ウララちゃん
荒馬宗海
第1話
私はこの血とこの運命を呪う。
私という存在が私でしかない以上、
どうして呪わないでいられようか?
私は物心ついた頃から走っていた。そして走ることを愛していた。「そこにこそ私がある」、いや、「それこそが私である」と信じて疑っていなかった。
そんなある日のこと、私はふと気がついてしまった。「私は(これまで)一度も一着になったことがない」と。私は思ってしまった。「先頭の景色が見たい」と。
今からすればなんと身の程知らずな大望であろうか。
ふとした気づきから、以前にも増して、私は自分の走りに対し真摯になった。私にだって出来ないはずがない。何故ならばこの私とて、走ることを運命づけられた者、走りのエリートの血を継ぐ者なのだから。
それなのに、なかなかに勝利の瞬間は訪れなかった。一体何がいけないのだろうか? 私は更に精進した。私は先頭の景色を欲した。
それなのに、それなのに勝てないのだ。何戦、何十戦戦おうとも、積み重なるのは敗北ばかりであった。私は勝利を渇望するようになっていった。私はレースに自身の存在意義を問い続けた。「私とは一体何者なのだ」と。
私はそれ以降以前にも増して、それこそ血の滲むような努力を積み重ねた。そして、私は挑んだ何度も何度も何度も。繰り返し挑み続けた。
結果から言おう。私の挑戦は悉く跳ね返された。その全てにあったのは失望であった。ただ数十戦もの無残な敗北を連ねるばかり……。運命は只管に私にとって過酷であり、現実は心身ともに私を叩きのめすのみであった。私は自覚せざるを得なかった。「私とは類稀なる無能者、過去に類を見ない出来損ねでしかない」のだと。
私は私に辟易する他はなかった。
私は私に絶望した。
だが、真なる地獄の底とはそこではなかった――
そんな私を――本来のあるべき姿の真逆を行き、惨めな連敗街道を走り続けるこの私を――ことをあろうに、人間はもて囃した――
元々はそんなつもりからでなかったろうことは理解に難くはない。そんなことはわかっている。わかってはいるのだが……。
最初に私の数十もの連敗に注目し、そのプロフィールを実況の音声に乗せたアナウンサーの意図は、これまでの私の苦難や苦悩を語ることによって、その後にやってくるに違いない――とすら錯覚していたのだろうか?――初勝利の感動をその場に居合わせた者どもと共有したかったことくらいは想像はつく。つくのだ。つきはするのだが…………。
しかし、現実として私が体感したのは、これ以上ないというほどの生き地獄以外のなにものでもなかったのである。
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