第3話 白雪と6人の小人

 そもそも、一国の王になることに執着していなかったカイザーは、命さえ助かれば、どこでどう暮らしても良かったのだ。カイザーは3日間、ほぼ飲まず食わずで森を彷徨い、古びた小屋に辿り着くと、気を失って倒れてしまった。幾日眠っていたのだろう。目を覚ますと、至る所に包帯が巻かれ、点滴が施され、丁寧に治療されていた。小屋を散策すると、自分が眠っていた客間の他に、小さなベッドが7つ並ぶ部屋、ダイニングキッチンとリビング、そして鍵のかかった部屋があった。

 17時を知らせるサイレンが鳴る。ドアから6人の全く同じ顔の小人がぞろぞろと入ってきた。


「やぁ、目を覚ましたんだね。気分はどうだい?」

先頭で入ってきた小人が尋ねる。


「あぁ、とてもいいよ。君たちが治療をしてくれたのかい?助かったよ。ありがとう。」

心にもない感謝の意を、さも心があるかのように答える。


「いやいや、僕たちより白雪様に感謝することだな。」

さっきとは別の小人が答える。


「白雪…様??」


「白雪様はすごいんだ!有能な科学者なんだよ!」また別の小人が答える。

「そして、美しくて、優しい!」また別の小人が答える。

「今、世の中を良くする画期的な薬を開発中なんだ。もうすぐ完成するってさ。」

また別の小人が答える。最後の一人は、一言も言葉を発することなく、カイザーをねめつけるように観察していた。


「そうですか。それはぜひお会いしてみたいな。」

清く美しい笑顔でカイザーは答えた。


―――『世の中を良くする薬を開発する美人科学者と小人の家…?胡散臭いな…。』


 傷が癒えるまで、カイザーはこの小人の家で世話になることになった。生活するうちに、この6人の小人たちは、それぞれに役割があることがわかった。


 いつも先頭にいるのが司令担当(リーダー)、あとは、料理担当(クック)、掃除・洗濯担当(クリーン)、力仕事担当(パワー)、出稼ぎ・買い出し担当(マネー)、そしてカイザーをねめつけていたのが頭脳担当(ブレイン)といったところだ。カイザーはサイコパスであることを悟られないよう、得意の話術で小人たちをうまく懐柔していった。


 白雪は、鍵のかかった部屋にこもって研究をしているらしく、それぞれの小人たちが役目を果たす時だけ、一人ずつ部屋に出入りしているようだった。カイザーは何かと理由をつけ、白雪を一目見ようと試みたが、叶うことはなかった。

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