第7話 英雄の凱旋①
◇◇◇
《
これからする話は、当のヤマダが《
◇◇◇
彼は目覚めと共に心地良い気怠さを覚えた。
昨日、四人もの従順な女性を相手にし、彼女らの中に大量の精を吐き出したからだ。
それこそが彼───竜宮院王子にとってのカタルシスであった。
閨を共にした女性の内二人は目を覚まし朝食の用意を、残る二人は竜宮院王子の腕を枕に未だ夢の世界であった。
「起きたまえ」
勇者が面倒くさそうに二人の女性をどかすと、彼女達は「はっ! すいません!」などと謝罪し、急いでベッドから立ち上がった。
「まったく。君達は本当に───」
彼は髪をかき上げると、一つわざとらしい溜息を
「いくら僕との行為が気持ち良かったとはいえ、僕よりも遅く起きるというのは如何なものだろうか? 僕は人類の救世主たる勇者だ。そんなことぐらい子供でも知っている。
なのに君達といえば、僕への敬意はそっちのけで、僕との行為で頭の中がいっぱいだ。君達二人は人間ではなく雌猫か何かなのかな?」
彼はまるで女性ファッション誌で特集を組まれた男性アイドルのようにベッドの上でスタイリッシュに脚を組んだ。ちょうどそこに朝食が運ばれた。
「彼女達を見習いたまえ。うん、君達二人は良くできたね」
彼は白い歯を輝かせながら立ち上がると、朝食を用意した二人に「ホラ、ご褒美だ」と頬にキスをし、頭を優しく撫でた。撫でたついでに髪を
「君、いいねぇ」
彼が褒めるとその女性は頬を赤らめた。
「ありがとうございますっ! きゃっ! 勇者様に褒められちゃったっ!!」
すると隣の女性も、
「わあ! 羨ましいー! 勇者様! ずるいですわー! ずるいですわー! 私も一緒に朝ご飯を作りましたのにー!」
勇者である竜宮院の腕を掴んで、自分も褒めろと主張した。
「はっは! そうだよね! ごめんよ、君もよくやった。僕は公平公正な人間だからね!」
竜宮院はそう言うと、おもむろに彼女を抱き締め、首筋に顔を埋めた。彼は舌を出すと小刻みに首を振り、彼女の肌を堪能したのだった。
「どうだい? 僕のご褒美の味は!!」
味わったのはお前だろとは誰もツッコまなかった。代わりに先程まで竜宮院から寝過ごしたことを咎められ、叱咤されていた二人が声を合わせて謝罪した。
「「勇者様、大変失礼しました! ですので、どうか、どうか、私にお情けを……」」
竜宮院は彼女達の、求める声を聞くと、カラカラに渇いた喉にキンキンに冷えたビールを流し込んだときのような表情を浮かべた。
「あーー! あーー! あーー! あーー! これなんだよ!! これこそが僕の求めていたものなんだよ!!」
ここから竜宮院はヒートアップする。
彼は両腕を目いっぱいに広げて、歌うように叫んだ。
「勇者業には過度なストレスは付き物! 神様は僕を見てくれているんだ!! まさに神の与えし魂の洗濯というやつだ!!」
そうだろ? という表情を四人に向けると、彼女達もそれぞれ竜宮院を褒めそやした。
「さすが勇者様ですわー!」
「誰も真似出来ませんわー!」
「護国救世の勇者様とは竜宮院様のことですわー!」
「まさにその姿は稀代の英雄の如しですわー! ですわー!」
次々と投げ掛けられる称賛の声───その最後を竜宮院は聞き逃さなかった。
「君は今、何て言ったの?」
「え、『稀代の英雄の如し』と───」
竜宮院が勿体ぶった表情で、クイズ番組司会者の如きウザさで、口をゆっくりとゆっくりと開いた。
「それだよ! 君!」
「え? え?」
「『稀代の英雄 竜宮院王子』! 素晴らしい響きじゃないか!」
その瞬間、彼の興奮を察知したのか、その場の四人全員が竜宮院に対して割れんばかりの拍手を送った。
「そうそう、君達は僕の話をもう聞いたかい?」
「え、何をですか?」
竜宮院の問い掛けに女性の一人が聞き返した。
「何だい、君、知らないのかい?」
彼が落胆したように「はぁー!」とこれみよがしで大きな溜め息を
「こんな後進世界の人間に説明しても理解するには難しいことかもしれないけど───」
彼は一々、大物然とした態度を取る。
それをウザいと思わないのか、彼女達は下手に出て、彼を過剰にヨイショして持ち上げ、彼に喜んで叱咤される。
「まあ、いい。教えてあげようじゃないか。情報ってのは金に等しい価値を持つ。僕がいた世界にはね、『情報を制するものが勝負を制する』という言葉があるくらい、情報の価値に重きを置いている」
わーすごいー! わー! すごすぎですー! すごいのですー! と四人の女性が次々と歓声を上げた。それにさらに気分を良くした竜宮院が講釈を続けた。
「そういうわけだから、これからは君達も、いち早く情報を得るために努力をしなければいけない。けど、今回は特別だ。僕が何があったのかを教えてあげようじゃないか」
「教えてくださいー! お願いしますー!」
彼のテンションは鰻登りどころか、滝を登って虹の先に到達しそうなほどであった。彼はゼロ年代初期に流行したパラパラダンスにも似た腕の動きと共に、彼に思う最高にカッコいいポーズ(竜宮院的感覚)を決め、おもむろに口を開いた。
「それはね、ずばり、僕が《封印迷宮》を攻略したということさ」
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