Mirror of Evil【悪を映す鏡】

いしも・ともり

第1話 カイザー王子

 ある国に、王様と美しいお妃さまがいた。やがてそれはそれは美しい王子が生まれ、「カイザー」と名付けられた。カイザーは、お妃さまに溺愛され、美しい容姿、健康な肉体、明晰な頭脳に恵まれ、すくすくと育った。しかし…。


「おい、執事。この朝食はなんだ?作ったシェフを呼べ。」

「王子様、いかがいたしましたか?原材料も、調理法も、調味料の配合も、

仰せのままにお作りしましたが…。」

カタカタと震えながら、話すシェフ。


「何を勝手に話している。サラダの量が3グラムほど足りなかったのだが、

どういうことだ?指示した通りになっていない。」

「も、申し訳ございません。ちょ、懲罰だけは、お、お許しください。」

「独房へ連れていけ。」

ニヤリと笑う王子。


「おい、召使。今日、おまえは、赤の服を用意したな。」

「はい――。王子様が昨日、明日は赤の服をお召しになるとおっしゃったので、

準備させていただきました…。」

「あれは、昨日の気分だ。たった今、青の気分になったのだ。」

「も、申し訳ございません。」

「気分を害したから、おまえが何か私の気分が良くなることをしろ。」

薄ら笑う王子。


 片方の口角だけを上げてニヤリと笑い、理不尽なことを通すのは王子の日常だった。嘘をつき、人の心を巧みに操り、騙しても罪悪感もなければ、何に対しても愛着もない。しかし、巧妙な話術と心理戦は魅力的で、彼に好意を抱く者も多くいた。

 彼は典型的な【精神病質者(サイコパス)】だった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る