Qザコスキル持ちの俺がスキルを売る魔女に出会ったらどうなる? A才能主義社会に革命を起こす為の戦いが始まる
アカアオ
魔女との出会い編
第1話 才能主義社会なんてクソくらえだ
「我々に宿るスキルは女神さまが下さった最初で最後の贈り物です」
耳にタコが出来るほど聞いた聖書の一文。
毎朝の様に教会に足を運んでこんなものを聞かされるこの国のルールに静かな苛立ちを覚えながら、僕は黙って牧師様の言葉を聞いていた。
「スキルは人それぞれ。女神様が与えてくださった力を敬い、鍛え、社会に還元する事こそが善なる行いです」
話を聞くたびに思う。
『紙を整理する』スキルなんて授けて神は僕に何をさせたかったのだろか?
本になったら整理出来ないとか、ふざけてるにも程がある。
このスキルを一番有効に使える仕事に着いたって稼ぎは少ない。
出来る事なら、僕も皆の様に魔族と戦う仕事がしたかった。
「決して他人の持つスキルを欲しがってはいけません。決して自分の才に合わない事を努力してはいけません」
僕は聖書の一文を聞かされるこの時間、いつも思っていることがある。
それはとてもじゃないけど他人には言えないことで、下手したら考えているだけで罰されてしまいそうな危険な思想だ。
でも、僕じゃない誰かに同じ事を考えていてほしいと願っている事でもある。
「もちろん、女神様以外の存在からスキルをもらい受けるなんて罰当たりな事はしない様に」
この世界は間違ってる。
「女神様への反逆は重罪です。皆さん、清く正しく生きましょう」
女神に与えられたスキルで生き方が決まるこの世界を誰か壊してくれ……と。
◇
「でな、ここで俺のスキルが敵を倒す決定打になった訳よ」
「はぁ」
昼時はいつも憂鬱だ。
村の小さなギルドで自慢話をこれほどかと聞かされる。
「まぁ、そんな俺様が活躍した書類、しっかりと纏めて教王様に伝えといてくれよ」
「はいはい。アッシュはこの村で一番優秀ですって送っておくよ」
「あ、そういえば今度馬買おうと思ってるんだぜ。10万ギーネの」
「10万?馬一頭の相場は1万ギーネのはずだろ?」
「馬鹿だなぁ。それだけ他の馬より速く走れるって事さ。ま、女神様に見捨てられてザコスキル押し付けられたダンテ君には関係のない話だったかな?」
眼の前の男はそう言うと、ギルド中に響く笑い声を上げながら去っていった。
そいつを見てつくづく思う。
才能に恵まれた人間は人生楽しそうだ。
「いっその事俺も魔族を倒しながら生計を立てれば金持ちになれるのかねぇ」
そう口にはしてみるけれど、『紙を整理する』スキルでどうやって魔族と戦えるだろうか。
今からどれだけ剣の修業をしようと、ただの剣技で倒せる魔族なんてたかが知れてるしな。
それに、スキルに見合わない努力をするのもあまりいい目で見られない。
このザコスキルがある限り、何をやっても無駄なんだよなぁ。
「せめて……もっと強いスキルが使えたらな」
女神様に見捨てられた人間。
そんな用語が広まったはつい最近の話。
女神様の力には限界があって、ザコスキルを授かった俺の様な人間はそのしわ寄せを受けているなんて噂が流れ始めたの同時だった。
その話をどこかで聞いたアッシュはそれを村中の人間に教えたんだ。
なぜか、俺の話をしながらな。
それ以降、俺は同年代の奴らから女神様に見捨てられた気の毒な人間代表として憐れまれたりバカにされたりしている訳だ。
俺を侮辱する事そのものに悪意を感じていない人間すらいる始末だ。
ロクなスキルも持っていない人生負け組はいくらでもバカにしていいなんて、この世界の倫理観はほとほと終わっているように感じる。
「おーいダンテ君。朝から疲れただろ。私と交代しよう」
声をかけられた方向を見る。
そこには初老の男性が立っていた。
「君のスキルは便利だけど、この仕事は私達だけでも出来るからね。ダンテ君はまだ昼ごはん食べて無いんだろう?ゆっくりしていくと良いよ」
「‥‥‥‥有難うございます」
こんな初老の男性にだって出来る仕事の肩代わりをするだけのスキル。
あったら便利だけど別になくても困らないスキル。
それが女神様が俺に授けてくれた才能だ。
スキルで職業も収入も決まっているこの世界で俺が持つのはこんなゴミみたいなスキルただ一つ。
こんなスキル渡すぐらいなら……最初から見捨てる気で俺と言う生命を生み出したのなら、怠惰で周りの事を気にしない程図太い性格にでもしてほしかったものだ。
「仕事が終わったらあの本の続きを読もう」
そんな事を思いながら俺は貴重な休憩の時間を過ごすのだった。
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