第45階層

 資格がある人、と言うのはちょっと違う様だ。


 とある条件を満たしている必要がある。

 その条件とは、武器防具、アイテムに至り、何も荷物を持っていない事が条件だそうだ。

 ハーキャットさんが指さした人物がそうであって、同じ条件にしてみると、移動出来たとの事。


 そして、D2以降は、D1をクリアした人のみしかいけない。

 さらにD1をクリアした人はD1には行けなくなるそうだ。

 しかし、もうすでにダンジョン探索を始めているのか。


 各階層にはダンジョンが用意した武器防具がある。


 その階層ではそれのみしか使用出来ない。

 もちろん他階層への持ち出しも出来ない。

 考えたなダンジョンさん。


 装備に頼った強くてニューゲームや、楽してガッポガッポはやらせないって事か。


 さすが23個ものダンジョンコアを使っただけはある。

 とんでもない大型アップデートだ。

 ただまあ、コレを街と呼んで良いかどうかは微妙だが。


 ダンジョンの上にホテルが建っているだけな気がする。

 部屋数だけはとんでもないがな。


「しかし、良くこんな形に出来たものですね」

「あっ、それはコレッスね」


 そう言って、何やら模型のような物を持ち出して来る。


「コレとこのスケッチを持って、随分と長い間、話し合っていたッスよ」


 なるほど…………オレは少々、あの女王様を馬鹿にしすぎていたのかもしれない。


 そうだよな、理想とする形の模型があれば、さすがのハーキャットさんも、訳の分からない物を作り出す訳にもいかないだろう。

 所々違いはあるが、最下層のステーションは、ほぼ完ぺきな仕上がりと言えるだろう。

 ダンジョンとは意思の疎通が出来ないと言う先入観を持っていたオレと違って、アイツはどうすれば意思の疎通が出来るかを考えていた訳だ。


 しかし……いつから用意していたんだこんなもの。

 一昼夜で出来るような代物じゃないだろう。

 事前に何をするかを決め、必要な物を用意し、結果を出す。


 しかもだ、目を光らせていた、オレやファリスさんの隙を掻い潜って実行に移している。

 決して無能な奴が出来る事ではない。

 オレは執事の方へ視線を投げかける。


「私は一度たりとも、あのお方が無能であると仰った事はありませんぞ」


 厳重な王宮の警備をすり抜けて、外に遊びに行くのだって、無能な人間じゃ出来ない芸当だ。

 やっている事は馬鹿な事かもしれないが、それを実行に移すのは馬鹿じゃ出来ない。

 さらに、あの緩い性格のおかげで、アウトローな方達でも相談に来る人物は多い。


 少々、法に触れるような出来事でも、指で丸い円を作って、コレさえ頂ければなんとかしてあげるよ。などと言うお方だ。


 必然、彼女の元には、他には知られたくない事、内緒にしておかないとまずい事、表には出せない様々な情報が集まって来る。

 そういった情報は、大抵において貴重な物が多い。

 また、そんな情報を握られている人達は彼女に逆らえないだろう。


 王になった今、実質的にアイツは表も裏も牛耳っていると、そう言えないだろうか。


「彼女こそが王の器であると、私はそう確信しておりました故」


 なにが、王の器が無いだ。

 人を惹きつけるカリスマがある? 時流を読む先見性がある? 持ってんじゃないかそういうヤツ!

 そうだよ、よく考えたらオレだってアイツに惹き付けられた一人じゃないか。


 あの緩い性格を利用してうまく扱っているつもりが、命懸けで庇う事になるほど、すっかり魅入られてしまっている。


「今回も外をふらついているかと思えば、各国の大使館に入り込んでいましたぞ」


 そして各国の大使達も、他じゃ言えないような事をうっかり、しゃべってしまうんだろうな。

 そうやって集めた情報がアレか。

 とんだ女王様だぜ。


 こりゃ適当に過去問解いて、適当に運用していく、などじゃ済みそうにない。


 そうこうしている内に、一体のリニアモンスターカーがステーションの壁の穴から顔を出す。

 それがゆっくりと停止した後、大きく開いた口からゾロゾロと人が出てくる。

 先頭にいるのは、先ほどまで噂していたアクレイシス女王。


 引き連れているのは……各国の外交官か……まさか、そのものを連れて来ていたのか。

 アクレイシス女王がオレの顔を見て、ヤベッていう表情を見せる。


「えっと、その…………怒って……る?」


 近くに来たアクレイシス女王は上目遣いでそう聞いてくる

 そしてオレは、その女王の前で――――膝をつく。


「私はあなた様の僕でございます。このイース、あなた様の望む事であれば、どのような事であろうとも反対など致しませぬ」

「えっ?」

「ただ一つ、望むべく事がありますれば、あなた様の夫となったこの身、出来れば一緒に考えて行動しとうございます」


「イース君……」


 ようは、頭ごなしに反対はしないから、事前に相談してね。と言うのをオブラートに伝えてみる。

 なぜ黙って隠れて行動するのか?

 その理由は一つ、事前に言えば止められると思っているからだ。


 まあ、事前に言われれば止めてたがね。


 どうやらコイツの頭の構造は、凡人のオレでは理解出来そうにない。

 ならば、理解しようと努力するしかない。

 それには、まずは話し合いだ。


 終わってしまった出来事を、頭ごなしに叱ってはならない。


 何故、それを行ったのか。

 他に方法は無かったのか。

 次に同じような事が起こったらどうすれば良いか。


 どんな優秀な人間でも常に正しい結果を出せる訳ではない。


 だが、話し合いをした結果、凡人レベルの結果になってもいけない。

 天才と凡人が話し合って行動を起こすと、結局、凡人レベルの行動しか起こせなくなる。

 話し合うと言うのは互いの理解を得る事になるからだ。


 そして凡人は決して天才の構造を理解出来ない。


 話し合って理解が得られない以上、天才がやりたいと思う事は凡人に隠れて行動を起こすしかなくなる。

 オレがやらなくちゃならない事は、コイツがやりたい事を聞いて、起こりえるであろう問題を最大限、少なくする。それだけだ。

 やりたい事をやれって言ったのは、そもそもオレだからな。


「そうか……そうだったよね、君はいつも私の味方だったんだ…………うん、私が間違っていた!」


 分かってくれたか?


「そうだよ、王宮から出たいと言えば、姿を隠す魔道具を探して来てくれた、遊ぶ金が足りないと言えばすぐに用立ててくれた……どんな相談だって君は叶えてくれたんだ」


 オレはどっかの狸型ロボットかよ。おっと猫型だった。


 しかし、感動した面持ちでそう言ってくれるのは良いんですが、その話は後にしませんか?

 ほら、執事さんが何やらオレを睨んで来ている。

 今まであったアレやコレやは、全部お前の所為やったんか。みたいな表情ですね。


 このままじゃ執事さんの中で、被害者から共犯者にジョブチェンジしてしまう。

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