6人の夫をもった女 2
最初は誰だっただろう。いやはっきり覚えている。でもそれを挙げて何になるだろう。死の床のほとんど顔もわからない傷ついた男が私に言った。
「俺は長くない。だが一人で死ぬのは怖い。故郷に恋人もいない。誰も愛したこともなければ愛されたこともないんだ」と彼は聞き取りづらい声で言った。包帯の血が激しく滲んだからきっと泣いていたのだと思う。私も何故か一緒に泣いた。そして私は彼に望まれるまま、形だけの結婚をした。といってもその人に触れたのはほぼ指と指、そして唇と唇だけ。ただ彼の苦しみを見守り、そしてほっとしたように口元を緩めたまま逝くのを見ただけの結婚だった。
次はさすがに私もためらったのだ。なんせ夫を失ったばかりの寡婦なのだから。でも、彼も懇願した。
「一人では逝きたくない。こんな終わりをむかえるのは辛すぎる。愛する人がそばにいてくれたら」と。
そしてわたしは彼と結婚した。彼の体調の良かった日に奇跡のように性行為を行い私は処女でなくなった。戦況はとても危険で、要塞の全ての人が常軌を逸していたと思う。私は流されるように恐れることもなくそれを迎えた。彼はその翌日死んだ。
戦争が終わるまで私は第一要塞の介護師として働き、5人の夫を持つことになった。勿論5人とも戦争でうけた傷がもとで亡くなった。感情は摩耗していった。悪いこととも罪とも全く思わなかった。なんの罪もない若い人が次々と死んでいくことが罪なのでは?私がしていることなど罪であろうはずがないと思った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます