第16話 私達の命からなの
ジャスがオーブに脅されていたその頃。
アウルとクロウは、村の入口まで来てようやくジャスが付いてきていないのに気がついた。
「あのヤロウ、歩くの遅すぎだろ」
「まあ、あんなに重い荷物持たせられてるから歩くのも遅くなるでしょ」
なだめるように言うクロウの顔を見て、アウルは一瞬何を言われているかわからないという顔をした。そしてすぐに気まずそうに頭をかいた。
「荷物に軽量化の魔法かけんの忘れてたわ」
「ええ、ほんとに忘れてたの?意地悪でわざとかけてなかったのかと思ってた」
「んなわけあるか。俺を何だと思ってたんだよ」
「意地悪さんだと思ってた」
「くそ、言えばよかっただろうが」
アウルはブツブツいいながら、来た道に向かって指を回す。
少しすると、遠くの方からジャスが見えない手に引きずられてきた。
襟首を掴まれるようにして引っ張られていたようで、ジャスは息を切らし、顔を真っ赤にしてアウルに抗議した。
「その、昨日からさあ、引きずるの、やめてくれよ」
「テメェが遅いのが悪いだろう。それに、触ると嫌がるだろうが」
「まあ、そうだけども」
ジャスは不貞腐れながら服を整えた。
「ちょっと!逃げるな!」
ジャスを追いかけるようにしてオーブが走ってきた。
「突然逃げて……一体どういうつもりで……」
ふと、ジャスの側に立っている二人の魔法使いに気づいて、急いで棍棒を構えた。
あからさまな敵意を向けるオーブに向ってアウルは高笑いしてみせた。
「俺達に向かって棍棒ごときで対抗しようとしているのか。滑稽なものだ」
「別にこんなもので魔法使いと戦えるとは思ってない。頼みを聞いてほしいだけ」
「時間が無い」
アウルは一蹴してオーブに背を向けてその場を立ち去ろうとした。
「弟子がどうなってもいいの?」
オーブがそう言うと、強い力でジャスの首根っこを掴んで引っ張った。思わずジャスはオーブの足元に転がる。
「何やってんだよテメェは」
アウルは呆れたようにジャスを見下ろす。
「いや。この子意外に力が強くて…」
顔を真っ赤にして言い訳する。
「お願い。神木を生き返らせる依頼を受けるのはやめて。うちの村はお前達に払えるようなお金はないんだ」
オーブはジャスの首根っこを掴んだまま必死に訴える。
「村長さんはかき集めるって言ってたよ」
クロウはオーブに向って優しく言った。
「払えるようなお金が本当に無いなら、俺たちはこのまま帰るよ。慈善事業じゃないし。でも一応村長さんに確認しないと」
「かき集めるのは、私達の命からなの……」
オーブが苦しそうに言う。
「不作の時の保存食とか、緊急用の医療用品や薬とか、そういうのを売り払ったの!それにこれから村が経営しているお医者さんや学校も潰すと言うのよ!それじゃあもう村に未来はないじゃない!賢い大人とか数少ないお金のある家庭は、皆村を出ていったわ!」
「そんな」
オーブの訴えにジャスは言葉を詰まらせた。
「そ、そんなにかかるの?依頼料って」
「ああ。この魔法が出来るのは俺くらいしかないしな。それに、こちらのリスクもある魔法だ」
アウルはオーブの訴えに、一切動じてはいないようだ。
「事情は分かったが、決めるのは村長だからな。ただの一介の村の小娘の言う事を聞いて、やめますってわけにはいかねぇな」
その言葉を聞いて、オーブはジャスの首根っこを再度掴んで棍棒を突きつける。
「苦しっ、もう少し優しく……」
「人質のつもりか?」
アウルは半笑いして、指を軽く回す。すると、ジャスはあっという間にオーブの手から離れて、アウルの足元に引きずられていった。
アウルは、唖然とするオーブに小馬鹿にするように言った。
「全く、魔法使いを脅して交渉出来ると本気で思ってんのか?そんな棒切れで」
「本気よ!」
オーブは泣きそうな顔で叫んだ。
「ねえ、落ち着いて」
さっきまで黙っていたクロウが間に割って入ってオーブに優しく話かける。
