第32話 モテる男子とそれ以外の埋められない溝

 恋のライバルだと宣言した早登は、俺のほうを見ている。


 他の男子は、面白そうに俺たちを見物。


 その視線を感じながら、自分の意見を言う。


「俺はキャロじゃないぞ? 見つめられても、答えようがない」


 もどかしそうに、同室の男子が突っ込む。


「お前はどう思うのかって話だよ! 早登があいつと付き合ってもいいのか?」


「良くはない……。でも、俺と早登が結論を出すことでもないだろ?」


 ここで、早登が提案する。


「なら、次の校内予選で優劣をつけないか?」


「別に、俺が負けたらキャロを譲るとか言わんぞ?」


 首を横に振った早登は、率直に告げる。


「ケジメをつけたいんだよ……。お前はキャロリーヌさんと一緒の中学だった。親しいことは、見ていれば分かる。だからこそ、お前より上だと思える根拠が欲しい」


阿由実あゆみさんは? 俺が見た限りでは、お前に好意があると思うが……」


 俺の指摘に、早登は顔をしかめた。


「あいつは……俺の雇用主の娘のようなものだし。強く言えないのさ。情けない話だけど」


 不穏な空気になってきたことで、周りが気を遣う。


「な、なあ! ここ、本格的なサウナがあるし、行ってみないか?」



 ◇



 翌日は、同室の男子グループで、適当に回った。


 ニューアースはまだ歴史が浅く、地球のような遺跡、思わず考え込むような場所はない。


 整備された、綺麗なショッピングエリアや、安全を考えられた設備だけ。

 それでも、人々は自分の歴史を築いていて、活気がある。



 集合するまで自由行動になり、他の連中は女子をナンパしに行った。


 なぜか、俺は誘われず。



 遊園地のベンチに座っていたら、声をかけられる。


「隣、いいか?」


 顔を上げたら、早登がいた。


「ああ……」


 警戒しながら、応じた。


 隣に座った早登は、おずおずと話しかける。


「昨日は……悪かったな? 本当は言うつもりじゃなかったんだが」


「まあ、そういう雰囲気だったから」


 しばし、アトラクションが動く機械音や、利用者の歓声。


 早登が、こちらを向いた。


「なあ? 和真かずまはどうして、PS(パワードスーツ)に乗っているんだ? やっぱり、先祖があの平良たいら和真だからか?」


「ほとんど成り行きだ……。結果的に、『シルバー・ブレイズ』へ乗り込んで、後に引けないだけ」


 早登は、俺の発言をどう捉えるか、迷っているようだ。


 悩んだ顔を見せた後で、唐突に言い出す。


「俺がAI制御のレーシングでチャンプになったと、知っているよな?」


「ああ、千夏ちなつ先生が言っていた」


 ため息を吐いた早登は、本音を漏らす。


「AI制御だから、以前のフォーミュラと比べて、年少者でも勝てるチャンスがある。俺はたまたま、走るマシンとチームに恵まれたのさ……。追われる立場になったら、急に怖くなって……」


 言葉を切った早登に、俺が続ける。


「PSへ転向した?」


「まあな……。それはそれで、レーシングチームを運営しているアぺイリアにも利点があったし。PSの分野でシェアをとれれば、この上なく美味しい」


「阿由実さんは、お前についてきたのか?」


 首肯した早登は、息を吐いた。


「可愛い女子に思いを寄せられて、悪い気はしないさ! だけど、限度がある」


 3年間は嫌でも顔を合わせるクラスメイトに、堂々と喧嘩を売るしな……。


 ジッと俺を見た早登は、ポツリと言う。


「お前は……言わないんだな?」


 視線で問いかければ、苦笑した早登が説明する。


「阿由実の気持ちに応えろとか、レースに戻れとか……」


「お前の問題だ」


 脱力した早登は、ベンチの後ろにもたれた。


「逃げた先でも、結局は『インフィニット』につぎ込んでいる金に見合った成果を出せ、だからな……。今だって、設計者や整備チームは付きっきりで調整中か、専用パーツを削っているさ! システムエンジニアも」


「見るからに、ピーキーだった……。なあ、早登? レースも命懸けだろうが、PSは兵器だ。現に、俺は実戦を経験した」


 影が差した顔の早登は、うなずく。


「分かっている……つもりだ。ウチの学園でも、いつぞやの防衛戦で戦死者がいたようだし」


 楽しい話題ではないため、早めに切り上げる。


「まあ、俺たちは校内予選で勝ち上がれば、いずれ当たるってだけだ! 気楽に戦おう。負ける気はないがな?」


 早登も、それに応じる。


「俺もだ」


 遠くから見つめている阿由実に気づいた早登は、俺に断った後でそちらへ行った。


 しかし、物陰から覗いているキャロリーヌたちをどうすれば……。



 俺も彼女たちに連れ回され、ドヤ顔のキャロリーヌが印象に残った。


 良い事があったらしい。


「校内予選、私も頑張ります!」


 対照的に、梨依奈りいなたちは不機嫌。


 

 他の奴らは、女子を口説けなかったようだ。


 お前らには分からないでしょうねえええっ!? と言われた。



 ともあれ、定期テストや行軍訓練のストレスは、これで解消。


 学園に帰ったら、いよいよ、校内予選に集中しないと……。

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