未だに大好きな元カノ幼馴染が、俺と結婚する未来を見ているらしい

黒野マル

1話  俺と結婚した未来を見たと?

「それで、俺と結婚した未来を見たと?」

「……うん」



誰もいない週末のリビング。


自分の元カノ幼馴染の話を聞いた日比谷蓮ひびやれんは、素早くスマホを取り出した。



「うん?なんでスマホ?」

「ちょっと119」

「なんで119?」

「うん?目の前に患者がいるじゃん」



その瞬間、バタン!とテーブルを吹き飛ばして、元カノ幼馴染―――七瀬莉愛ななせりあは満面の笑顔で、蓮の胸倉を掴み上げる。



「ねぇ、ふざけてるの?私はいたって真剣なのに、あんたはふざけてるわけ!?」

「ちょっ……ケホッ!ケホッ!悪かった!俺が悪かったから!」

「ふん!し~~らない」



莉愛はぷいっとそっぽむきながら、蓮の胸倉を掴んでいた手を離した。


完全に拗ねている。これまでの経験上、これはご機嫌を取らないと厄介なヤツだってことを、蓮はよく知っていた。


いつの間にか吹っ飛ばされたテーブルを定位置に戻しながら、蓮は思う。


こいつ、怒ると本当にゴリラみたいになるんだよな。



「今、ゴリラみたいって思ったでしょ」

「……ソ、ソンナコトナイデスヨ?」

「わたし帰る」

「待て!!待ってってば!久々にうちに来たんだろ?さぁ、さぁ。ゆっくりお茶でも飲みながら話を聞こうじゃないか!」



立ち上がろうとする莉愛をかろうじて落ち着かせて、蓮はふうと安堵の息をつく。


それから、さっき言われたこと……結婚した未来について、次々と質問をし始めた。



「で、これは念のための確認作業なんだけどさ」

「うん」

「俺は、高校を卒業したら君と結婚するってことで、間違いないんだよな?」

「……うん」

「それに、娘も二人産んで幸せな4人家庭を築くと?」

「……う、うん」

「そして、君はその未来をすべて夢の中で見た……と」

「………………………うん」



……狂ってるのか?


蓮が思わず顔をしかめると、莉愛は歯ぎしりをしながらまたもや胸倉を掴もうとした。


蓮は光の速度でその手を回避しながら、必死の弁明を始める。



「いや、でも聞いてみなよ!!誰だってこんな反応になるだろ!?別れて1年半も経ってようやく友達に戻ってるのに、急に結婚話なんだぞ!?」

「私だって知らないわよ!!でも、仕方ないじゃん!ここんとこ一か月ずっと同じ夢ばっか見てるんだから!大嫌いなあなたと結婚する夢を毎日見てるこっちの身にもなってよ!!」

「知るか!!大嫌いな元カノに急に変な内容聞かされた俺の身にもなってみろ!!」



……と、互いに大嫌いオンパレードを広げている二人だが。


二人の心の中は、実はこうであった。



『結婚!?!?!?いきなりすぎだろ、いや。でも本当に!?未来には本当に莉愛と結婚するのか!?くっそ、嬉し……じゃない!じゃない。俺たちは別れたんだし、こいつにはもっといい相手いるだろうし、うん……あまりはしゃぎすぎてもダメだろうな。うん、この気持ちは胸の中に留めておこう……』



そして、もう一方の莉愛は。



『大嫌いってなによ!!こっちは大好……じゃなくて!じゃなくて。大嫌いだけど!死ぬほど嫌いで憎んでもいるけど、でも少しは喜んでくれたっていいじゃない!なによ、その嫌そうな反応は!私の初めて全部奪ったくせに。昔は私のこと大好きだって何百回も言ってくれたくせに!!』



こんな感じで、二人はどうしても自分の気持ちに素直になれないのであった。


短い沈黙が流れて、莉愛と蓮はお互いを見つめ合う。


生まれた時から一緒だった。幼稚園に通う時にはもう、好きな人だった。


中学に入ってからは恋人になって、別れて中学3年になった時からはただの友達になって。


あまりにも色々な感情が混ざり合っている間柄だけど、でも……二人にとって、お互いが大切であることに変わりはなくて。



「……ふん、お前と結婚なんかするか」

「……こっちのセリフよ、バカ」



また、お互い素直になれないのも、相変わらずで。


二人は互いを傷つけるような言葉を投げながら、お互いそっぽ向く。



『『……こいつには、もっといい相手いるだろうし』』



これは両想いなくせに、結婚する未来が嬉しくてたまらないくせに、どうしても素直になれない思春期男女の物語。


そして結局、最後には夫婦として幸せに添い遂げる話。


莉愛は流し目で蓮を見つめた後に、しれっと言った。



「あ、それと、今日からこの家で住むことになったから」

「?」

「今日から、よろしくね?」

「いや、大事なことをサラッと言わないでくれる?」

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