会人を務めているからこそ死者なんて出せば大問題になると知りつつ止めれなかったのだから。
それでも彼女たちが無傷で済んだから大事になっていないだけましだ。
当の本人はやり過ぎたことは反省しており、しゅんとした顔で反省を示していた。
「はぁ……無傷だからいいですけど、今後気を付けるように。フレアさんは特に魔力が強いですからね、暫く力加減を課題とします」
と片手で頭を抱えて、一息吐くように言ったルミナは、今度はシルヴィへと視線を向けて。
「さて……シルヴィさん、あなた何者ですか? 貴女は魔力面では確かに不利だったはず。なのにことごとく無傷で済み、あろうことか【アイス・ゴーレム】を剣で一撃だなんて、普通子供にはありえないことですよ!?」
戦闘を何度も止めようと試みる度に、シルヴィの行動には驚かされ、つい言葉を失い戦闘が続行されていたが、少女の強さは異常と判断したのだろう。
現に、シルヴィは平均の魔力しかないと伝えられ、他のクラスに空きがないからと特級クラスに押し付けられただけで、ここまでの実力を持っていることは知るはずもない。
もしも少女の魔力が二百前後。多く見積もって五百だったとしても、魔力に大きく差がある以上、ゴーレムを倒すことも、フレアに勝つことも確実に不可能。
魔力量がどちらにせよ幸運にも氷の檻を溶かせたとして、ゴーレムを一撃で撃破できるほどの魔力は無いはずなのだ。
けれどそんなことを思われることは重々承知の上でシルヴィは行動していた。いや、多少は計算外なところもあったが、さすがに死ぬことだけは避けねばならなかったのだ。
なにせこの二度目の人生でやるべき事が沢山あるのだ。そう易々と命を手放すわけにはいかない。さらに言えば、変に周知され面倒になるのもやるべき事ができなくなりかねない。
ならば少女が考えることはただ一つ。この場を凌げる言い訳。
だが、シルヴィが口を開くよりも先に、魔力切れで眠気全開のフレアの口が動いた。
「先生、ありえないことじゃないよ……私、調子でてなかったし……純粋に私の力不足」
「そうですか……調子は術者本人でしかわからないことですし、フレアさんがそういうのならそうなのでしょうけど、でもですね!?」
「先生……しつこい。それとも私のこと疑ってるの……?こうみえて嘘は今までついたことないんだけど」
「わ、わかりました。そういうことにしておきます……」
シルヴィに秘密にと約束していたからでもあるが、フレアの言葉で先生は追求することを諦めていた。
とはいえたかが口約束。守る保証なんて何も無い約束なのにシルヴィの真実を隠すべきだと判断したのは、時空魔法を体験し幼い頃に見た時空魔法のことを、そして義父――ルルトの言葉を思い出していたから。
――時空魔法を生んだのは俺の先祖じゃなくて、ある女だそうだ。もう随分と前のことだから誰かまでは忘れたが、確か魔法の勇者と言われていてそれはもう凄かったらしいぞ――
と。名前の知らぬその人物に憧れつつも、その凄さを見ることはもうないと思っていたが、先程目撃した上に憧れの魔法の勇者が真実は秘密にしてとお願いしてきたのだ。それを守らない理由はフレアにはない。
それに彼女に味方した方が、より強くなれる。彼女の義父も、学校で目標となる人物を見つけて追いついて抜かせ。と言っており、今までその言葉に従って来たからこそ今のフレアがあるほど。ならばこそ目標を守る選択を取った。
そこまで考えてのことなどルミナにはわからないが、フレアの言葉に言い返せなくなった彼女は小さく息を吐いて言った。
「……ではシルヴィさん。フレアさんを保健室に運んだ後、教室に戻るように。では私は先に戻って授業を再開してますので」
ルミナがため息をついてからその場から去るまでの終始、警戒の意味で嫌な顔を作って先生の背中を睨見続けるシルヴィ。
何事もなく戻って行ったのを確認した後、小さくため息を吐いてから横にいるフレアに言葉を投げる。
「まさか嘘をついてまで、約束守ってくれるなんて思ってませんでした」
「別に、約束は約束だし……それより、タメでいい……というか、もう限界……無理、寝る」
「え、ちょ、フレアさん!?」
「だから、タメで……|ZZZ≪すやぁ≫」
緊張が抜けたのかそのまま眠りについてしまうフレア。いつの間にか髪の色も、燃え盛る鮮やかな赤色に戻り、そのまま身体をシルヴィに預けた。
(ていうか、すやぁって実際言う人いるんだ……)
フレアの脱力しきった身体を倒さないように、慎重に自身の右腕を肩に、左腕を足へと回して抱きかかえつつ、特徴的な寝言に苦笑いを浮かべて、保健室へと向かった。
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