第壱舞

―ピピピ・ピピピ・ピピピ―


規則的なアラームの音で目を覚ます。


「んーーっ」


グーッ、と大きく背伸びをしながら起き上がり、頭元に置いてあるスマホを手に取ってアラームを止める。


スマホに映る時刻は5時半。


「はあ、起きるか…」


少々憂鬱ゆううつになりながらベッドから出る。


眠気覚ましに顔を洗い、歯を磨く。


あ、髪の毛はねてる。…シャワーくらい浴びようかな?


そう思いたって朝食の前にシャワーを浴びる。


朝のシャワーって妙に気持ちいいよね。


誰に言うでもなくそんなことを思う。


さっぱりした気分でお風呂場から出て、髪を乾かす。


髪が長いと乾かすと凄く時間かかるんだよね…。


自分の腰くらいまである長い髪を乾かしながらそんなことを思う。


これ、全世界の女の子の共通の悩みだと思う。


これを言うと髪を切ればいいじゃないか。とか言われそうだけど簡単にできないんだよね...。


数十分かけて髪を乾かしたあと、朝食を作る。


ご飯にわかめと豆腐の味噌汁、少し手間をかけて鮭のホイル焼き。


うん、我ながらよくできた。


どうせ来るであろう来客のためにもう一人分作っておく。


来ないなら来ないで作り置きしておけばいいしね。


一人で朝食を食べ終わったころ


―ピーンポーン


チャイムが鳴った。続けて


「ま~お~来たよ~」


という声。


やっぱり来た。


「今行く」


食べ終わった食器を台所に置いて玄関を開ける。


そこには茶髪のショートヘアーでどこか子どもっぽい印象を受ける女の子、幼馴染おさななじみである古川ふるかわまいがいた。


「えへへ、おはよ、舞桜まお


嬉しそうにはにかむまい


「おはよう。来ると思ってご飯作ったんだけど食べる?」


私の質問に


「やったー!さすが舞桜まお!分かってるっ!」


と、両手でバンザイ。


こうも喜ばれると作ったかいがあるというものだ。


それから私はまいに作った朝食を出して学校に行く準備をする。


まあ、今日は始業式だからあまり持っていく物は無いのだが...。


まい、食べ終わったの台所に置いといてね。洗うのはやっておくから」


部屋越しなので少し大きめの声でそういう。


「わかった~」


というまいの返事を聞きながら私は、ベッドの近くに立て掛けていた刀を手に取る。


そしてその刀を今着替えた改造・・してもらった制服の後ろに、差し込むようにして隠し持つ。


『生徒の武装を許可し、義務づける』


…笑えちゃうくらいに普通じゃない校則。


もちろん、こんな校則の学校が普通のわけがない。


机の上に置いてある紙を手に取る。


―転校届け。この狂った学校から抜け出すのに必要なもの。


しかし私はその紙に名前すら書いていない。書くことが…できない。


ただ、じっと紙を見つめる。


ああ、やっぱり私は『人形・・』でしかない。そう思い知らされる。


人形であることからは逃げられない。そういう『運命』なのだから。


私はその紙をポケットにしまい込み、まいのいるリビングに戻った。

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