第34話 PS競技会の校内予選

 俺は、シード枠だ。


 本来は、学年トーナメントで上位に入って、足切りを突破。

 2年、3年も出てくるリーグ戦へ。


 シルバーソードで専用機を持っている生徒は、これから伸びていく生徒と戦わせられない……。


 学年トーナメントは、昔の剣闘士のよう。


 防護シールドがあるスタジアムで観客がぐるりと囲み、地面が剥き出しの丸いグラウンドで、どちらかを倒すまでか、制限時間まで。


 わざわざ、実機を使うのは、補給、整備などの総合力を見るため。


 PS(パワードスーツ)乗りは、その役割から孤立しがち。

 もしくは、他の兵科をバカにしないよう、今のうちに教育するわけだ。


 オープンの観客席に座っていると、周りの女子の声。


「あれが?」

「うん。ハーレムを築いているっていう……」


 まさに、注目の的だ。


 俺の周りだけ、エアポケット。

 制服に目立つシルバーソードがあるし、何だかんだで、人間関係はせまい。


 そのヒソヒソ話を振り払うように、次の対戦を見る。


 キャロリーヌと梨依奈りいなによる、コンビ戦だ。


 校内予選には、1人と、コンビ戦がある。

 しかし、後者は自分の成果とアピールしにくく、人気がない。


 その代わり、有力な生徒が出てこない、空白地帯。


 実力のない生徒同士が組み、上位に入って、自分の名前を売る。

 または、カップルで共闘。


 PSをまとえば、女子でも戦えるからな?


 俺はキャロに誘われず、梨依奈と組みます、とだけ言われた。


 ふと気配を感じれば、小柄で白い肌のシェリー。


 いつもの、淡々とした声で話す。


「隣、いいですか?」

「ああ……」


 こくりとうなずいたシェリーは、隣に座った。


 俺と同じで、グラウンドのほうを向く。


「キャロと梨依奈は、どちらも悩んでいますよ?」

「だろうな……」


 ふうっと息を吐いたシェリーは、こちらを見た。


「あなたが大変なのは、分かりますけど……。もう少し、2人と話したらどうですか? キャロは、コンビ戦にエントリーすることで、男子にけっこう誘われていました。梨依奈も、それとは別に……」


「校内予選が終わったら、そうするよ」


「男女の前に、対等な人間ですから……。まあ、私が言うな、という話ですが」


 グラウンドで上空にも移動している女子2人を見ながら、しばし沈黙。


 周りのギャラリーは、好き勝手に騒ぐ。



 ビ――ッ!


 試合が終わり、キャロたちの負け。


 立ち上がった俺は、まだ座っているシェリーを見下ろした。


「行ってくる」

「はい」



 ――PSの待機場所


 対戦相手とは一緒にできないため、2つのスペースがある。


 キャロリーヌと梨依奈がいるデッキに行けば、顔パス。


 バシュッと、横にスライドしたドアを抜けると、油や金属の臭いが鼻をつく。


「PSの修理は、主なダメージだけ! あとは、既定のパーツ交換と補給をすればいいから!」

「うん。分かった!」


 中立で参加している整備科の生徒たちは、忙しそうだ。

 トラブルを防ぐため、なるべく同性が担当する。


 俺のように専用機がなければ、学園にある練習機を借りるしかない。

 予選では、必ず乗れる。


 ハンガーで固定され、待機状態のPSから降りた2人が、俺に気づいた。


「あ!」

「シャワーを浴びたいから、後でね?」



 ――カフェ


 ボックス席の1つに、陣取った。


 テーブルを挟み、キャロリーヌと梨依奈がいる。


「俺のほうは、シードだからな……。そっちはどうかなって」


「経験を積みたいから、梨依奈を誘いました! コンビ戦は、捨ててます」

「こっちは、整備と開発のほうで頭が痛いのに……」


 恨めしそうに、キャロを見る梨依奈。


「主任整備士は、他で探したほうがいいか?」

「ううん! それは大丈夫!」


 首を横に振った梨依奈は、笑顔を作った。


 気まずくなったので、話題を変える。


「コンビ戦は、カップルも多いんだよな?」


「はい!」

「……PS科に限らず、有望な生徒は避けるけどね?」


 梨依奈は、呆れた声音だ。


 その雰囲気から、キャロへの嫌味だけではなく、コンビ戦に出る時点でお察しという感じ。


 チーム戦と同じだから、腕のいい整備士などは、校内予選で引っ張りだこか……。


 考え直したのか、梨依奈はフォローする。


「別に、キャロを責めているわけじゃないから! PSの実機で戦えるチャンスは、確かに少ないし……。だけど、次の校内予選からは、付き合わないわよ? 私も、自分の専門で忙しくなる」


「うん、今回はありがとう!」


 気になった俺は、梨依奈を見た。


「お前は? 技術系は、科を変更することも可能だろうけど」


「それね……」


 天井を見上げた梨依奈は、視線を戻した。


「主任整備士は私がやるにしても、つきっきりは難しい! 譲るつもりはないけど、サブがいるわ」


「やっぱり、そうか……。前に会った令夢れいむ先輩は?」


「あの先輩は、マルティナさんの主任整備士よ? 和真かずまと本戦でぶつかるだろうから」


 そう言われて、今度は彼女たちが敵になると、改めて自覚した。


 息を吐いた梨依奈は、ストローで啜った後に、言い直す。


「校内予選が終わって、まだ頼める状態なら、相談してみる! 悪いけど、和真は口を出さないでね? お互いの相性もあるから、かえってこじれる」



 進展はなかったが、後日にシェリーから、女の子は定期的に構ってあげないとダメですから。と言われた。


 話し相手になれば、それでいいらしい。

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