第11話

「で、結局幾ら負けたんだ?」


「……16万」


 俺がそう言うと、事務所のソファに座っている小林こばやしこえは大袈裟に溜息を吐いた。


鏑木かぶらき、これに懲りてギャンブルは自重することだな」


「……返す言葉もない」


 最初のゲーム、俺が先攻を選んだのは手札に奇数のカードが多く含まれていたからだ。Aエースのカードこそ持っていなかったが、それさえ凌げば一巡目は安泰あんたいの手札だった。

 それに自ら先攻を選んだ俺に対して、最初から「ダウト」をコールすることはないだろうという計算もあったのだが、そんな俺の考えを見透かしたかのように、服部はっとりは初手から「ダウト」をコールしてきた。


 その後のゲームでも、服部はことごとく俺の嘘を見抜き、「ダウト」を成功させた。


 ――気が付いたときには、パチンコで勝った金は全て服部に巻き上げられていた。


「……なァ小林、服部が何らかの方法で俺の手札を盗み見ていたことは間違いないと思うのだが、お前なら奴がどんなイカサマをしたかわかるんじゃないか?」


 小林声はこれまでに幾つもの事件を解決してきた名探偵だ。コイツに解けない謎は、おそらくこの世に存在しない。


「その質問に答える前に、幾つか確認させてくれ。まずゲーム中の服部の様子だが、常にスマホの画面を見ていたのだな?」


「……ああ、何らかのアプリゲーなんだろうな。たまに画面をタップしていたが、何のゲームかまではわからない」


「次だ。店内の様子はどうだった?」


「……どうって、特におかしな点はないと思うが。ああいう洒落たバーにしては照明が明る過ぎるような気がしないでもないが」


「次。ゲームに使われたトランプについて教えてくれ」


「……教えるも何も、市販で売られている普通のトランプだよ。BICYCLEバイスクルのライダーバックだった筈だ。ゲームを始める前まで封が切られていない新品だったことは間違いない」


「ふむ、では最後の質問だ。鏑木、実際に服部と即死ダウトで対戦してみて感じたことを教えてくれ」


「……感じたことといわれても、もう大体喋ったぞ」


「どんなに細かいことでもいい。何か妙なことはなかったか?」


「……あ。そう言えば、ゲームを行っていた黒いテーブルがつるつるしていて光を反射していたんだった。それで最初はテーブルに映り込んだカードを見られたのだと思って、2ゲーム目からは警戒して常に手札は胸の前に隠していたのだが、服部の『ダウト』的中率はそれ以降も100%を維持し続けていた。もう俺には何が何だかさっぱりわからない」


「否、そうでもないぞ。今お前が話した情報の中に、敵のイカサマを見破る手掛かりはある」


「……本当か?」


 俺は半信半疑で小林の顔を見る。

 そこにはいつも通り、人を小馬鹿にしたような不敵な笑みが浮かんでいた。


「さて、落ちている金を拾いに行くとするか」

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