「俺達は仕事だからやっぱり村長さんの所に依頼の件で行かないと行けないんだ。でも君の話、ちゃんと今聞いたからね。一応君の言ったことについても考慮はするから、ね?」
オーブは顔を真っ赤にしたまま下を向いた。そしてそのまま何も言わずに走って行ってしまった。
「ちょっと!」
思わずジャスが追いかけようとするが、アウルはぐっとジャスの首根っこを引っ張る。
「ほっとけ。テメェが追いかけてもなんにもなんねぇだろ」
「そうだけども……クロウ、本当に彼女の言った事、考慮なんてするのか?」
「え?あぁ。まぁ、するだけ、ね」
悪気の無い顔でクロウは答える。
「あの子だって、本気で俺らを止めれるとは思ってないんじゃないかな。本気だったらもっと殺傷能力のある武器を用意するだろうし。本気で止められるとは思っていないけど、居ても立っても居られなくて思わず来てしまった、ってことじゃないかな」
そうだろうなとはジャスも思っていた。だからこそオーブの気持ちが痛いほどわかるのだ。なんせ自分なんて丸腰でアウルの所に乗り込んで来た身だ。
「やっぱりちょっとだけ、見てくる!」
ジャスはアウルを振りほどくと、オーブの走って行った方向に向って駆け出して行った。
「あーあ、行っちゃった。追いかける?」
「俺には人間の考える事なんてわかんねぇからな。時間もねぇだろ、先に行く。すぐ戻って来るだろ」
アウルは、クロウが思っていたよりあっさりとした顔で、先に立って歩き出した。
「意外。絶対にこっちついて来いって言いそうなのに」
「別に荷物さえ持って来れば、あとは仕事中は村のどこに行ってても……って」
ハッとアウルは自分の手を見つめて気付く。
「アイツ、俺の荷物持って行きやがった…」
「あら、今気付いた?」
「クソ…」
「まぁ、まず話しに行くだけだから。仕事までには戻ってくるでしょ」
仕方なく手ぶらまま、アウルとクロウは村の真ん中の小さな村役場に向かった。
村役場の隣には、真っ黒になって根本から折れている巨大な木の幹が佇んでいた。
焦げた匂いがまだ漂っており、焦げた部分が不気味な程だった。
「これが御神木でございます」
巨大な木の幹を見ている二人に、突然老人が話しかけてきた。
「突然申し訳ありません。私がこの村の長でございます」
と頭を下げる。
「この木を生き返らせるって依頼で間違いねぇか」
アウルは少し乱暴に木の幹をポンポン叩いてみる。
「ええ、その木は、千年もこの村を守ってきた御神木でございます。病気や寿命で枯れてしまうならまだしも、雷に打たれて折れるなんて、そんな不吉なことがあってはならないのです」
村長は少し口調を強めて言った。
「これでは、この村にどんな災難が起こるかわかったもんではありません。なので『死者をも蘇らせる大魔法使いアウル』様にお願いしたのです」
「相当依頼料が高いが、払えるんだな」
「…ええ。どんな事をしても払います」
どんな事をしても、ねえ。
横で聞いていたクロウは苦笑いする。そして一応確認してみる。
「一応聞くけど、それは村の総意?」
「え?ええ、村会議で決まったことですので」
「ふーん、村会議ね」
ごめんねさっきの彼女。村会議で決まってんなら考慮のしようがないね。
クロウは心の中で呟く。
そんなクロウの事はお構いなしに、アウルは神木をジロジロ観察し続けていた。
「一応、木の様子を見てからやるかどうか返事する。折れた原因が雷だけならやってやるが、実は病気にかかってて弱っちまってた、なんて事だったらやらねぇほうがいい」
「それは関係あるのですか?」
「病気のモン生き返らせんのは、意味ねぇんだよ」
アウルはそれ以上説明する気はない、という態度をとってみせた。
「さて、調べてぇが荷物をアイツが持ってっちまってるからなぁ」
アウルは頭をかいて呟いた。
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