第17話 征伐祭⑥
○○○
どこで食事しようかと迷っていたところ、知り合いのギルド職員とばったり会った。彼に話をすると、部屋を一室を借してくれることになった。そういうわけで俺達三人は、ギルドに向かうと指定された部屋に入り、テーブルに屋台の食べ物を広げて席についた。サガから勧められた赤いワインをクロエと俺のグラスに注ぎ、屋台で買ったオレンジジュースはクロアの前に置く。
まっ昼だけど許して欲しい。
「三人の無事と《封印迷宮》の完全攻略を祝って───」
俺達三人はグラスを掲げた。
「「「乾杯」」」
こくこくと喉を鳴らす弟クロアとは対照的に、兄クロエがぐぐいっと白い喉を見せ、杯を傾け一度で空にした。
「ふぅー、たまにはこういうのも良いね!」
「いきなりかよ」
「お酒は付き合いでたまに飲んでたんだけど、昼からってのが初めてでさ……いつかはやってみたいと思ってたんだぁ」
クロエが「昼からのお酒も乙なもんだね」と微笑んだ。
弟が快癒し、彼の肩の荷も下りたのだろう。
彼の笑顔がどこか幼く見えた。
そんな兄をじーっと見ているクロア。
「どうした?」
「いえ、いいなぁと思いまして……」
弟クロアが遠慮がちに呟いた。
あー、兄が飲んでるのを見て、羨ましく思ってたのか……けど、どうしたもんか……クロアは一応成人している(この世界的に)ので飲酒は可能であるが、ついこの間まで床に臥せっていたことを考えると……我慢した方がいいんじゃないか───と俺は考えていたが、
「こんな日だからね。けど、少しだけだよ」
兄クロエは、弟の前に新しいグラスを置くと、そこに控え目にワインを注いだ。
「そうだな……そうだよな」
こうした何気ない日常こそが、彼らの求めていたものだ。それを止めることこそが、野暮ってもんだろう。
◯◯◯
酒と食事は、会話を円滑にしてくれる。
アルコールが入って頬を赤く染めたテゾーロ兄弟も例の如く、《封印迷宮》での俺の話を聞きたがった。
「しゃあねぇなぁ」
へへ、目を輝かせやがって。
俺は仕方なさを装いながらも、少し得意気に、もう何度目かになる《封印迷宮》での話を始めた。
テゾーロ兄弟は、ほむほむと熱心に相槌を打ちながら俺の話に耳を傾けてくれた。するとどうだ? 俺の話も俄然ヒートアップするというものだ。
どうしてこうも迷宮話は人の心をくすぐるのだろうか?
アノンもミランも迷宮話大好きだったし、俺ももちろん好きだ。
と、ちょうどそこで、屋台飯を食べ過ぎたのかクロアが「けぷ」と喉を鳴らした。彼は、頬を赤らめて、両手で顔を覆うと、ささっと隣の兄の肩に顔に隠れた。
「気にすんなし。そんなのどうってことねーよ」
年頃の子は難しい。
そう言えば、中学に入った頃からヒカルも何かと恥ずかしがるようになった。
「それよりちょっと待ってろよ。シャーベットとさっきの凍らせたいちじくを用意してくっから」
三つの皿に氷菓と冷凍したいちじくを盛り付け、テーブルに置くと、ワインを追加しつつ、そいつをちびりちびりと口に運び、話を再開させた。
◯◯◯
《
「《
「そうそう、その《
どちらかというと普段は冷静そうなクロエだが、戦闘に関する質問を積極的に投げかけてきたりと前のめりだ。クロエのテンションが進行形で上がるのを感じる。
「まさかロウがあの《
クロエは興奮のあまり俺の両手を掴んでブンブンブンブンと振り回した。
だから《
そして「ふふん」と胸を張ってマジックバックから剣を取り出して見せた。
「こいつを見てくれ」
「これは……?」
「こいつは魔剣グラムだ」
「───ッ」
二人が息を呑んだのがわかった。
「魔剣グラムってあの魔剣グラムかい……?」
「ああ、その魔剣グラムで間違いない」
二人が
「ちょ、ちょっと見せてくれないかロウ」
「兄さん、僕にも」
実は剣収集が趣味だという兄クロエと、技術者の血が騒いだ弟クロアが二人揃って鼻息を荒くした。
「ふっふ、焦んなって」
「見てくれ。こいつをどう思う?」
俺が置いたのはもう一本の───
「「───魔剣グラム」」
兄弟の声がハモった。
「「えーーーーーっ!!」」
二人は今日一、一際大きな声を上げ、「どうしてなの!?」とか「何で!?」だとか騒ぎ始めた。
二人の反応が予想以上に良かったことに、俺も気を良くし、かつて一度自我を持たない《
そうこうする内に俺もさらにさらにヒートアップしてしまい、気が付けば一気に超龍の話までしていたのだった。
パチパチパチパチとクロアが拍手した。
全くもう、君達のそういう態度が演技だったとしたら俺は死ぬんだからね!!
