育てよう、日本円がおちるダンジョン!

ぬこぬっくぬこ

第1階層 ダンジョンが生まれた日

 ダンジョンとは人を喰うモンスターである。


 宝箱という、甘い匂いでおびき寄せ、地面に大口を開けて待っている。

 欲深き人々は罠と分かっていながらそこに入って行く。

 そして多くの人は、そこから帰って来る事はない。


 そんなダンジョンが我が領地に見つかったという。


 正直、要らない、と思った。

 ダンジョンを利用すれば、領地は栄え、発展していくと言うが、そこには多大なる犠牲も必要となる。

 なぜなら、ソレの餌は「人」だからだ。


 ダンジョンからは、宝石、武器、回復薬、様々な物が手に入る。


 だが、ダンジョンだって何も無い所から、それらのアイテムを生み出せる訳じゃない。

 そこで散っていった「人」の、魂や装備品、それらを養分として成長し、その過程で作り出されている。

 必然、ダンジョンから様々な物を手に入れるには、それ相応の犠牲が必要となる。


 発展に犠牲が必要であるとしても、それは今ここである必要もない。


「犠牲ありき発展が、必要な場所でもありませんしね」


 なにせここは、人がそうそう行き来できない、世界の果てにある辺境。

 この先に道も無く、ここに来る人もほとんど居ない。

 こんな場所を発展させても、行き詰まりは目に見えている。


「そ、それでもダンジョンですよ? 全領主の憧れの元じゃありませんか!」

「そうですぜ旦那、何もすぐに壊さなくとも良いんじゃね」

「せめて、どういった物が手に入るかだけでも調べた方が良いと思います」


 放置しておくのも危険なので、すぐにダンジョンコアの破壊を命じたのだが、周囲の奴らが猛反対する。


 一応、領主はオレなので、突っぱねる事も出来るが、そんな事で領民と不仲になるのも馬鹿らしい。

 誰か一人でも犠牲が出れば終了という条件を付けて、好きにさせてみる事にした。

 喜び勇んでダンジョンに向かっていく村人達。


 最初の頃は意気揚々とダンジョンの調査をしていた様なのだが、そのうち一人減り、二人減り、と、だんだん人数が少なくなっていく。


 どうやら1階層しかない狭いダンジョンで、出てくるモンスターも雑魚ばかり。

 しかも、モンスターを倒してドロップするアイテムは全て同じで、何に使うか分からない紙切れ1枚。

 宝箱が出ても、中にはその紙切れが束で入っているだけ。


 正直、何のうまみもない。


「危険は無さそうなので、放置しておいても良いとは思いますが……」

「紙しか落ちないダンジョンなんて、聞いた事もねえぜ」

「壊しますか? 最奥の部屋に出るボスも大した事は無いので、何時でも可能です」


「ううむ……」


 オレは村人達が持ち帰った、ダンジョンで回収して来たという紙切れを見て唸り込む。


 ダンジョンとは本当に知恵のあるモンスターなのかもしれない。

 まさかこのような物を用意してくるとは……

 今、ダンジョンの破壊を推奨しているのはオレだけだ。


 そしてその権限も擁している。

 だからこそ、ピンポイントでオレを狙って来たのだろうか。

 そう思いながら、オレは目の前にある束になった紙を手に取る。


 ――――それはオレの前世、地球という星の日本という国で使われていた、紙幣であった。


◇◆◇◆◇◆◇◆


 日本という国で一生を終えた記憶。

 と言っても、全てを思い出している訳ではない。

 生まれた時から前世の記憶があった。という訳ではなく、ある日突然、前世を思い出した。という訳でもない。


 ほんの少しの切っ掛けから、少しずつ、見た事もない、会った事もない記憶が頭の中に浮かんでくる。


 この世界の料理を始めてみた時、不思議な感情と共に、前はこんなもの無かったな、などと思い、前ってなんだ? から、前世の料理に関する記憶を思い出す。

 剣術の稽古の時、追い詰められて思わず必殺技の名前を叫ぶと同時、あれ、なんだそれ? と思った事から、様々な剣術や剣技を思い出す。※ただし架空の物。

 家に飾られている絵画を見て、もっと露出がしたのが良いとおも・・けふん、けふん。とにかく、インターネットという世界に、無数のイラストがあった事を思い出す。


 生まれた時から全ての記憶があった訳ではないので、子供の時から天才ムーブは出来なかったが、二十歳になる今では、ほとんどの事を思い出している。


 当然、この紙切れが何であるかも、だ。

 芸術的と言ってもいい絵柄、高度な技術を用いた透かし。

 一見して美術品に見えるそれは――――


「武器として使うにはリーチが無さすぎるんですよね」

「紙切れの癖に頑丈で、引っ張ってもちぎれねえ、水につけても変化しねえ、変わった材質なんだよなあ」

「まあ、持ち運びしやすく、隠しやすいので、暗器には向いているかもしれませんが」


「えっ、武器?」


 ん? 武器だったっけコレ。


 束にしたその紙で机を叩く。

 大きな音と共に飛び跳ねる机。

 結構な威力がありそうだった。


 ん~……、武器なのか?


「使い道によっては便利そうではあるんですがねえ……」

「ちょっ、ちょっと待ちたまえ、えっ、本当にこれは武器なんですか?」

「そりゃ、この見た目でダンジョンから落ちる物なんて武器以外に思えませんが?」


 そらそうか、ダンジョンが紙幣なんか落とす訳ないか。

 金貨や銀貨ならいざ知らず。

 いや待てよ、記憶の片隅に……確か…………札束で殴る、などと言う単語が……


 って、なんでやねん!

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