◯◯◯
《
彼に関しては色々と話すと面倒なことが多かったからだ。
それに俺はどうも、自分の話ばかりしていた気がする。反省。
「そろそろ俺のことよりも二人の話が聞きたいかな」
俺は二人へと願い出た。
クロエは俺達と会った翌日以降、《
弟のクロアは自身が参加出来ないことを惜しみつつも、ポーションや魔力ポーションなどの製造を始めとしたバックアップに力を注いでいたのだという。それからどうも、《
俺達が出会ってからの話は今現在に繋がり、
「君達と約束した《封印迷宮》の件も片付いたし、クロアの心配もなくなったし、これから先しばらくの予定はないんだけどね、とりあえず二人で旅に出ようかって」
「旅……?」
「ああ、クロアが元気になったら二人で海を見に行こうって約束しててね」
「《
「あー、大丈夫大丈夫。 今引き継ぎしてるとこだから」
「引き継ぎ……ってえぇぇぇーー!? ナンデェ!! クランナンデェ!!」
「何をそんなに驚いてるんだ。ウチのクランの売りはメンバーの育成だからね。後進に関しては申し分ないよ。次のクランマスターにしても後継するに相応しい、人格と能力を兼ね備えた人物だから問題はないよ」
「別に、やめることはないじゃねぇか。長期休暇でも取って休めば───」
「それなんだけどね、これからの人生は私とクロアのやりたいようにやろうって二人で決めたんだ」
クロエが弟の方へと顔を向けた。
「僕達、もう決めたんです。これまで二人で出来なかったことをたーーっくさんしようって!」
彼は俺にとびっきりの微笑みを見せてくれた。
俺はそれだけで、胸がいっぱいになった。
「なら、よかった。そうだよな」
目を輝かせて祭の屋台を見て回るクロアと、それを温かい目で見守るクロエの姿が自然と思い起こされた。
「二人は我慢してきたんだ。
これからはやりたいことをやればいいと思う。二人なら探索者がしたくなればいつでも出来るしな」
俺の言葉に二人は頷いた。
「それにね」
弟クロアが切り出すと、
「私達は、ロウ───君に報いたいと思ってるんだ」
兄クロエがそう結んだ。
「『報いたい』って……何言ってんだよ。もうこれ以上は何もいらねーよ。《封印迷宮》では世話になったし、こうやって元気な姿を見せてくれて、感謝の言葉ももらった。俺はそれだけでいい。礼なら十分だ」
クロエが俺をじろっと見た。
「ロウがさっき言ったんだ、『これからはやりたいことをやればいいと思う』って」
クロアがそれを見て堪えきれずに「あはは」と笑った。
「論破されちったぜ」
ぐうの音もでない論破。略してぐう論。
俺の敗北宣言を皮切りに、三人で笑いあったのだった。
宴もたけなわ。
二人からはディナーに誘われたが、俺は謝罪しこれを辞した。
俺はセンセイに顔を見せて、セナのいる隠れ山に帰るのだ。
「またな」
しばらくは彼らもこの街でお世話になるそうで、それなら今回の穴埋めにまた今度会おうという約束をし、俺達は別れた。
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数日宣伝をさせてもらいます。
1つ目ですが、近況ノートにて
プルミーとクラインの訓練のお話が解放されておりますのでよろしければ……
最新の近況ノートではコミカライズの情報など色々とや報告をしてしています。
よろしければお目通しください!
それから11/19に紙版のコミカライズ1巻2巻同時発売します!
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来週水曜日にも12話(2)が更新されます!
よろしくお願いします。
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